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そうだ、浮気調査をしよう! 2

本日最後の更新です!

「ええっと、取引、ですか?」


 戸惑うジュリーを見つめるわたし……は、皺だらけのウエディングドレス姿。

 うーん、カッコつかないけど、この際これには目をつむろう。


「そう、取引! あなた、お金が必要なんでしょう? ……下の弟さん、病気だって聞いたけど」

「どうしてそれを……」


 ジュリーが大きく目を見開く。

 ジュリーの家は貧乏だが、それに輪をかけて、今年十歳だか十一歳だかになるはずの弟が病気で、その薬代にものすごくお金が必要なのだ。

 そのため、ジュリーは給金のほぼすべてを実家に仕送りしているが、それでも薬代には足りず、末の弟は満足な治療が受けられていない。


 ……だけどそれを何故知っているかと言われても……、小説に書いてあったのを思い出したからですって言ったところで信じてくれるはずないもんね。


 だから、わたしはにこりと笑って、真っ赤な嘘をついた。


「この家に嫁いでくるのですもの、ここで働いている人のことくらい調べているわ」


 な~んてね。

 いくら嫁ぐからって、大勢いる使用人をいちいち調べるような人はいないでしょうよ。

 かなり苦しい言い訳だけど、ジュリーは納得したように頷いた。ヤバいこの子、めっちゃ素直なんだけど。騙しているみたいで心が痛む……。

 でも、背に腹は代えられない。

 わたしには、可及的速やかに、ここで生活するための味方が必要だった。


「ジュリー、立ち話も何だから座ってくれるかしら?」


 わたしはソファに座ると、ぽんぽんと座面を叩く。

 ジュリーは戸惑いながら、ローテーブルを挟んでわたしの対面のソファに腰を下ろした。


「回りくどいのは嫌いだから単刀直入に言うけど、わたし、この家で嫌われてるじゃない?」

「え……ええっと……」

「誤魔化そうとしなくて結構よ。昨日、旦那様には『お前を愛するつもりはない』宣言をもらったところだし、息子を溺愛しているお義母様とか、その腰巾着の使用人たちが、わたしを認めるはずないじゃない?」

「腰巾着……い、いえ、それより、愛するつもりがないなんて、そんなひどいことを言われたんですか」


 あーもう、この子めっちゃいい子じゃーん!


「そうなのよ! まあ、それはどうだっていいんだけど」

「いいんだ……」

「そりゃそうでしょう。愛してくれない旦那様を愛してやる義理はないんだから、とりあえず放置でいいのよ。わたしにはそれよりも大切なことがあるの」

「大切なこと、ですか?」


 ジュリーは「旦那様より大切な事って何だろう」みたいな顔をしている。使用人の鑑だ。あんな……この先浮気を繰り返す(予定)の男に、どんな期待をしているのだろう。わたしは小石の欠片ほどの期待もしていない。


「ジュリー、よく考えてくれる? この家の主人どころか使用人にまで嫌われているわたしが、この先ここで平和に暮らせると思うかしら?」

「べ、別に嫌ってなんかないですけど、そうですね……ええっと」

「難しいわよね?」

「……はい」


 ジュリーはとっても言いにくそうな顔で肯定する。

 わたしはそこで、わざとらしく指を鳴らした。


「だから、味方が必要なのよ」

「はあ……」

「そして、わたしはその味方に、あなたを指名したいわ」

「はあ……え?」


 ジュリーはそこで話の流れが見えて来たのか、ギョッと目を見開いた。


「お、奥様! そうおっしゃいますが、わたしは貴族ではありませんし、えっと、お金がなくて、お勉強もほとんどできていなくて、その、多少の文字は読めるけど書けないくらいで、とうてい奥様の味方が務まるような身分では……」


 あー、本当に本当にいい子だわ~。

 わたしの味方をして自分がこの家でつまはじきにされるんじゃないかって言う心配より、そっちの心配をするのね。

 おろおろするジュリーは、味方につけると同時に何が何でも守ってやらねばなるまい。


 そうなれば……。


 わたしは皺だらけのウエディングドレスを見下ろした。

 このドレスは、クロードが、「わたしの姉フランセットのために」用意させたドレスである。

 このドレスを纏って現れたのがわたしでさぞ驚いたことだろうが、そこはどうでもいい。重要なのは、この高そうなドレスがすでにわたしのものということだ。

 実家は貧乏だし、虐げられていたから、わたしはろくなものを持っていない。

 持参してきたドレスも一枚もなく、お父様が援助を受ける目的で受けた結婚だから持参金なんかもない。

 ゆえに今わたしが自由になるのは、このウエディングドレス一枚だけなのだが……ふ、クロード、いい仕事してくれたわ。これだけで当面の資金には事欠かないわね。


 わたしはドレスのスカートに縫い付けられている宝石を、数個ほどぶちっとちぎり取った。生地が傷んだが、すでに皺だらけなんだし気にしない。


「奥様⁉」

「はい、これあげるわ。結構いい宝石みたいだし、換金したらかなりのお金になるはずよ。ひとまず、契約金代わりってことで、どうかしら?」


 ジュリーの喉が、こくり、と動く。

 これだけあれば弟の薬代はゆうに出せるだろう。実家の方もしばらく落ち着くはずだ。


「それから、他の使用人やお義母様とかには『従わないと、この家での扱いについて王家に訴える。わたしは王族の方とお友達よ』と奥様に脅されましたって言っておきなさい。そうすればあなたの立場もそれほど危うくならないでしょう」


 お友達、というのは言いすぎだけど、わたしの今は亡き父方のおばあ様のお母様は元王女だからね。つながりがまったくないわけではないのよ。わたしがプライセル侯爵家でどのような扱いを受けていたかなんて、世間には知られていないのだからはったりもかませるってもの。


「王族の方とお友達なんですか! すごいですね!」


 ジュリー。感動するところはそこなのね。

 わたしに向かって尊敬のまなざしを向けてきたジュリーの手に、わたしは宝石を握らせる。


「いい? 今言ったセリフと共に、今日付けでわたし付きのメイドになったと言うの。そして、もしほかの使用人とかお義母様に意地悪されることがあれば、すべてわたしに報告して。時間はかかるかもしれないけど、絶対に守ってあげる。どう? 契約してくれるかしら?」


 ジュリーはしばらく手のひらの中の宝石を見つめていたけれど、意を決したように顔を上げた。


「わかりました! わたし、奥様のメイドになります!」


 こうしてわたしは、四面楚歌状態の婚家で、一人の味方を手に入れた。






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