表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/46

夫の様子がおかしいです 1

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

「ねえ、クロード。ちょっといいかしら?」


 書斎で仕事をしていたクロードの元に、母のコリンナがやって来たのは、母とエルヴィールがティータイムをすごしたその日の夕方のことだった。


「どうかしたんですか?」


 母は控えめな女性で、基本的にクロードの仕事の邪魔はしない。

 その母が仕事中に訊ねてきたのだから、よほどのことがあったのだろう。


「ええ……その。あのね……」


 部屋に入って来たコリンナは、ひどく戸惑っているようだった。


「エルヴィールと何かありましたか? 彼女が何かひどいことでも?」

「違うの! ……違うのよ。ひどいことなんて……むしろ」


 コリンナが書斎のソファに腰を下ろし、頬に手を当ててため息を吐く。

 部屋にいたフロベールが、すぐに母の好きな紅茶を入れる準備をはじめた。


「あのね、クロード。わたくしたち、もしかしなくても、とんでもない勘違いをしているのかもしれないわ。エルヴィールさんに対して……」


 クロードはペンを置いて立ち上がると、コリンナの対面に腰を下ろした。


「勘違い、と言うと?」

「ええっと……、ねえクロード。エルヴィールさんは、本当に噂に聞くような女性なのかしら? 今日話をしてみて、どうにも違和感というか……どうしても、そんな風には思えなかったのよ」


 それは、クロードも少し思っていた。

 あの日――エルヴィールが商業ギルドへ向かった日、様子を探るために迎えに行ったあの日から、その違和感は大きくなり続けている。


 男好きで、貢がせるだけ貢がせて捨てる尻軽な悪女。

 プライセル侯爵家を傾けた浪費家。

 姉や母親を虐げる性悪な女。


 エルヴィールの噂は、このように聞くに堪えないようなものばかりだ。

 けれど、あの日クロードと向き合ったエルヴィールは、果たして本当に噂通りの女なのだろうか。


 何もないところに噂なんて立たないはずだ。

 だけど、何かがおかしい……。


「クロード。一度、エルヴィールさんの噂の真相を調べた方がいいと思うの」


 それはクロードも考えていた。

 向き合う予定のなかった妻の素行など、いちいち調べさせるだけ時間の無駄だと思っていた。

 だが、違和感を覚えた以上、事実確認は必要だろう。

 少なくともクロードには、噂のエルヴィールと現実のエルヴィールに乖離が生じていると認識していた。


「わかりました。こちらで調べてみます」

「ええ、お願いね。あと、これからはもっとエルヴィールさんと関わりたいと思っているの。いいわよね? ……だって、義理の娘なんですもの」


(義理の娘、か)


 確かに、クロードに嫁いだ以上、エルヴィールはコリンナの義娘になるだろう。

 だが、クロードは結婚した日に、絶縁宣言とも取れる発言をエルヴィールに向かって放っていた。

 愛するつもりはないと言ったクロードに、愛さなくて結構だと返したエルヴィール。

 すでにこの時点で、自分たちの夫婦関係は破綻しているだろう。


(俺は、もしかしてとんでもない過ちを犯してしまったのだろうか)


 きりきりと、胃の当たりが痛む。


 ――まっすぐクロードを睨みつけてきたエルヴィールの琥珀色の瞳は、とても高潔で美しかった。


 フロベールが、ことんとティーカップを目の前に置いた。

 心を落ち着けるためにゆっくりと紅茶に口をつけて、クロードは目を伏せる。


(関わる、か)


 エルヴィールは、クロードを嫌っているかもしれない。

 当然だ、結婚初日にあのような発言をする夫に心を傾ける女性はいないだろう。

 だが、違和感に気づいた今――このまま関わらずに放置を続けるのは、逃げていることと同じだ。


(俺も、態度を改めなくてはな……)


 噂の事実がどうであれ、エルヴィールがそれほど悪女だとは思えない。

 遅いかもしれないが、クロードも妻に向き合わなくてはならない。


 自分が望んだ妻と違う女性を押し付けられたからと言って、それで彼女につらく当たるのは、間違っているのだから。





本年は大変お世話になりました。

2024年は比較的多くの作品を投稿で来たかなと思っておりますが、いかがでしたでしょうか?

来年はまだわかりませんが、仕事の様子を見つつ、何かしら書きたいなとは思っていますのでどうぞよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ