不穏を呼ぶ「白い包み」 3
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一方その頃――
「本当か⁉」
「ああ、恐らくな」
クロードは、ルヴォア伯爵邸にいた。
邸にはダニエルもいて、三人でサロンに詰めている。
アルフレッドが提供した情報に、クロードは大きく目を見開き、ダニエルはぐぐっと眉を寄せていた。
「おいクロード、この情報が本当ならちとまずい。奥方との離縁を考えていないなら、早めに奥方と実家の縁を切れ。何なら奥方の養子縁組先を紹介してやる。……結婚後に養子縁組というのもあまりない例ではあるが、お前の家と縁続きになるなら喜んで手を上げる家は多いだろう」
ダニエルがいつになく真剣な顔で言った。
「そうだな。今の彼女はお前の妻だ。養子縁組をするにしても、実父のサインではなくお前のサインでいける」
結婚した時点でエルヴィールはクロードの、フェルスター伯爵家の一員となった。縁を切っていない現在実家とのつながりは残るが、エルヴィールをどうするかについては、彼女の実家の意思は必要なくなっている。
貴族の養子縁組にもいろいろあるが、結婚後に妻の実家と縁を切るために妻を他家と養子縁組させるケースはそうそうないだろう。かなり稀な例になり、エルヴィールにまた変な噂が立つのではないかと不安だが、この状況では背に腹は代えられない。
「ここまでの情報が揃えば、騎士団も動くだろう。……数十年ぶりの大取りものになるぞ。ダニエル。上層部の動きはどうなっているんだ?」
「これまで動くに動けなくてやきもきしていたが、ある程度の証拠は集まっている。今の話を上に通せば、何が何でも近いうちに動くはずだ」
「そうだろうな。クロード、養子縁組を急げ」
クロードは顎を引くようにして頷いた。
「ダニエル、頼めるか? できるだけ信頼できる……エルヴィールを傷つけない方に養子縁組を頼みたい」
「安心しろ。最初は俺の親父に声をかけてみる。もし親父がダメなら、叔父上あたりに頼むさ。相手をよく知らないような家を候補に上げたりしない。……まあたぶん、親父が手を上げると思うぜ? 娘がいたらお前の嫁にしたかったって昔言っていたからな」
「カルリエ伯爵か。それは心強いな」
カルリエ伯爵はブラントブルグ国の重鎮だ。国王とも親しく、今は国防省の大臣をしている。そして、キレものだが性格は穏やかで、不必要に人を攻撃しない人物だ。そんな彼がエルヴィールのバックについてくれるならこれほど心強いことはない。
「だがアルフレッド。もしそれが本当だとしても、関係者を一網打尽にするのは相当骨が折れるんじゃないか? すべての証拠を集めるのは無理があるだろう?」
「クロードの言う通りだ。俺たち騎士団も、上層部も、全部の情報を集めたわけではないし、関係している人間をすべて網羅しているわけじゃない」
「……さすがにネズミ一匹逃がさずに、というのは厳しいだろうな。だが、こちらが探っていることに気づかれて大勢に逃げられるよりはましだ。あちらに勘付かれる前に早めに手を打ちたい」
アルフレッドがちょっと悔しそうな顔でうめいた。できることなら関係者をすべて捕縛するのが理想だが、現実問題それはかなり厳しい。
「すまないな、エルヴィールの話を調べてくれなんて言わなければ、ここまで急ぐ必要も出てこなかっただろう」
「いや、逆にお前の奥方の話を調べなければここまでのことにたどり着けなかった。むしろ礼を言うよ」
「同感だ。まさか我が家のパーティーで堂々とあのような……。招待客は厳選したつもりなんだが、そのパートナーにまで制限はつけられないからな……。奥方が気づいてくれて助かったよ。全部終わったら礼が言いたいな」
「やめてくれ。たぶんそんなことをすれば、エルヴィールが恐縮する」
エルヴィールの性格上、自分が頼んだことで礼を言われたら困惑するだけだろう。ましてやダニエルにはこれから養子縁組も頼むのだ。こちらとしても礼を述べたいのだから、お互いが礼を言いあうというおかしな状況になる。
「わかった。じゃあ礼がわりに、未来の義兄として、義妹に不利益が出ないように精一杯働かせてもらうとするさ。親父との話がまとまったら連絡するから、書類の作成だけ頼む」
「わかった」
養子縁組なんて言ったら、エルヴィールは驚くだろうか。
けれども、彼女はプライセル侯爵家と縁を切りたがっていたし、予定とは違ったが、これはこれで悪くはない状況だろう。
(まさか、こんな大変な事態になるとは思わなかったがな)
クロードは苦笑し、さて、エルヴィールに何と説明したものかと悩んだ。
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