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不穏を呼ぶ「白い包み」 6

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 養子縁組の手続きはすぐに終わった。

 わたしの養父母になってくれたのは、カルリエ伯爵夫妻である。つまりダニエルと義理の兄弟となったわけだ。

 カルリエ伯爵夫妻はとても温かい人で、わたしが難を逃れるためだけの養子縁組にも関わらず、これから仲良くしていきましょうねと言ってくれた。

 わたしも、この優しい人たちといい関係が築ければ嬉しいなと思う。

 そしてそれ以上に、姉が関わっている違法薬物問題で彼らが不利益を被らないように注意しなければならないとも思った。


 そんなわたしの心の内を知ってか知らずか、クロードは時間が取れればわたしの側についていてくれるようになった。

 一人になると、余計な心配をしてしまうわたしに、毎回「大丈夫だ」という言葉をくれる。


「ガブリエルから手紙が来ました」


 養子縁組の手続きが完了してから三日後、待ちに待っていたガブリエルから手紙が届いた。

 封を切ると、明日か明後日に商業ギルドに来てほしいと書いてある。


「明日の午後にしてほしい。午前中は用事があるんだ」

「わかりました。返信しておきますね」


 わたしはガブリエルの手紙に明日の午後クロードと一緒に行く旨を書いて、使用人に手紙をとどけてくれるように言づけた。


 ――そして、翌日。


 わたしがクロードと共に商業ギルドに入ると、すでに話が通してあったのか、受付に並ぶことなく二階の商談ルームに案内される。

 部屋で待っていると、すぐにガブリエルがやって来た。


「夫人、いらっしゃい。それからフェルスター伯爵、お初にお目にかかります。ガブリエルと申します」

「妻がお世話になっている。……ギルド長と聞いていたが、若いな」

「まあ、こういう商売ですからね」


 ガブリエルは明言を避けたが、要するに実力主義ということである。情報屋のトップは、ただ机に座って書類を整理していればいいというものではないのだ。ときに自分が動く必要も出てくるため、実力がなければ務まらない。

 クロードとガブリエルが挨拶を交わしたところで、さっそく本題に入った。

 ガブリエルが三枚ほどの紙をテーブルの上に置く。


「この一週間で集められた情報だ。君の姉フランセットは、違法薬物の売買をしている。そしてこれが、俺の方で集めることができたフランセットの顧客リストだ。見事に男ばかりだな」


 ずらりと並ぶ名前に、わたしは思わず瞠目した。よくこの短期間でこれだけの情報を調べることができたものだ。金貨一枚では割に合わなかっただろう。


「君たちの情報網はすごいな……」


 クロードも紙に書かれた名前を確認しながら感嘆の声を上げた。


「それにしても若い貴族の男ばかり……しかも、エルヴィール、ここに書かれている名前の多くが、君と関係があって、そして捨てられたと噂になっているものばかりだぞ」

「姉は、男性をとっかえひっかえしていたのではなくて、薬を売りさばいていたということですね」


 そして男に貢がせていたのではなくて、薬を売った金で贅沢をしていたのだ。

 いくら美人でも、あれだけ多くの男が姉の毒牙にかかったのはおかしいと思っていたが、これで納得がいった。姉の美貌や色気にやられたのではなく、薬のつながりだったのだ。

 だが、世間的に違法薬物を売買しているなんて知られるわけにはいかないから、わたしの名前を使って、男女の関係があったように匂わせていたのである。男の方も違法薬物を購入したなんて知られるわけにはいかないから、姉とぐるになって情報を発信していたのだろう。通りでおかしな噂がぽこぽこ立つわけだ。


「フランセットはパーティーで知り合った男に薬物をばらまいていたのだろうな。常習性がある薬物だ、飲み物に混ぜて摂取させ、その後それとなく取引を持ち掛ければ引っかかる男も多かっただろう」

「呑気なことを言っていますがね、伯爵。おそらくあなたも彼女のターゲットの一人にされていたはずですよ。うまく引っかからなかったから諦めたのだと思いますけど」


 ……あ。


 そうか、なるほど。

 姉がクロードに接触し、わたしの悪口を吹き込んだのは彼に同情させて親密になるためだったのだ。そして、ある程度親密になったところで薬を摂取させるつもりだったのだろう。

 だけどクロードは真面目だから、結婚前に未婚の女性と距離を縮めるようなことはしない。

 それどころか、フランセットに同情して求婚までしてきた。

 フランセットにとって誤算だったのは、クロードがプライセル家の援助をちらつかせたため父が乗り気になったことである。

 後に引けなくなったフランセットは、わたしを身代わりに立てたのだ。


 一つずつ疑問が解けていく。

 同時に、沸々とした怒りがわいてきた。


「闇賭博場については、もともとプライセル侯爵が出入りしていたみたいだよ。フランセットはどこかでその情報を聞きつけ潜り込み、違法薬物を手にしたのだろう。侯爵が薬物の存在を知っているかどうかはわからないけどね」

「……お父様が領地のお金を使いつくして借金までしたのは、普通の賭博場じゃなくて闇賭博場だったからなのね」


 闇賭博場は掛け金がとても大きいという。そんなところに出入りしていたら、あっというまに大金を刷ってしまうだろう。


「エルヴィール、侯爵はもう君の父親ではないし、フランセットも君の姉ではないよ」


 つい癖で父とか姉とか呼んでいたら、クロードが苦笑交じりに訂正してきた。

 そうだった。養子縁組を終えて縁を切ったから、彼らはわたしの家族ではない。

 ガブリエルが面白そうに肩眉を上げた。


「そちらはそちらで動いていたようですね」

「当然だろう。妻を守るために手を尽くすのは夫の務めだ」

「ほーぅ?」


 ガブリエルが面白そうな顔をわたしに向けてきた。

 おおかた「離婚を目論んでいたのにねえ?」とでも言いたいのだろう。居心地が悪くなって、わたしはついと視線を反らす。


「それで、どうします? これ以上の調査は、応相談ですよ」


 ガブリエルが親指と人差し指で輪っかを作った。お金、ということだ。

 クロードは名前の書かれたリストを確認しながら、大きく頷く。


「こちらの想像以上の情報だった。これから先は、できればこちらと連携を取ってほしいのだが、それも可能だろうか」

「もちろん。というか、闇賭博場は潰す機会はこちらとしても逃したくないんですよね。こっちとしても客を取られて迷惑していましたから」


 合法の賭博場の運営は商業ギルドが行っている。つまり、闇賭博場に客が流れれば、それだけ収入が減るということだ。裏ギルドのギルド長であるガブリエルとしても面白くなかったのだろう。


「ですから、闇賭博場を潰す確約をいただけるなら、情報料は安くしておきますよ。まあ、危険料はいただきますがね」


 ……情報料と危険料って、何が違うのかしら?


 調査に対する費用なのだから同じだと思うのだが、ガブリエルの中では違うのだろう。


「わかった。それについては問題ない。俺が支払うか国が支払うかはわからないが、相応の対価は用意しよう。……君は、騎士団と連携を取ってほしい」

「了解しました。連絡係は用意してくださいますか?」

「ああ、こちらで用意する」


 話がトントンと進んでいく。

 ちょっと、置いてきぼり感を食らって、わたしはクロードを見た。


「旦那様、わたしは?」

「君は待機……と言いたいところだが、やってもらいたいことがある。万が一に備えてな」


 念には念をだ、と言って、クロードが笑った。






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次で最終話です(*^^*)

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