闇賭博と姉の秘密 3
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「ジュリー、侍女について学ぶのは大変じゃない?」
ジュリーがメイドから侍女になることが決まって五日。
わたし専属メイドだった時は仕事に余裕があったのだけど、侍女の心得をモルガーヌに教わりはじめたジュリーは目に見えて忙しそうになった。
わたしが余計なことを言ったばかりに迷惑をかけてしまっただろうかと心配になっていると、ジュリーはモルガーヌから与えられた課題「ドレスと宝石類の管理台帳」へわたしの持ち物を記入しながら振り返る。
「大変じゃないですよ! わたし、本当に嬉しいんです! お給金も上がったし、わたしのような勉強もほとんどしてこなかった平民のメイドが侍女に抜擢されることなんて滅多にないんですから!」
家族にも自慢しました、とジュリーが楽しそうに笑う。
「ちゃんと侍女の心得も仕事もマスターして、奥様の役に立って見せます!」
……ああもう、ジュリーは本当にいい子だわ! こんな素直な子、今時珍しいんじゃないかしら?
やっぱり、わたしにはジュリー一人で充分だわ。下手に貴族の侍女なんていれて、ジュリーがないがしろにされたらいやだもん。
前世の知識もあるし、今世でも使用人扱いされていたから、自分のことはたいてい何でもできる。一人で着られないドレスを着る時はサポートが必要だけど、何でもかんでもやってもらわないといけないようなお嬢様ではない。
だからたくさんの侍女は必要ない……と、思っているのだけど、こればっかりはクロードの意見もあるから難しいところだ。
「そういえばモルガーヌ様から奥様の秋物のドレスについて訊かれました。そろそろ準備しておかなくては間に合わなくなるそうですが、奥様から旦那様に仕立て屋を呼ぶようにお願いしていただいてもいいでしょうか?」
商人を店に呼ぶには主人の許可がいる。たとえ侍女頭だろうが執事だろうが、無断で商人を邸に呼びつけることは不可能だ。
「わかったわ。じゃあ、夜にでも旦那様に訊ねてみるわね」
今日、クロードは友人宅に出かけていた。アルフレッド・ルヴォア様だそうだ。小説に登場しなかったし、今世でも関わったことはないのでどんな人かは知らないが、法務大臣の息子さんらしい。
……でも、秋物のドレス、ね。
秋になれば社交シーズンがはじまる。
ということはつまりパーティー用のドレスということだ。
ドレスを購入するということは、パーティーにも出席するということ。
社交界に出たことがないわたしがパーティーに行っても大丈夫なのだろうか。妙な噂のこともあるし、クロードに迷惑をかけることになりそうな気がする。
かといって、結婚したばかりなのに、新妻をパーティーに連れて行かなかったら、それはそれで不仲だなんだとおかしな噂が立つものだ。社交界は本当に面倒くさいところである。
……ダンスはまあ、前世の知識があるから何とかなるとしても、他のマナーなんて知らないわよ。
わたしは大学のとき、社交ダンス部に所属していた。だからある程度は踊れる。知らないダンスだと困るけれど、社交パーティーでマニアックなダンスなんてしないだろう。基本が押さえられていればいいはずだ。
……これも、夜に聞いた方がいいわよね。
参加しなくていいのならそれに越したことはないが、まったく参加しないというわけにもいくまい。クロードに相談だ。
ちょっと前まで会話なんてまるっきりなかったし、顔すら合わせていなかったというのに、最近では話題に事欠かない。
そしてそれを、嫌だと思わないわたしがいた。
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