夫の様子がおかしいです 2
あけましておめでとうございます!
本年もどうぞよろしくお願いいたします!
「このモチーフどう思う? 青い百合なんて存在しないと思うけど、可愛いでしょ?」
「いいと思います! 涼しそうですし、これからの季節にぴったりですね!」
それは、ジュリーとわいわいしながら、新しく移った部屋でピアスのモチーフを作っているときのことだった。
商業ギルドの副ギルド長のカイザックから仕入れを増やしたいと言われたため、時間が許せる限りピアスのモチーフ作りにいそしんでいる。
ジュリーも頑張ってくれているし、作業にも慣れてきたから、一個作る時間は前よりも格段に速くなった。
「あと十個で百個ね。百個になったら。商業ギルドに持って行ってくれる?」
「お任せください!」
納品してもすぐに売り切れるため、商業ギルドからはこまめに納品に来てほしいと言われているけれど、さすがに毎日ジュリーをお使いにやるわけにはいかないから、だいたい一週間に一回から二回くらいのペースでお願いしていた。
どういう風の吹き回しなのか知らないが、フロベールが納品に馬車を使っていいと言ってくれたので、ジュリーも以前より楽ができると喜んでいる。
「弟さんの様子はどう?」
「きちんと薬も買えるようになりましたし、お医者様にもこまめに来ていただけるようになったので、だいぶ回復してきたらしいです! 完治まではまだかかるみたいですけど、このまま順調に回復すれば、冬頃には治るのではないかって」
「そう、それはよかったわ」
詳しい病名は知らないが、医者が治ると判断したということは、きちんと治療さえできれば治る病気だったのだろう。
「これも全部奥様のおかげです! 家族は急に仕送りが増えたから、わたしがなにか悪いことをはじめたんじゃないかって最初は疑われたんですけど、奥様のおかげで稼げるようになったって言ったら喜んでいました。母なんて、自分もそのピアス作りに参加できないのかなんて手紙に書いて来たんですよ。調子いいったら」
「それなら、もし量産体制を整えることになったらお願いするのもありかもしれないわね」
ジュリーは、貧乏だけど幸せな家庭で育ったのだろう。
家族のことを語る彼女は本当に嬉しそうで、心の底から家族の生活が向上したのを喜んでいるようだった。
それを少し羨ましいと思ってしまうのは、実家の家族がわたしを愛していないことを理解しているからだろうか。
離婚後はフェルスター伯爵家を離れて、もしジュリーがついてきてくれなかったら一人で一からはじめなくてはならない。
こういう時、味方になってくれる家族がいたらいいのにと、ちょっと思う。
もっとも、味方になってくれる家族がいたら、今、このような状況にはなっていないのだけど。
「わあ、奥様! それも可愛いですね! クローバーですか?」
新しいモチーフを編んでいたら、ジュリーが楽しそうに手元を覗き込んでくる。
「ええ、クローバーを二つ連ねてみたの」
「今のが終わったらわたしも作りたいです。編み方教えてください」
「もちろんいいわよ」
小説のストーリー通りに生きれば、三年後、わたしはヒーローと出会って恋に落ち、彼と家族になるのだろう。
もし、今からでも元通りの話に修正すれば、わたしは三年後幸せになれたのだろうか。
……って、今のはやっぱりなし! 三年後幸せになれるのだとしても、それまで苛め抜かれるなんでまっぴらよ。
第一、小説のヒロインはエルヴィール・フェルスター=プライセルだけど、それが前世の記憶を持ったわたしというだけで、物語通りに行かない気がする。
だって、ヒーローというだけでわたしが無条件で恋に落ちる……とは、どうしても思えないからだ。
もしかしたら相手のことを好きになれないかもしれないし、その上でヒーローと結ばれなくてはならないと考えると、あんまり幸せじゃない気がする。
それならやっぱり、くだらないことを考えていないで、さっさと離婚して自由になって、人生を謳歌する方がよほどいい。
ピアスが目標の百個に到達したところで、ジュリーに商業ギルドまでのお使いを頼む。
そして、ピアスを詰めた箱を持ってジュリーが部屋から出て行こうとしたその時だった。
「きゃ……って、旦那様?」
ジュリーが扉を開けると、そこにはクロードが立っていた。
驚きのあまりジュリーが軽く飛び上がって、わたしとクロードを見比べる。
「あ、あの……」
「行ってきてくれていいわ、ジュリー」
「はい!」
箱を持ったまま、このまま出かけていいものかと悩みだしたジュリーに声をかけると、彼女はクロードにぺこりと頭を下げてから彼の脇を通り抜けた。
クロードは……扉の前に立ち尽くしたまま、動かないし何も言わない。
てっきりわたしに何か用かと思ったのだけど、たまたまわたしの部屋の扉の前にいたときにタイミング悪くジュリーが扉を開けてしまったのだろうか。
……だったら立ち去ればいいのに。
わたしだって、ずっとそこに立たれていると気まずい。
……用がないなら、別に扉を閉めてもいいわよね?
クロードに見られていると、落ち着いてお茶も飲めないではないか。
わたしはソファから立ち上がると、すたすたと扉の前まで歩いていく。
クロードはやはり、じっとわたしを見つめていた。
「ジュリーが閉め忘れたようで失礼しました」
そう言って、問答無用で扉を閉めようとすると、クロードが慌てたように扉を掴んだ。
「待て、どうしてそうなる」
何故ってそれは、扉の前で彫像のように立ち尽くされていても困るからです、と言い返すのは失礼だろうか。
まあすでに、クロード相手に失礼な発言はいくつかした記憶があるので、今更かもしれないけれど。
ドアノブを掴んだわたしと、扉に手をかけたクロードの視線が絡み合う。
じっとわたしの目を見ていたクロードが、わずかに狼狽えたように視線を左右に動かし、言った。
「き、君の瞳は、その、綺麗な色だな……」
この男は、何が言いたいのだろう。
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