闇賭博と姉の秘密 7
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……お姉様が来る?
いや、むしろその可能性を考慮していなかったわたしがどうかしていたのかもしれない。
姉は昔からパーティーが好きで、有力貴族が開くパーティーにはあの手この手を使って参加していた。
今日のパーティーはカルリエ伯爵家の嫡男ダニエルが主催で、さらにダニエルは騎士団の出世頭である。フランセットが目をつけてもおかしくないパーティーだ。
クロードの手がわたしの肩に回されて、ぐっと引き寄せられた。
まるで大丈夫だと言っているように思えて、わたしは知らず知らずのうちに強張っていた肩の力を抜く。
わたしはもう、エルヴィール・フェルスター=プライセルだ。クロードの妻で、フェルスター伯爵家の人間。姉の暴力や横暴に怯える必要はどこにもないのだ。前世を思い出したことで、ただ怯えて過ごしていただけのエルヴィールでもない。今のわたしは、あの頃よりずっと強い。
……だから、大丈夫。
そう自分に言い聞かせるのだけど、体に、心に刻まれた「エルヴィール」としての人生が、姉が怖いと告げている。
いくらプライセル侯爵家を離れても、前世を思い出しても、あの家ですごしたエルヴィールの十八年の人生が消えてなくなるわけじゃない。
だからこそわたしは……逃げたかったのだから。
クロードと離婚することで、プライセル侯爵家との縁も完全に断ってしまいたかった。
遠くに逃げて、誰にも苛まれずに生きたかったのだ。
「フランセットが来ても、こんなところで君に悪意をぶつけられるわけない。心配しなくても俺がついている」
耳元でささやかれて、わたしはこくりと頷く。
その通りだ。
外面のいいフランセットが、人目の多いこんな場所でわたしに何かをすることはない。
これからクロードと共に生きていくのなら、社交界でフランセットと顔を合わせる機会もそれなりにあるだろう。そのたびに怯えてどうする。せっかくプライセル侯爵家から出られたのに、いつまでも過去に囚われていたくない。
「ありがとうございます、大丈夫です」
「ああ。もしつらくなったら言ってくれ。途中で切り上げて帰ろう」
わたしはもう一度頷いて、飲みかけのグラスに口をつける。
しゅわしゅわと口の中ではじけるスパークリングワインの小気味よい刺激に、気分が少しずつ落ち着いてきた。
……大丈夫。
もう一度自分に言い聞かせていると、玄関で招待客を出迎えていたダニエル夫妻が会場に入って来る。見渡せば、いつの間にかずいぶんと人が多くなっていた。
「今日は我が愛娘のはじめての誕生日祝いに集まってくれてありがとうございます! 娘は夢の中なのでご紹介できず残念ですが、こうしてたくさんの肖像画を用意しました! ぜひ、私の娘の可愛さを堪能してください。あ、ちなみにまだ婚約者の受付はしておりませんので縁談はお断りします」
ダニエルが冗談を交えて会場を沸かせて、「乾杯!」とグラスを掲げる。
わたしも周囲に合わせてグラスを掲げた。
到着が遅れているのか、まだフランセットの姿はない。
このまま現れなければいいなと心の隅で思っていると、そっと会場の後ろの扉が開いた。
視線を向けると、ゆるく波打つ銀髪にエメラルド色の瞳をした女性が入って来る。
フランセットだった。
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