闇賭博と姉の秘密 6
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馬車から降りると、玄関ホールでクロードの友人であるダニエル夫妻が出迎えてくれた。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「妻のエルヴィールだ」
わたしが失敗しないだろうかとドキドキしながらカーテシーで挨拶する横で、クロードがドヤ顔を浮かべていた。なんでドヤ顔、と思っていると、ダニエルが苦笑する。
「あーはいはい、アルフレッドから聞いていたけど、全身でのろけて来るな。いっとくが、今日の主役は俺の娘なんだ。のろけは聞かないからな」
そう言ってダニエルが視線を動かした先には、たくさんの肖像画が飾られていた。全部赤ちゃんのものだ。主役のダニエルの娘の肖像画だろうが……やりすぎではないだろうか。主張がすごい。
親の愛情を知らずに育ったわたしとしては、ダニエルの子供への愛情の深さ……というか重さに、驚くしかない。
クロードとダニエルのやりとりをあきれ半分で見つめていると、ダニエルの妻と目が合った。にこっと微笑まれたので微笑み返すと、つつつ……とこちらに近づいてくる。
「お会いできて光栄ですわ。うちの夫が暑苦しくて申し訳ありません。騎士団に所属している、どうもこう……暑苦しく」
……暑苦しいって二回言った!
だが、暑苦しいと言われたダニエルはどこ吹く風で笑っている。
ダニエルは第一騎士団に籍を置いているそうで、爵位を継ぐまではこのまま騎士団で過ごすつもりでいるらしい。出世頭で、クロードと同じ二十歳という年齢でもう第一騎士団内の一個隊を任されている立場だそうだ。
「会場に案内するよ。まだそれほど集まってはいないが、アルフレッドは来ていたぞ。奥方は仕事が抜けられなかったらしくて一人だから、相手をしてやってくれ。俺はもうしばらく玄関から動けそうにないんでね」
これから続々と招待客がやってくるのだ。主催者はしばらく挨拶に時間を取られるだろう。
ダニエルの代わりに使用人がパーティーホールへ案内してくれる。
パーティー会場に入って、クロードはぐるりと会場を見渡した後で、軽く手を上げた。
「いたいた、アルフレッド! エルヴィール、友人を紹介させてくれ」
クロードがわたしをエスコートしながら、丸いテーブルの近くでお酒を飲んでいた男に近づいていく。
彼がクロードの友人のアルフレッドらしい。
赤みがかった金髪に茶色い瞳のクロードと同じくらい背の高い男性だった。
アルフレッドが顔を上げ、どこか面白そうに目をまたたかせた。
「アルフレッド、妻のエルヴィールだ。エルヴィール、アルフレッドは俺の古くからの友人で、ルヴォア伯爵家の嫡男だ」
「こんにちは、お会いできて光栄です、夫人。クロードとは寄宿学校で知り合ったんですよ。ダニエルとクロードと俺の三人が同じ部屋だったんです」
「こちらこそ、お会いできて光栄です。機会があればその当時のお話もお伺いしたいですわ」
「よろこんで」
当たり障りのない挨拶を交わすと、テーブルの上に置かれていたドリンクを持って乾杯する。
「そういえばダニエルの娘へプレゼントを持って来たか?」
「いや、後日届けさせるつもりだ。招待客からいちいちプレゼントを受け取っていたらダニエルも大変だろうからな」
それを聞いて、クロードがホッと胸をなでおろす。
わたしもプレゼントの存在がすっかり頭から抜け落ちていたのでホッとした。
「そうしよう。正直一歳の女の子への誕生日プレゼントなんて何を贈ったらいいのかもわからないし、どうしたものかと思っていたんだ」
「おもちゃや人形でいいだろう。だいたい子供へのプレゼントなんてそんなもんだ。ダニエルも別にプレゼントを要求するためにパーティーを開いたわけじゃないんだし、何を贈っても文句なんて言わないさ」
「……そういえばあいつ、俺の娘が可愛いという自慢をしたいがために開くって言っていたな」
「そういうこと。あいつの延々と続く自慢話に笑顔で頷いてやるのが一番のプレゼントだろう」
「それはそれでいやだ……」
クロードが顔をしかめる。
玄関ホールやこの会場に飾られている娘の肖像画の数を見る限り、ダニエルの娘への愛情は天元突破していそうなので、確かに延々と自慢話を聞かされると言われると怖いものがある。
だが、真剣な顔で話しているクロードとアルフレッドを見ていると面白くて、わたしがついくすくす笑うと、二人が同時にこちらへ顔を向けた。
「エルヴィール、笑い事じゃないぞ。酒が入るとあいつは話が長くなる傾向にあるし、今日は娘の誕生日パーティーという名目がある以上絶対に遠慮なんてしないはずだ。本当に、耳に胼胝ができるほど聞かされるぞ」
「クロードの奥方は可愛いな。うちの妻だったら、こんな話をしていたら『何を下らないことを言っているんですか』とあきれられるところだ」
「エルヴィールは俺の妻だ」
「何を牽制してるんだ、取りやしないさ。まったく」
アルフレッドがあきれ顔で肩をすくめる。
そして、彼はさっと周囲に視線を這わせて、声のトーンを少し落とした。
「……ダニエルから伝えてくれと言われているんだが、すまない、手違いが起きた。ダニエルの妻の友人の弟が今日ここに招待されているんだが……どうやら、彼はパートナーに夫人の姉を連れて来るらしい。大丈夫だろうが、用心してくれ」
わたしの心臓が、ざわりと揺れた。





