不穏を呼ぶ「白い包み」 5
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わたしは一度大きく息を吸い込んで吐き出した。
話の重大さから、自然と呼吸が浅くなっていたからだ。
……クロードは、こんな状況になっていても、わたしとの離婚は考えていないのね。
普通なら、そんな厄介な実家を持っている妻とはとっとと縁切りして家を守ろうとするだろう。貴族とはそういうものだ。だけどクロードは、この状況でもわたしを守ろうと動いてくれている。
クロードがここまでしてくれているのだ。わたしに彼の真心を無下にするなんてできない。
できない……のだけど、本当にいいのだろうかと不安にもなる。
縁を切ったところで、わたしがプライセル侯爵家の娘だった事実は消えてなくならない。
ただでさえ不名誉な噂が立っているのだ。必ず口さがないものは出てくる。
養子縁組を受けたところで、わたしの存在はクロードにとってプラスにはならない。
彼のためを思うなら、わたしはここで身を引くべきじゃないのか。
そう思うと同時に、クロードと離れたくないと思う自分がいた。
「わたしと……このまま婚姻関係を続けて、クロードは後悔しませんか?」
「するわけがない」
クロードは即答する。
一瞬たりとも考えるそぶりがなかった彼の様子に、わたしは自然と体の力が抜けた。
クロードは、わたしを選んでくれたのだ。
ならばわたしも、彼のためにできる限りのことをするまでである。
「わかりました。養子縁組を受けます。……それから、この件でわたしからも報告があります」
わたしも覚悟を決めた。
わたしは前世の記憶を持っていることを伏せ、それ以外のことを洗いざらいクロードに説明した。
結婚してからわたしが彼と離婚するために裏商業ギルドに彼の近辺を探ってもらっていたこと。
裏商業ギルドから、クロードがブラック・フォックスに出入りしているという情報をもらっていたこと。
最後に、先日、フランセットの近辺の調査依頼をガブリエルにかけたこと。
すべてを話した。
クロードは驚いていたけれど、やがて真顔でわたしの顔を覗き込んでくる。
「……もう、離婚は考えていない?」
気になるのはまずそこなのかと、わたしは目を丸くしながら頷いた。
「は、はい……」
「そうか。よかった」
クロードはホッと息を吐いて、考えるように視線を落とした。
「しかし、裏商業ギルドか。そのような組織があると耳にしたことはあったけれど、情報集めに利用しようと考えたことがなかったな。エルヴィール、君から見て、そのガブリエルという男は信頼できるのか? それから情報収集能力に長けた男か?」
「信頼できると思っています。あちらも商売ですし……まあ、報酬は必要ですが。それから、情報収集能力についてもかなり高いです。あちこちにツテがあるようですし、正攻法では手に入らないような情報も彼なら集められると思います。……情報収集の難易度によって、必要なお金は跳ね上がりますけど」
「わかった。ならば……俺も、そのガブリエルという男に会いたい。会えるだろうか?」
「一週間後に連絡をくれるそうです。そのあとで商業ギルドに行くつもりですから、一緒に行きますか?」
「ああ、頼む。その前に養子縁組の手続きをしておこうと思うが、対外的にはしばらく黙っておくつもりだ。プライセル侯爵家から苦情が入る可能性が高いし、フランセットに勘付かれる恐れもあるからな」
「はい、その方がいいと思います」
突然わたしがほかの家と養子縁組なんてしたら、怪しまれてもおかしくなかった。
手続きだけ終えて、闇賭博場や違法薬物の摘発が終わった後で公表する方がいいだろう。
……すべてが終わったら、わたしからプライセルの名が消える。
そのことに安堵してしまうのは、わたしなのか、それとも「エルヴィール」としての記憶なのか。
もしかしたら両方かもしれないなと、わたしはクロードにしっかりとつながれた手を見下ろしながら、笑った。
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