そうだ、浮気調査をしよう! 1
本日二回目の更新です!
……さて、さくっと離婚して出て行こうと言っても、理由がなければ難しいよね。
いくら気に入らない結婚でも、結婚してすぐに嫁が逃げた、なんてことはクロードだって許容できないだろう。
……うーん。こちらから離婚を迫る方法……。
何か名案はないだろうか。
わたしは一人きりの夫婦の寝室のベッドの上で、うぅむと唸る。
昨夜、「愛するつもりはない」宣言をしたクロードは、わたしの「愛していただかなくて結構ですわ」という返答を聞いて、顔を真っ赤にして怒って部屋を出て行ってしまった。
それから戻って来ていないので、自室かどこかで眠ったのだろう。
そして、想像通りというかなんというか、ここフェルスター伯爵家の使用人たちは、わたしを「奥様」とは認めていないようで、今朝になっても誰一人としてやってこない。つまり完全に放置されている。
……離婚を迫る前に、ここでの生活も考えないとね。一人くらい味方につけておかないと。
目標は離婚することだけど、今日や明日にすぐに離婚できるわけでもない。
ここである程度の立ち位置を確保しておかなくては、小説の通りいびられまくるのは目に見えていた。まあ、前世の記憶が戻ったわたしなので? 小説のエルヴィールのままか弱い性格ではありませんけどね。しくしくと泣き寝入りなんてしませんけど、かといって、味方が誰もいなければ食べるものにも困りそうだ。
……離婚方法は後回しにして、味方を探そう。……味方かあ。
わたしは小説の情報を思い出す。
小説のスタートはクロードに捨てられてからなので三年後からだ。
だが、多少なりとも、フェルスター伯爵家の情報はあったはずである。
お金持ちなフェルスター伯爵家は、王都のお邸にたくさんの使用人を抱えているけれど……誰か、都合がよさそうな人、いないかなあ?
義母のコリンナは論外。息子大好きで嫁が大嫌いなあの義母は、嬉々としてエルヴィールをいびるので、仲良くなるなんてできようはずもない。
そして侍女頭のモルガーヌはコリンナの腰巾着なのでこちらも論外。
執事もクロードの味方だから、クロードが相手にしないわたしのことなど端から相手にしないだろう。
……うーん、うぅーん……あ!
わたしはそこで、とあるメイドのことを思い出した。
ヒロインであるエルヴィールの味方をするまではいかなかったけれど、虐げられているのを不憫に思って、こっそりと食べ物を差し入れてくれていた心優しいメイドがいたはずだ。
確か名前を、そう、ジュリー!
……よし、ジュリーを味方にしよう。
ジュリーは確か、大家族の長女で、貧乏な実家に給金を仕送りしている苦労人だ。
そのため、フェルスター伯爵家を追い出されたら困るので、小説でもエルヴィールの味方になることができなかった。
だけど裏を返せば、お金さえあれば味方になってもらえる可能性大である。
……そうと決まったら、っと!
わたしはベッドから降りると、チリンとベルを鳴らした。
チリン、チリン、チリンチリンチリン……。
……くそ、来ないな。
イラついたわたしは、ベルをこれでもかと振り回す。
さすがにうるさすぎたのだろう、しばらくして、ものすごく嫌そうな顔をしたそばかす顔のメイドがやって来た。
「……何か?」
おい、仮にも主人の嫁に対してその言い方はなんだ。態度悪すぎだろう。
伯爵家のくせに、使用人の教育もなってないのか~。あきれるわ~。
だけど、このメイドに喧嘩を売るような暇はわたしにはない。というか、面倒くさい。
「ジュリーというメイドがいるでしょう。今すぐ呼んできて!」
「どうしてわたしがそんなこと……」
「呼ばないなら結構よ。邸中歩き回って探させていただくから」
メイドは、ジュリーを呼びに行くこととわたしが我が物顔で邸を練り歩くことを天秤にかけて、結局ジュリーを呼びに行くという選択をしたようだ。
やっぱりものすごく嫌そうな顔で「呼んできます」と言って部屋を出て行く。
それから三十分後。
いつまで待たせるんだこの野郎、とわたしがイラつきはじめたころになって、ようやくメイドのジュリーがやって来た。
十五、六歳ほどの外見の彼女は、赤茶色の髪に黒い瞳の愛らしい顔立ちをしていた。
……こんな顔だったのね~。
小説の挿絵に名前がちょろっと出て来るだけのメイドが描かれるはずがないから、何歳くらいのどんな外見の子なのかは知らなかったんだけど、優しそうな子だなと言うのが第一印象である。
ジュリーは、突然呼びつけられた理由がわからずに戸惑っているようだった。
「あ、あの、奥様……わたしにどのようなご用でしょうか」
あらこの子、わたしを「奥様」と呼んだわよ。そしてちゃんと敬語だわ。さっきのメイドと違って、礼儀をわきまえているいい子ね~。
やっぱりこの子を味方につけよう。
わたしはそう決意すると、にっこりと微笑む。
「ねえジュリー、取引をしましょう」
ジュリーは目をぱちくりしながら、着替えもないからウエディングドレス姿のままのわたしを、まじまじと見つめ返してきた。
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