義母がいびってこないんですけど! 2
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次の日の昼――
「奥様、とっても可愛いです! 旦那様が新しく購入くださったドレスがよくお似合いですよ」
せっかくだから新しいドレスを、と推してくるジュリーの勢いに負けて、わたしはクロードが呼んでくれた仕立て屋から購入した、真新しい青いドレスに身を包んだ。
今日は義母にお茶に誘われている。
小説で義母のイラストはなかったが、結婚式の日に参列していたので彼女の顔はわかっていた。
ほとんど口を開かないが、食事の席にも一応いる。
まあ、わたしが顔を伏せて黙々と食事をしているため、視線が絡んだことはついぞないが。
クロードの母コリンナは、彼と同じ金色の髪に藍色の瞳をしている。
クロードは母親似なので、目鼻立ちも似通っていた。
小説では「エルヴィールをいびっていた」という情報のみ出てくる義母は、果たして、現実にはどのような人物なのだろう。
わたしがクロードに嫁ぐことはギリギリまで伏せられていたので、結婚式前にコリンナに会ったことはない。
記憶を思い起こす限り、まだ一度も会話をしたことはないはずだ。
「ねえジュリー、お義母様って、どんな方?」
戦をするときは、敵の情報がないと負ける。
別に戦争をしに行くわけではないけれど、義母はわたしの敵だ。情報はあればあるだけ有利になるのは間違いない。
最後の仕上げとばかりにわたしの髪をリボンでまとめていたジュリーは、鏡越しにわたしを見て、きょとんとした。
「大奥様ですか? 口数は多い方ではありませんが、穏やかな方ですよ」
「穏やか?」
ジュリーのその評価は、どうにもわたしのイメージしていたコリンナと乖離があった。
……どういうこと? 普段は穏やかだけど、気に入らない相手にだけ豹変するタイプってことかしら?
「はい、大旦那様が亡くなられてからは、しばらく領地でお過ごしでした。奥様が嫁いで来られることになったので、奥様がフェルスター伯爵家に慣れるまではしばらくこちらで補佐をする予定……だったと聞いています」
ジュリーはそう言いながら「あれ?」と首をひねった。
わたしが嫁いで来たからわたしの面倒を見るために王都の邸に移ったコリンナが、今日までわたしを放置していたという事実に疑問を持ったのかもしれない。
……でもまあ、それはね、ある意味仕方がない部分もあると思うのよ。だって、フェルスター伯爵家からすれば、嫁いでくるのはお姉様の予定だったんだもの。
プライセル侯爵家の長女フランセットが嫁いでくるはずだったのに、蓋をあければ次女が嫁いで来た。いったいどういうことだと、警戒されるのはまあ仕方がない。
しかもその次女は、男をとっかえひっかえしているという噂もある。
もちろん事実無根だが、噂が真実かどうかなんて彼らでは判断つかないだろう。
嫁いでくるのがあらかじめわかっていたら事前に素行調査もできただろうが、結婚式当日にわたしが嫁ぐとわかったのならば、そのような時間も取れなかったはずだ。
別に、クロードやコリンナを擁護するつもりはこれっぽっちもないが、彼らが警戒するのも当然と言えば当然なのである。
……だからといって、いじめられるのはまっぴらだけど‼
希望していたのと違う花嫁がやってきたのだから、彼らには彼らの言い分がないわけではない。
でもそれはお父様が仕組んだことであり、わたしも被害者だ。
不満をわたしにぶつけるのではなくて、直接お父様とやりあってほしいものである。
……でもそっか。お義母様は、お姉様とは仲良くやる用意があったわけね。やっぱりここはさくっと離婚しないと。
今日、うまい具合に義母がわたしをいびってくれれば、それを理由に、離婚の準備を進める予定だ。
もちろん、一回いじめられたからといってすぐに離婚できるほどこの世界は甘くない。
ゆえに、これから頑張って証拠集めをして、何とか離婚にこぎつけるのだ。
わたしの明るい未来のためにも、どうにかするしかない。
「ジュリー、わたし、頑張って勝利を収めて来るわ!」
「あの、奥様、お茶をしに行くだけですのに、勝利って何ですか? 一体何と勝負なさるおつもりですか?」
わたしのストレートの銀髪をハーフアップにしてリボンで飾ってくれたジュリーが、ものすごく戸惑った顔をした。
けれどもわたしは、義母にいびられて離婚する決意を固めたわたしは、ジュリーのそんな戸惑いにはこれっぽっちも気づかなかった。
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