浮気の証拠、きたー⁉ 4
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商業ギルドから出たわたしは、馬車の前に見覚えのある人物を見つけて「またか」と思った。
クロードだ。
……この人、わたしが外出する先々に迎えに来るつもり?
結婚してからわたしが外出したのは、今日を含めて二回だけなので、必ずそうであるかの判断はつかないが、なんでわざわざ迎えに来るのだろう。
馬車まで歩いて行くと、クロードがわたしを見つけて、ホッとしたように笑う。
「今から帰るのか?」
「ええ、まあ……」
「では一緒に帰ろう」
フェルスター伯爵家の馬車なので、その家の主に一緒に帰ろうと言われてわたしに拒否はできない。
わかりました、と頷くと、すっと手を差し出された。
これまでエスコートなんてされたことがないから、それがエスコートであると気づくのに数秒かかった。
おずおずと彼の手を掴むと、優しく握り返される。
……なんで、こんなことをするのかしら?
この男はわたしを嫌いなはずなのに、こんな風に優しくされると調子が狂う。
馬車に乗り込むと、クロードは当たり前のような顔をして隣に座った。
何故、隣……と思わなくもないけれど、なんとなく、それについて文句を言える雰囲気でもない。
「旦那様はどうしてここに?」
黙ったままなのも気まずかったので、彼が迎えに来た理由を訊ねてみた。
「君が共もつけずに商業ギルドへ向かったと聞いたから。危ないじゃないか」
「危ないって、そんな危険地帯に行くわけでもあるまいし……」
王都でもスラムと呼ばれる端の方は治安が悪いが、商業ギルドがあるあたりは治安のいい王都の中心部だ。しかもすぐ近くまで馬車で向かったのに、危険も何もない。
「治安がよくても何があるかはわからない。特に君の名前は……いや、やめておこう」
……わたしの名前は?
男を手玉に取る悪女だって噂になっているからとでも言いたいのだろうか。
だけど、わたしの名前はともかく、わたしの名前と顔が一致する人間は限りなく少ないだろう。何故ならわたしは、一度も社交界に顔を出したことがないのだから。
「ともかく、窮屈かもしれないが、しばらく一人での外出はやめてくれ。できればどこかに行くときは俺に声をかけてくれると助かる」
……声をかけてなんだと言うの?
わたしのことが嫌いなくせに――いや、やめておこう。
彼はわたしを好きではないのだろうが、ここ最近のクロードの行動を見ていたら、わたしとの関係を改善しようとしているのは明白だった。
何がきっかけなのかはわからないが、彼にも心境の変化があったようだ。
少なくとも今、クロードはわたしを心配して発言している。そんな人に、喧嘩腰な態度では失礼だろう。
「わかりました」
クロードがブラック・フォックスに出入りしている件の調査依頼は、いったん保留にしている。しばらく商業ギルドに出向く予定もないし、もし何かあればガブリエルから連絡してくるだろう。あの手のタイプの男は、金になる話に敏感だ。クロードに関して何らかの情報を得て、わたしに売れるとわかれば、必ず連絡を入れて来る。
……踏み込んだ調査はしなくても、クロードの行動は見張らせていそうだもの。
特に女がらみの情報ならわたしに確実に売れると思っているはずだ。売れるとわかっているのだから行動観察くらいはするだろう。
ならば、今は待ちの姿勢でいい。
わたしが欲しいのは、クロードの浮気の証拠であって、彼が闇賭博に出入りしているかどうかの証拠ではない。
その、はずだ。
わたしが返事をした後で考え込んでしまったからだろうか。
クロードは、わたしが機嫌を害したと思ったようで、ほんのちょっとおろおろしながら言う。
「べ、別に閉じ込めようと思っているわけじゃない。俺と一緒ならいいだろうし……そ、そうだ、近いうちに氷菓子を食べに行かないか? 暑くなってきたからな、そろそろ売られはじめるころだ」
……氷菓子とは、また高いものを上げてきたわね。
前世では氷もアイスクリームも珍しくもなんともなかったが、この世界に冷凍技術はないので、特に夏場の氷は恐ろしく高い。
冬の間に切り出しておいた氷を氷室で貯蔵し、それを馬車で王都まで運んでくるのだから当たり前である。量も限られれば、運ぶ手間賃もかかるのだ。
だけど、こうも暑いと、冷たいものを食べたくなるもの。
食べさせてくれると言うのだから、ここは拒否する理由はない。
「そうですね。よろしくお願いします」
返事をした後で、もしかしなくてもこれは俗にいうデートの約束というやつではないかと気づいたのが後の祭りだった。
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