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【書籍化】円満離婚を勝ち取るため、浮気調査はじめます  作者: 狭山ひびき


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闇賭博と姉の秘密 4

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 夜。


 ベッドの用意をすませてジュリーが下がると、ベッドの縁に腰かけて、わたしはクロードに話を切り出した。

 彼は寝酒を飲まないので、お互いの手にあるのは無糖のハーブティーだ。


「仕立て屋を呼ぶのはもちろん構わない。エルヴィールは所持しているドレスが少なすぎるとモルガーヌから聞いた。今後のこともあるんだ、いくらでも買ってくれてかまわない」

「そんなにたくさんはいりませんが……、今後のことということは、やっぱり社交シーズンがはじまったらパーティーに出席する必要があるんですね」

「君が気乗りしないなら、と言いたいところだが、少なくとも数回は一緒に行ってもらう必要が出るかもしれない。その……、俺も既婚者になったし、パートナー必須の夜会に呼ばれることもあるだろう。そのときに君以外の女性を連れていくなんてしたくないし、そんなことをすればおかしな噂が立つ」


 ……そうね。わたしも、これ以上おかしな噂はいらないわ。


 ただでさえ不名誉な噂ばかりなのだ。この上、嫁いだくせに妻の義務も果たしていないなんて思われたらどうなるか。


「心配しなくても、出席するパーティーは極力選ぶようにするし、君を傷つけるような人間からは絶対に守ってみせる。……それでも、いやか?」


 わたしが視線を落として黙ったので、悩んでいると思われたのかもしれない。

 顔を上げて首を横に振ると、クロードがホッとした顔になる。


「あの腹立たしい噂も、君の姿を誰も見たことがないから広がっているのかもしれない。君が社交界に出れば、君を知れば、おのずと落ち着くと思うよ」

「そうでしょうか」

「ああ。君は素敵な女性だ」


 さらりと言われて、わたしは恥ずかしくなってうつむく。

 まっすぐな人は、ときおりびっくりするようなことをストレートに口にするのだから困ってしまう。


「肩慣らしというわけではないが、社交シーズンに先駆けて、一月半後に知人の伯爵家でパーティーがあるんだ。知人の娘の一歳の誕生祝いでね。一歳だから主役は参加しないんだが……、たぶん自慢話がしたいんだと思う。若い人間ばかり集まるパーティーで、俺の友人やその友人ばかり集まるものだから、よかったら参加してみないか?」


 確かに、年かさの人が大勢いるパーティーにいきなり出席するよりは、若い人たちだけが集まるパーティーの方が最初に参加するものとしては気が楽でいいだろう。いきなり敷居の高いパーティーに出席して失敗するよりずっといい。


「……娘さんのお祝いなんて、素敵ですね」


 わたしは、思い返してみる限り、誕生祝なんてしてもらったことがない。前世ではもちろんあるけれど、エルヴィールとして誰かに誕生日を祝われた記憶は一度もなかった。


「俺たちに子供が出来たらぜひ真似をしよう」

「子……」

「あ! も、もちろん、将来の話だ。将来の!」


 将来の、ということは、クロードはわたしとずっと一緒にいるつもりでいてくれているのだろうか。

 顔を赤くして狼狽えるクロードが何だか可愛くて、つい笑ってしまった。

 クロードは赤い顔でこほんと一つ咳ばらいをする。


「子供の前に、君だな! 君は冬生まれだろう? 今年十九歳だ」

「知っていたんですか?」

「妻の情報くらい知っている……と、言いたいところだけど、つい最近調べたばかりだ。情けない夫ですまない」

「いえ!」


 むしろ、誕生日を調べてもらえるなんて思わなかった。というか、直接聞いてくれてもよかったのに、わざわざ調べたなんてクロードらしい。妻の誕生日を知らないことに罪の意識を覚えたのかもしれない。おかしな人だ。

 クロードはわたしの手をきゅっと握る。


「誕生日には、パーティーをしよう。人を呼びたくないなら家族だけでもいい。君の誕生日を祝いたい」


 ……家族、か。


 クロードは、わたしを家族だと思ってくれているのだろうか。なんだかくすぐったい。


「いいですね。……誕生日をお祝いしてもらえるなんて、はじめてで嬉しいです」

「はじめて……」


 わたしは本当に嬉しかったのに、クロードは何故か傷ついた顔をして、そっとわたしを抱き寄せた。きゅっと腕に抱き込まれて、わたしはきょとんとしてしまう。


「君はたくさん幸せになるべきだ。俺が絶対に、たくさん楽しくて幸せなことを教えてやるから」


 そんなに、切ない声でささやかないでほしい。

 だってわたしは、昔のことなんてどうでもいいと思えるくらいには、今が楽しいと思えている。

 そしてこれからも、幸せな日々は続くだろう。

 クロードが、未来の話をしてくれたから。


「……楽しみにしています」


 クロードの腕の中で顔を上げて微笑めば、切ない顔をしたクロードが、わたしの額に触れるだけのキスを落とす。


 そして顔を上げて――、そのあと唇が重なるのは、必然だった。




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