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町医者女と市場女は友で母  作者: 雨月 そら
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海釣り公園

 「おめねぇ〜。仕事終わったんでしょ、からの付ぎ合ってよが、なんで相馬までぎで釣りなの?もっと近場の釣り場あったべ?」

 

 ロングの髪を無造作に肩に流し真っ青な長袖にカッパを履いて長靴姿の女性、強口(こわぐち)サヨリがため息混じりに、真横にいる釣りデッキで釣竿を海に垂れている真っ青なジャージ姿で古びけて少し傷んだ麦わら帽子を被って立ち釣りする女性、木賊桃(きぞくもも)を少し睨み付ける。

 

 「でもさぁー・・・今は処理水がどうのごうのって落ぢ着いで釣りもでぎねえでねえ?そだこどよりも、福島弁になってるよぉ〜」

 

 桃はケラケラと軽快に笑いながらも、いつ釣竿に魚が食い付くかしれず、真っ直ぐに海の方を見つめている。

 

 「うっ・・・ううん・・・その嫌味みたいに福島弁で返すのやめてくれる?それにしてもよ、今は仕方ないじゃない。処理水が海に影響しているかどうか、影響があればたちまち福島の魚介類が売れなくなる・・・私だって、海に処理水流すのはあまり快く思ってないし・・・」

 

 「周りは反対運動して、嘆いて、それでも不安で愚痴りあい?って?」

 

 「ちょっと!そんなこと、言ってないわよ!」

 

 サヨリは慌てた様子で、桃の肩を軽く叩く。

 

 「ちょ、痛・・・でも内心、思ってるでしょ?そもそも、もう流すのは変わらないし、流してるし。それにあんたんところの小名浜は、ランダムに検体を選んで検査場で放射線検査してんでしょ?それに国や電力会社も検査して、問題ないって話じゃないの?」

 

 「それはそうだけど、やっぱり不安は拭えないって話よ」

 

 サヨリは腕を組んで、ため息を漏らす。

 

 「まぁ・・・東日本大震災の後の風評被害っといったら・・・酷かったからね・・・」

 

 「そうよ。あれから私も、親が漁師ってこともあってさ・・・私、一人っ子だから継ぐ人間いないし・・・最近だと継ぎ手が少なくなってさぁ〜・・・だから、女とか男とか関係なく、やれるもんがやったらいいって、親や旦那の反対を押し切って女だてらに、女漁師やり始めたけど・・・やっぱり、あの時の影響は大きかった・・・今も、その影響があったから、売れないかもと思う年配者は多いわよ」

 

 「あー・・・何気に頭硬いって、言いたい?」

 

 「ちょっと!そんなこと言ってないでしょ!なんなのさっきから、棘があるわよ!」

 

 「・・・でもさぁ・・・結局、私達地元民は、検査結果を信じて、スーパーに並んだ魚を食べるわけじゃない?処理水が入った海だから食べませんとか・・・どっかの諸外国みたいなことは言わない」

 

 「そんなの当たり前でしょ!私も不安じゃないと言えば嘘になるけど・・・地元の魚介類が売れなくなるのは嫌だもの、食べるわよ、信じてるもの!」

 

 「でしょ?結局、信じるしかない・・・ある種の祈りよ・・・早く普通の目で見てもらえるようにって・・・」

 

 「え?どういうこと?」

 

 「異物があると人間は、敬遠する。それは多分、みんな一緒。きちんとした検査と数値を出しているのにも関わらず、前の恐怖に怯えている。他の国がどういう考えで言ってるかは知らないけど、私達こそが、日本人なんだもの、信じないで何を信じるの?ってことよ。それができるってことは、普通に見えてるってこと」

 

 「あぁ・・・そうね。なんでもないなら、色眼鏡で見ることもない・・・過敏になりすぎている・・・まぁ、そうよね・・・ただ、漁師自体があれから減り続けて、これでもっと減り続けたら・・・続けていけないじゃない?まぁそう思う人も少ないくないって、思うのよ」

 

 「成り手の問題は、きつい、汚い、危険の3Kと呼ばれる若者不人気労働要素が揃ってるから、もあるんじゃない?」

 

 「それはそうだけど、風評被害での収入源の不安定さを考えると、マグロ業と違って一発逆転みたいな稼ぎはできないからね」

 

 「そんなこと言ったら、農業でも悪天候が影響して収入不安があるのは、変わらないでしょう?」

 

 「確かに・・・まぁでも、どっちも後継者を育てないとできない職業だから・・・後継者がいなくなるのは困る・・・そういう思いからのやるせない気持ちや不安が口や態度に出てしまう・・・仕方ないじゃない?」

 

 「国の支援といってもこれと言って、魚食べて安全ですというばかりで、後継者を育てる支援してくれるわけじゃないから?」

 

 「そうそう・・・ちょっと、勝手に私が言ったみたいに言わないでくれる?」

 

 「でも、あんたんところ、家族揃って漁師じゃない?後継者問題は、クリアできてるでしょ?」

 

 「何が因果で、成人した娘が漁師よ・・・親としては、泣けるわよ」

 

 「あぁ〜、ヤンキーみたいな金髪頭で?まぁー目立つわよね」

 

 「は?誰の娘がヤンキーが?」

 

 「ヤンキーとは言ってないけど、あんたはヤンキーだったわよね?っていうかガラ悪いの出ちゃってるわよ?」

 

 「な!・・・う、ううん・・・何よ、あんただって、瓶底ガリ勉委員長だったじゃない!そんな根暗に、言われたくないのよ!」

 

 「まぁ・・・集中したかったらねぇ〜。無闇に近寄らないでオーラ出してたからこそ、ガリ勉できて、医者になれたんだからさぁ〜。根暗っていうのはどうかと思うけど、別に・・・ちょ、ちょ、引いてる、引いてる!!」

 

 釣竿がしなって桃は慌てて釣り上げる体制になるが、へっぴりごしでどこか素人っぽい手つきである。

 

 「全く・・・その釣る前は一丁前に釣人気取りでカッコつけてるのに、いざ引きが来るとオドオドするのどうにかならないわけ?毎回、あんたが釣りしたい時に連れまわされて、しんどいのよ。頼むから、いい加減、自分で釣れるようになってくれる?」

 

 サヨリはため息混じりに、桃の背中に回ってぐいぐい竿が引っ張られるのを引っ張り返す。

 

 「さっすがぁ〜!」

 

 「さっすがぁ〜じゃないわよ。毎度。あんたの釣り要員じゃないんだから、しっかりしなさいよ・・・少しは筋力つけたら?」

 

 サヨリは桃の細い腕を見て、薄め目で見る。

 

 「まぁーまぁー、これでも力あるわよ?まぁ〜、サヨリほどじゃないけどねぇ〜」

 

 釣り上げた魚を水の入ったバケツに入れて、バケツを持ったサヨリは、顔は笑顔なのに口元が引き攣っている。

 

 「じゃ、これお願いね、先生!」

 

 バケツをサヨリの手に渡すと、畳んだ釣竿を肩に乗せて桃はずんずんと大股で先を歩んでいく。

 

 「ちょっと!待って〜」

 

 桃はバケツを一旦置いて、荷物を背負うともう一度バケツを両手で重たそうに持ちながら、サヨリの後を追いかけた。

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