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町医者女と市場女は友で母  作者: 雨月 そら
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木賊クリニック

 聴診器を首に白衣姿の丸メガネをした桃が診察室の椅子に座っている。白衣の中はジャージとラフである。

 

 「はーい、次の人どーぞー」

 

 桃は椅子に座って、両手を一度上に上げて伸びをしてから、くるくる回る椅子の肘掛けに両手をちょんと乗せる。

 

 「え?あれ?あぁ・・・バカは風邪ひかないんじゃなかったっけ?」

 

 「おめねぇ!」

 

 サヨリはキッと目を釣り上げて、桃にズバッと指を刺してズンズン近いて桃のおでこまで到達、一発デコピンを綺麗に決める。

 

 「何さ?」

 

 桃は視線だけ上に上げて、ニヤニヤ笑っている。

 サヨリはチッと小さく舌打ちをしてデコピッをすると大きな溜息と共に気だるそうに患者に用意された椅子へおとなしく背を丸めて座る。

 

 「はぁ、あんたと話してると頭よケェ〜にい痛くなる」

 

 「イタタタ・・・左様で。で?今日はどうした?」

 

 「どう下もこうしたも、頭が重くて、くしゃみが出て、気だるくて・・・」

 

 「あぁ〜、巷で流行のコロナかと」

 

 「まぁ・・・旦那も娘も心配してさ・・・旦那なんて付いて行くってきかないもんだから・・・頭引っ叩いて尻蹴り飛ばして仕事行かせたよ」

 

 「・・・あんた、いつも思うけど、旦那に対して容赦ないわね・・・まぁ、元々舎弟だったから・・・は、いいけど、で、熱は?」

 

 「あんた、カルテ見なさいよ・・・なんでいつも私の時は適当なのよ。はぁ・・・ない、三十六・五分」

 

 「そりゃそうね」

 

 「そりゃそうねって、どういう意味?」

 

 「勿論、熱があったらここに通さないし、あんたそれでも律儀だから、電話して確認するだろうし、というか週に何回も会ってる人間の容体が変化どうかくらいは一応、医者なんで、分かるから、いちいちカルテ見ない、の、そりゃそうね、ってこと」

 

 「はぁ〜ん・・・なんか癪に触るけど、そういうね」

 

 「まぁ・・・あんたの目の赤さ、総合的な症状からすれば、花粉症だとは思うけど、詳しく検査してく?」

 

 「・・・花粉症?秋なのに?春でさえ、花粉症の症状出なかった私が?」

 

 「まぁ、花粉症は蓄積であって、いつかコップに水を流し続ければ溢れるように、花粉症もまた自分の許容範囲を超えたら、いつ花粉症の症状が出てもおかしくないわね。こればっかりは、気合いでどうこうじゃないから」

 

 「・・・そんなもん?」

 

 「勿論、そんなもん」

 

 「はぁ・・・そっか・・・焦ったわ。でも、コロナじゃなくて良かった」

 

 「まぁ、熱がない時点で、その症状ならすぐ普通は分かるとは思うけど、まぁ、あんた健康優良児だからねぇ・・・わかんないわよね。知らないものは、分からないのが常よね。でも、念の為、検査してく?両方」

 

 「・・・いや、いいわよ。今、検査も有料でしょ?ばかになんないわよ。明らかにそうならまだしも・・・で、薬飲めば治るんでしょう?」

 

 「薬飲めば治るわけじゃないわよ。改善されるだよね」

 

 「え?そうなの?ずっと付き合うってこと?」

 

「そうねぇ・・・こればっかりは、個体差によるから、なんか食生活変えたら良くなった人もいれば、年々酷くなってなんてあるだろうし、まぁ・・・まぁ、鼻詰まってしんどいなら、薬局とかで鼻うがいとかの売ってるからそれでいいんじゃない?」

 

 「適当すぎない?」

 

 「うちは耳鼻咽喉科じゃないから、薬は処方を薬局の薬剤師さんに指示できても、血管収縮剤を噴射させる機械ないし」

 

「あ、そう・・・っていうか、血管収縮剤って何?」

 

「耳鼻咽喉科に行くとあるんだけど、あんたんちみんな化け物みたいに健康だから、知らないか。まぁ、鼻の粘膜を収縮させて鼻汁を吸いやすくしたり、鼻が詰まったのを改善さたりする薬を鼻に専用のチューブみたいなの入れて専用機械から薬を鼻の中へ噴射させんのよ」

 

 「・・・なんか、聞いただけで痛そう」

 

 「痛いかどうかは人によるだろうけど、別に大したことないわよ・・・鼻水というか鼻から薬は垂れてくるけどねぇ」

 

 「ふ、ふ〜ん」

 

 「そんな嫌だなぁ〜って顔しても、酷くなったらちゃんとした耳鼻咽喉科行かないと駄目よ。そん時は、紹介状出すし。でもまぁ、今の見た感じだと薬で抑えられそうだから・・・薬で様子見でいいんじゃない?」

 

 「あ、そう。それならいいんだけど」

 

 「ほんと、あんたんちって、早合点というか、なんというか」

 

 「なんなの、その言い方?」

 

 「こないだ、あんたんちの親父さんが来て、次風評被害がどうのこうのひとしきり喋って、帰っていったわよ」

 

 「え!ここに?」

 

 「そう、あんたと同じく花粉症をコロナかもって焦ってきたわけよ」

 

 「あ・・・あぁ」

 

 「花粉症ってわかるや否や、まぁーここに入る前のしょんぼりした感じから一点、マシンガンみたいに話してスッキリしたのか、ニコニコしてたわよ」

 

 「あぁ・・・それは、ごめん」

 

 「で?実際の所、風評被害はあるの?」

 

 「今のところは、変わらないわね。きちんと今まで通り検査もしてるし、国も企業も協力的だしね。まぁ、ちょっとテレビでも流れてたけど、外国とすったもんだが一部であったくらい。まぁ、一部、過剰に反応する人はいるからさ。でも、全体的にはそんな特に気にしてる風ではないのよね、これが」

  

 「まぁ、そうだろうね。放射線漏れの心配が当時あって、あれだけ騒いで、これも放射線が出ていて悪だなんだって騒いでた輩もいるけど、結局時が経てば、あれはなんだったの?という感じじゃない?人間、急に起こったことに対して対処できるほどできたもんじゃないってことが証明された、そんな感じね」

 

 「あぁ・・・まぁ〜そうかもね。結局、起こってしまったことは消せないし、続いていく。爪痕は残したし、でも、私達、なんだかんだで、結局日々に追われて忘れがちというか、意識しなきゃなのに薄まってる感じはあるよね」

  

「慣れ、は怖いわね。もう絶対ない、ことじゃないから。でもまぁ、過剰になるのはどうかと思うけど、意識をどこかで持ち続けるのはいいことよ」

 

 「そうね・・・ていうか、あぁ、洗濯物とか色々溜まってるから私早く帰りたいの。明日からは、ちゃんと海へ出るんだから!」

 

 「あぁ・・・親父さんと同じこと言ってるわ・・・親子ねぇ〜」

 

 桃はサヨリに聞こえないように、小さな声で呟いた。

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