浮気の証拠、きたー⁉ 3
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翌日――
わたしは一人で商業ギルドを訪れていた。
受付をすませて、商談ルームに通されると、しばらくしてガブリエルが飄々とした笑みを浮かべながら部屋に入って来る。
「いらっしゃい、フェルスター夫人」
「詳しいことを聞きに来たわ」
「夫人ならそう来ると思ったよ」
細い目を更に細めて、ガブリエルは楽しそうな顔でいくつかの書類をローテーブルの上に置いた。
「ここから先は商談だ。情報料をいただくよ」
「いくらかしら?」
「金貨三枚……と、言いたいところだけど、前回の浮気調査ではろくな情報を提供できなかったからね、金貨一枚にまけておいてあげる」
わたしは持って来ていた財布から金貨を一枚取り出すと、ローテーブルの上に置く。
ガブリエルはそれをすっと懐に収めて、わたしの手元に書類を押し出した。
「今のところ、情報は二つ。一つ、君の夫は、フードで顔を隠した女に頻繁に会っている。二つ、君の夫は、ブラック・フォックスに出入りしている。これだけだ。正直、浮気の証拠、とまでは言えないかもしれないが、行動が怪しいのは事実だな」
「ブラック・フォックスって?」
「ああ、夫人は知らないか。まあ、知っている人間は多くはないだろうな」
ガブリエルは、情報料を吊り上げるかどうするか悩んでいるようだったが、「まあいいか」と頷くとブラック・フォックスについて教えてくれる。
ブラック・フォックスとは、とある酒場の名前らしいのだが、そこの地下には俗にいう「闇賭博場」があるのだそうだ。
ブラントブルグ国では、賭博自体は違法ではない。
しかし、賭博法というものが存在し、賭け金の上限や賭け事の種類、倍率などが細かく決められていた。
その「賭博法」に定められている条件を無視して運用されているのが、俗にいう「闇賭博」である。
見つかれば即摘発されるはずの場所だが、どういうわけかなかなか摘発されないのは、そこに通っている人物の中に国の上層部の人間もいるからだという噂らしい。
「って、クロードが闇賭博に通っているですって?」
「闇賭博場にまで足を踏み入れているのかはわからない。だが、ブラック・フォックスへ通っているのは事実だ」
裏商業ギルドの調査員も、不用意に闇賭博に足を踏み入れたくないため、店の中にまではよほどの理由がない限り入らないそうだ。
ゆえに、クロードがただ単に酒場を利用しているだけなのか、それとも地下の闇賭博場に出入りしているのかはわからないという。
……ちょっと待って。もしクロードが出入りしているのが闇賭博場だったら、浮気調査どころの話じゃないわよ。
闇賭博の運営はもちろん罪だが、闇賭博場と知って通っている人間も、知られれば罪に問われる。
正直言って、真面目そうなクロードが賭博に興じるとは思えないが、わたしは彼と知り合ってまだ日が浅い。彼のことを理解しているかと言われれば、そもそも結婚してからほとんど関わらずに来たので、判断が難しかった。
「……続けて調査してもらうには、どのくらいの対価が必要かしら?」
「闇賭博場まで調査しろと言うのなら、危険も伴うからなあ、金貨五十枚から応相談だ」
……高っ!
ピアスで収入が得られるようになったからと言っても、金貨五十枚は出せない。銀行に預けているお金を引き出しても金貨五十枚まではないだろう。
ウエディングドレスの宝石類はまだ多少残っているけれど、それを換金しても足りるかどうか。
「金がないなら貸し付けもできるぜ?」
「……ちょっと、考えさせてちょうだい」
さすがに、借金まではしたくない。
かといって、クロードが闇賭博場に出入りしているのなら……詳しいことを調べたいと思う気持ちもあった。
彼が出入りしているのならば、何か理由があるのではないかと、根拠はないがそう思う。
(浮気調査が、とんでもない情報まで釣り上げちゃったわね)
こんな話、小説にはなかったわよと、わたしは盛大にため息をついた。
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