浮気の証拠、きたー⁉ 1
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夫クロードの距離が、妙に近い。
当たり前のような顔をして、わたしの寝室に毎夜やってくるようになったクロードは、日中も暇さえあればわたしに会いに来るようになった。
「器用なものだな」
今なんて、わたしがレース編みをするのを横でじーっと見つめている。
こんなものを見て、何が楽しいのだろう。
「その、売れ行きは好調なのだろう? 君さえよければ、手の空いている使用人にも手伝わせるが……」
「どこかで量産体制を整えるかもしれませんが、今のところ、わたしとジュリーだけでいいですよ」
だって、ジュリーには自分の作った分の儲けをそのまま上げているからね。他の使用人が参戦しはじめると同じようにできるかはわからない。そうなればジュリーが困るだろう。
「そうか……」
何故か、クロードがしょんぼりしてしまった。
(この人、本当にどうしたのかしら?)
ジュリーはクロードが部屋を訪れるたびににまにましているが、わたしとしては笑える状況ではない。
今のところ、離婚計画は失敗続きだ。
その上クロードとの関係が微妙に改善したら、離婚する手立てがなくなる。
(というか、浮気はどうしたのよ浮気は。なんで浮気しないの?)
これはもう、認めるしかないのだろうか。
わたしが物語通りの行動を取らなかったせいで、クロードが浮気に走らなくなった、と。
「母上が茶会で広めたからか、君のそのピアスは、社交界で大人気らしいぞ」
「え⁉」
そんな話、はじめて聞くんですけど⁉
こんなチープなピアスが、貴族のご婦人やご令嬢に人気なんですか?
「ああ。なんでも、貴族令嬢や夫人が、市場に出るたびに買い占めていると聞いたが」
……なんてことだ。
通りで、カイザックが「生産を急いでください!」と泣きつくわけである。
使用人は参戦させられないが、ジュリーのお母さんの参戦を検討しはじめた方がいいだろうか。本人もやる気みたいだし、お母さんがお金を稼げるようになったらジュリーの負担も減るだろう。
だがその場合、最初はジュリーのお母さんにここに来てもらって、作り方を教えた方がいいと思う。
「……あの、旦那様。お願いがあるのですけど」
わたしのお願いなんて聞いてくれない気もするが、わたしの一存でジュリーの母親を招いてあとあと文句を言われるのも嫌だった。
すると、クロードはどうしてかパッと顔を輝かせた。
「なんだ? なんでも言ってくれ」
……うーん、やっぱり、クロードが変……。
小説情報を抜きにしても、最初と今とでこうも態度が変わると、何か企んでいるのではないかと疑ってしまうわたしは、心が狭いのだろうか。
「あの、一度、ジュリーのお母様をここにお招きしたいんですが……。ピアスの制作を手伝っていただこうと思っていまして」
すると、クロードがいる手前、お茶の用意をしたり部屋の片づけをしたりしていたジュリーがぱあっと顔を輝かせた。
「いいんですか⁉」
「うん。前からお話をもらっていたし、貴族の間で流行しはじめたら、そう簡単に下火にならない気がするからね。数を増やしてもいいかも」
「それならやはり、うちの使用人を……」
「それはご遠慮します。使用人だってやりたくない人もいるでしょうし、ジュリーはわたしの専属だからお願いしただけなので」
使用人には使用人の仕事がある。
ジュリーはわたし専属だから、わたしの仕事の一部を手伝ってもらっているという名目が取れるけど、他の人はそうじゃない。
お金の問題もあるし、使用人に頼むくらいなら専属で人を雇った方がいいだろう。
「ジュリーの母親を呼ぶのは構わないが、ジュリーの家はここから馬車で半日くらいかかる農村地にある。小さな子供もいるんだ、移動を含めると二日ほどは母親が家を空けることになると思うのだが、それは大丈夫なのか?」
「あ……」
「それに、作ったピアスの運搬のことを考えると、ジュリーの実家で作るのは難しいだろう」
……そこまで考えていなかったわ。
ジュリーも盲点だったとばかりに目を見開いている。
ショックを受けるわたしたち二人を交互に見やって、クロードがこほんと咳ばらいをした。
「だが、ジュリーの一家ごと、この近くに移り住むのなら問題ないだろう。我が家は使用人たちの家族に安く家を貸し出している。その家がまだ余っているはずだ。ジュリーの家族は農村に住んでいるが、農家ではなく農産物を王都まで運ぶ運送業に従事していたはずだ。それならば、拠点をこちらに移しても問題ないのではないか? 末の弟の病気を診るにしても、こちらのほうがいい医者がいるだろう」
「……ジュリー、どう思う?」
クロードが、使用人の家族の情報に詳しいことに驚きつつジュリーに訊ねると、彼女は考え込むように視線を落とした。
「家族に相談する必要はあると思いますけど、母は喜んで移り住む気がします。父も、弟の薬代で奥様にはとても感謝していましたから、奥様のお役に立てるとなれば反対しないはずです」
「そうか。では、正式に移ることが決まったら教えてくれ」
クロードがにこりと笑う。
その笑顔を見ながら、最初に見た冷たい雰囲気の男は、もうどこにもいないのかもしれないと……なんとなく、そんなことを思った。
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