デートと懺悔 2
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
――一瞬にして、目を奪われた。
足音が聞こえて顔を上げたクロードは、階段から降りて来るエルヴィールの姿を見つけた途端、息の仕方を忘れてしまった。
ふわりと広がる、シフォン素材の白いドレス。
歩くたびに銀色の髪が揺れ、足元を確認するためにわずかに伏せられた目元に、長い睫毛が影を落とす。
こくり、と知らないうちに喉を嚥下させ、クロードはただただゆっくりとこちらに歩いてくるエルヴィールに見入った。
白いドレスが、まるで、結婚式のそれのようだと思う。
あの日、ただただフランセットの代わりにエルヴィールが嫁いで来たという事実が腹立たしくて、彼女の姿を極力視界に入れないようにしていた。
だからだろう、あの日の彼女の様子は、思い出そうとしても思い出せない。
せいぜい記憶に残っているのは、彼女が倒れた後、薄暗い寝室で向き合ったときの様子だけだ。
(……あのときのエルヴィールも、こんな風だったのだろうか)
いや、ドレスはずっと豪華だった。
プライセル侯爵家からフランセットのサイズを聞き、手配した最高級のドレス。
本当は試着や仮縫いなどがあったから直接フランセットに出向いてほしかったが、フランセットから「妹が怒るから」という理由で、結婚前に会うことはほとんどなかった。
そのときは可哀そうにとフランセットに同情したが、思い返してみれば、その対応にも違和感が残る。
もっといえば、フランセットのために作ったドレスがエルヴィールにぴったりだったというのも解せなかった。
つまりは最初から、プライセル侯爵家から提示されたサイズはエルヴィールのものだったのだろう。
あの時からすでに、プライセル侯爵家では嫁がせるのはエルヴィールと決めていたということだ。
もし、結婚式のあの日、その些細な違和感に気づいていたら、エルヴィールに対する対応も違っただろう。
いろんなところに違和感の欠片はあった。
それに全部目を背けていたのは、ほかならぬクロード自身なのだ。
(……ああ、綺麗だな)
結婚式の日、エルヴィールの姿をきちんと見ていなかったことが悔やまれてならない。
外見だけではない。
クロードに対してはっきりと意見を告げるその意志の強さも、凛と眩しい琥珀色の瞳も。
食事の時に、ふっと無意識のうちにほころぶ顔も。
夜、穏やかな顔で眠りにつくその姿も。
すべてが、美しいのだ。
「お待たせいたしました」
見とれているうちに、エルヴィールが目の前に来ていた。
「いや、待っていないが……」
慌てて反応したせいで、そんな味気ない返答になってしまう。
綺麗だとか、似合っているだとか、気のきいたセリフの一つも言えない自分が嫌になった。
「い、行こうか」
手を差し出せば、遠慮がちに手を握り返される。
エルヴィールの手はびっくりするほど細くて華奢で、ちょっと力をこめれば折れてしまいそうだ。
噂の真相は、まだわからない。
だが、クロードにはもう、彼女が噂通りの悪女だとは思えなくなっていた。
(できることなら、はじめからやり直したい……)
そんな都合のいい願いが叶えられるわけもなく。
壊れた皿を必死に繋ぎ合わせるように、クロードは彼女との関係を一つずつ修復するために、努力を続けるしかないのだろう。
ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ





