闇賭博と姉の秘密 9
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クロードと一曲踊ってしばらくおしゃべりを楽しんだあと、わたしはお手洗いを借りるために一度パーティー会場の外に出た。
クロードはお手洗いの近くまでついて来ようとしたのだけど、さすがにそれは恥ずかしかったので一人で向かう。会場の外でもカルリエ伯爵家の使用人がいるし、フランセットがわたしに悪意をぶつけることはないだろう。人目のあるところでそういうことはしないはずだ。姉の外面の良さは山より高いのだから。
会場からお手洗いまでは少し歩くが、招待客が迷子にならないように気を配っているのだろう、廊下には何人も使用人が立っていた。
そして、当然のようにダニエルの娘の肖像画が廊下にもたくさん飾られている。今日のためにいったい何枚の肖像画を描かせたのだろう。金持ちはお金の使い方が実に豪快である。
お手洗いをすませて会場に戻ろうとしたところで、わたしはふと、廊下の影に一組の男女がいることに気が付いた。
ちょうど影になるところなので、逢引きだろうかと少し恥ずかしくなったのだけど、そのうちの一人が知った顔だったのでびっくりして立ち止まる。
あちらはわたしには気づいていないようだった。
……あれはお姉様と……誰かしら?
フランセットが会場入りしたときに隣にいた男とは違う男だった。
体を寄せあい、親密そうに話をしているところを見ると恋人だろうかと思ったのだが、恋人がいるなら何故違う男を伴ってパーティーに参加したのだろうか。最初から彼と来ればよかったのに。
そう思っていると、フランセットが男の手を繋ぐ振りをして、何か小さなものを彼に手渡したのが見えた。
手紙にしては小さく、手のひらにすっぽりと収まるくらいの白い包みだった。
……何をしているのかしら?
非常に気になったが、いつまでもここに立ち尽くしていて姉に気づかれたらまずい。
わたしは彼らがわたしに気づく前に踵を返すと、クロードが待つ会場に戻った。
「おかえり、エルヴィール」
「お待たせしてごめんなさい」
クロードの隣に立ちながら、会場の中を見渡してみると、姉と一緒に会場入りした男は、壁際で友人たちと話をしている。
……本当に、どういうことかしら?
姉のことなど気にしなくていいと思うのに、どうしても引っかかった。
わざわざあんな隅で……人目を気にするようにして男と逢う理由がわからない。そんなに一目が気になるのなら、人の多いパーティーで逢うようなことはしないはずだと思ったからだ。
つまりは、この場所でなければならない理由があるのだろう。
「エルヴィール、どうした?」
わたしが考え込んでいたからだろうか、クロードが心配そうに顔を覗き込んできた。
「いえ……ええっと」
何と説明したものかと悩んでいると、姉が一人で会場に入ってくるのが見えた。
笑顔を浮かべて、壁際にいた同伴者の元へ歩いていく。
逢引きしていた男の姿は、ない。
……ここで余計なことを言うのは得策じゃないわよね。
だけど、やはり気になるのでクロードに相談したい。
わたしは悩んで、小声で返した。
「帰ってからご相談があります」
クロードは表情を引き締めると、短く「わかった」と答えた。
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