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芸術の秋

〜の秋という言葉がある。食欲の秋、読書というインドアなものからスポーツというアウトドアなものまでなんでも暑くもなく寒くもない秋にやれということだろう。


それなら今日は当てはまらない。

10月という日付だけが秋を感じる、夏の暑さが残っている今日には。


少年と2人で私が買ってきたアイスを食べていた。

「秋といっても30℃を超えるとアイスが美味しいな」ここに来るまでに少し溶けてしまったアイスを2人で食べる。


「そうですね」少年は溶けてテーブルに落ちた小さなアイスのかけらを口に放り込む。

少し汚いがどうやら彼は食いしん坊らしくこのような光景は何回か見ている。


アイスを食べ終わるといつものように、少年が私の分のアイスのゴミまで持って捨てに行ってくれた。


それを見送りテーブルに視線を戻すとアイスの棒が落ちていた。少年を呼ぶか迷ったが、走って行った少年はもういなかったので私もゴミ箱に行くことにした。


ゴミ箱が遠くに見えると少年はもう着いていて、少年が何かをしているのが見える。

何をしているのだろうとさらに近づくと、少年はアイスの袋を開いて舐めているのが見えた。


人の食べたアイスの袋まで舐めるのは少し卑しいとは思ったが、ここは知らないふりをしたほうがいいと思い持っていたアイスの棒をポケットに入れてベンチに戻り、少年を待つことにした。


少年は帰ってくると、いつもとは違い一枚の紙をバックから取り出して絵を描き始めた。

今日は少年の宿題で私の絵を描いてくれている。優秀な作品は駅に飾られるそうだ。

身の回りの誰かを描いて持ってくるという題材だそうで、家族にした方がいいのではないかと言ったところ忙しいと断られたそうだ。



せっかく描いてくれるならといつもよりいい服である花柄のシャツを着たら、少年になんかダサいねなどと言われてしまった。


それからは大変だった。動かないでと言われてからずっと動かないようにしたり、横顔をよく見たいからあっちを見てだったり、顎の下を見たいから上を向いたままでと言われたりした結果いつのまにか青空は赤く染まっていた。


身体中がきりきりと痛む。長時間座ることは私にはもう大変だった。出来たものを見せてもらうと普段鏡で見る私とは違い、穏やかな表情をしていた。

「私はこんな顔をしていないと思うが。よく描けているね」

「そうですか?そんな顔でしたよ」

彼はそう言ってくれたが実際はどうなんだろうな。

私は絵の中の私が着ているグレーのベストを見てそう思った。


そしてもう帰る時間になったので、今日はもう遅いから送っていくよと言って送りにきた。少年は少し古いアパートの2階で手を振って角の部屋に入っていった。

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