指テニスずもう、それは愛
「いっせーので、スマッシュ!」
ビンタ飛ぶ。
「いっせーので、スマッシュ!」
ビンタ飛ぶ。
「やめて!私のために争わないで!」
「いや宗教っす」
「根深い……大丈夫このネタ」
「俺派と」
「ぼく派の」
「根深くなさそう、よかった」
「よくねえよ!」
「いっせーので、スマッシュ!」
ビンタ飛ぶ。
「いっせーので、ボレー!」
グーも。
「親指だけかよ!ぼくのは3本指でグーだ!」
そっちのグーだったのか。そしてそれはなんやねん。
「負けたー!」
膝から崩れ落ちる男。膝を痛めているわたしにはできない。うらやましい。
「ということで、ぼくと付き合ってください!」
「いや、俺を忘れないで!毎年クリスマスに化けて出るよ!」
俺男さんは泣いた。わたしはうつむいた。
「どうしたんですか、なぜ!」
「わたしは……」
幼少期、俺男派とぼく男派の争いに巻き込まれ、わたしは膝を痛めた。
指テニスずもうの流れ弾が当たり、そばがら枕に取り憑かれたのだ。
それから、わたしはピアノが弾けなくなった。かわりに今はとうもろこしを弾いている。コーン軍艦もギリいける。
「そんな私は、あらたな宗派でやるしかないのよ!」
「なんだと!」
「それは、私派だ!」
私はグーをつきあげて立ちあがり、ひとりスタンディングオベーションした。わたし、独立記念日だ。
「私は私を愛するため、毎日ネギで歯磨きを欠かさない!」
「!!」
その場の一同はくずおれた。わたしも。
「やっぱ無理、わたしにはできない!」
「無理なんかよ」
「でも、そんな頑張った自分はちょっと好きになれました」
「私さん……」
「よかったね、じゃあコーン軍艦でお祝いだ」
すると、森から湧いてくるとうもろこしたちは、私を祝福した。
「なんでふられた……俺は苦節37年、ずっと指テニスずもうを極めていたのに……」
「ぼくもだ、カレーぞうきんダンスだけは欠かしたことないのに」
「それ意味ある?」
「ネギを植えるよ、私は。どんなに土地が悪くても」
プリン色のオープンカーで爆進しながら、私は笑った。
まだ歯にはネギが通らず、ニラが奥歯にはさまってるけど、わたし、がんばります。
お読みいただきありがとうございました。
よければ作者のほかの作品もご覧ください。
長編・完結済み作品もあります。
有料ですが、よければこちらもどうぞ。
マモノ勇者と光雪の巫女(SFファンタジー)
泥中から這い進む魂たちが、祈るように照らしていく物語
https://www.amazon.co.jp/dp/B08SVRYFVB