浮気の証拠が……出てこない‼ 1
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「どういうことだ」
執事フロベールの報告を聞いて、クロードは顔を上げた。
「ですから、奥様がこそこそと何やら商売をはじめられたようです」
「意味がわからない。詳しく説明しろ」
奥様、という単語に顔をしかめつつ、クロードは説明を求める。
結婚式を挙げた以上、あの女――エルヴィールがクロードの妻であることは事実だ。
しかし、クロードはその事実を、どうしても認めたくなかった。
プライセル伯爵家の次女、エルヴィールは社交界では有名だった。
誰もその姿を見たことがない、という噂も同じように有名だが、それに輪をかけて有名なのが「男好き」と「尻軽」の二つ名だ。
エルヴィールの姉であるフランセットによると、エルヴィールはちょっと見目のいい男を見つけるとすぐに言い寄り関係を持ち、貢がせるだけ貢がせて捨てると言うのである。
捨てられた男の方はプライドもあるのか、自ら自分の不名誉な話をしないため、どこの誰と関係を持っていたという詳しい情報はなかったが、姉であるフランセットが言うのだ、間違いではあるまい。
おおかた、社交界で顔を見ないと言うのも、「裏のパーティー」ばかりに出席しているからだろう。
表向きの社交パーティーとは別に、一部の享楽的な貴族が「仮面パーティー」などという、一夜の戯れを目的にしたふざけたパーティーを開いていることを、クロードも知っていた。
そう言った場所ばかりに出かけるから、エルヴィールは社交界では姿を見ないのだ。
エルヴィールの姉、フランセットは、儚げな顔立ちをした美人である。
いつも妹の素行を嘆いていて、家でも妹につらく当たられると言って顔を曇らせていた。
そんな彼女を助けたくて求婚したのに、蓋をあければエルヴィールを押し付けられたクロードとしては、そんなエルヴィールを妻とは認められないのである。
きっと、エルヴィールが我儘を言ったに違いない。
フェルスター伯爵家はかなりの資産家である。
借金まみれのプライセル侯爵家より、我が家に嫁いだほうが贅沢三昧できると考えたのだろう。ふざけた女だ。
イライラしながらそこまで考えて、クロードはふと、結婚式の日のことを思い出した。
好きでもない尻軽女を妻にしてしまった忌々しさから、つい「愛するつもりはない」などと宣言したのだけれど、それに対してあの女は、「愛していただかなくて結構です」と啖呵を切ったのだ。
(ふんっ、要するに、金さえあればそれでいいということか? ふざけやがって)
愛するつもりはないと言ったが、愛さなくていいと返されると、それはそれで腹が立つ。
結婚式の日にはじめて見た「エルヴィール」は、なるほど、男を手玉に取るだけあって美人だった。
フランセットを月と表現するなら、エルヴィールは太陽のようだ。ハッと目を引く、大輪の花のような美人である。
結婚式のときに、ついつい目を奪われてしまったのは否めない。
だからこそ、そんな自分に余計に腹が立って、むしゃくしゃしたのだけど。
「つまり、あれは銀行の口座を開設し、稼いだ金をそちらに預け入れていると? 我が家から盗まれた可能性は」
「今のところございません。奥様は部屋から一歩もお出になりませんから」
「……なるほど。では、そのレース編みのピアス? とやらで稼いでいるのは本当か?」
「はい。商業ギルドに問い合わせたところ、すでに奥様の名義で販売契約がされておりました。売り上げもいいそうです」
「部屋から出ていないのにどうやって契約を?」
「それは、メイドのジュリーを使いに出しているようです」
「ジュリー……、ああ、専属メイドにしなければ訴えるなどと言われたと言っていたあのメイドか」
「左様でございます」
「脅された割に仲良くやっているじゃないか」
「……まあ、そうでございますね」
フロベールは困ったような顔で苦笑する。
「旦那様の指示通り、ジュリー以外の使用人については、奥様には近づかないように伝えておりますが、専属メイドですから、どうしてもほだされることもございましょう」
「まあいい。問題はその商売についてだ。何故そのようなことをはじめたんだ」
「それは、直接お訊ねにならなければわからないかと」
クロードははあ、と息を吐き出して、首を横に振った。
「しばらく監視しろ。おかしな動きがあればすぐに報告するんだ」
「かしこまりました」
金目当てで嫁いで来たのだろうが、そうはいかない。
(この家で好き勝手なことができると思うなよ)
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