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RE.D PAST  作者: 加藤けるる
神崎編
9/36

力の結論(前編)

カチャッ。

スピナーが止まった。



視界がぼんやりとしていたので、まず時間を置いて、意識をはっきりさせる。


辺りの光景・状況が、少しずつ分かってくる。薄暗い場所である事、その次に屋内である事……そして、自宅の寝室でベッドに横たわっている事に気付いた。

窓際の青いカーテンは閉まっている。すぐに起き上がり、サイドテーブルのデジタル時計を確認する。



──10月28日、朝だ。今日の昼頃に、また村野と七瀬さんが僕の家に上がり込んでくる。

タイムリミットは明日。まだ余裕はある。しかしこんな早い時間に戻ってきても、何かできるだろうか。


……それにしても、何だろう。この時間逆行(タイムリープ)も、次第に慣れてしまっている。ちょっと不思議だ。

そんな事を考えながらも、僕は暫く、時間を持て余していた。



昼になる。家のチャイムが鳴った。

黙々と座っていたダイニングの椅子から、すぐに立ち上がって玄関へと駆けつける。


「おっ、じゃまっ、しまーす!!」

「か、神崎くん……おはよう」


玄関の扉を開けると、私服姿の村野と七瀬さんがいた。二度目なので、僕は多分、真顔だっただろう。

二人は手を上げて挨拶。にやにやと笑う陽気な村野の隣、上げている手も震えていて、俯きながら、申し訳なさそうに僕を伺う七瀬さん。


──村野はいつもの如く、元気そうだった。

「あんな事」に巻き込まれている素振りなんて、僕は一度も見たこともない。僕の入院初日、村野のアザを見た時。あれが唯一、最初で最後のそれだった。


もしくは、ただ単に僕が……今まで気づけなかった、だけなのか。



「『おいおい、また村野が来た』って思ったろ? 神ざ──」

「ううん。どうぞ中に入って」


僕は腕を退け、玄関に入れる隙間を作る。「え? い、いいのか?」と唖然とする村野と七瀬さん。

……まさか、そこまで驚かれるとは思わなかった。僕の対応が、よほど意外だったのか。


「神崎くん。そ、その、急に私たちが押しかけて迷惑とかじゃ……」

「……んま、いいんじゃねーの? 外寒いから、さっさと中入ろうぜ!」


調子のいい村野はそう言うと、僕の横をすり抜けて玄関の中に入ろうとする。

だが。僕は中に入ろうとする村野を、瞬発的に腕で止めた。──やっぱり、まだ僕の家には入れられない。


「……は!? どーして止めんだよ、気が変わったのか!?」

「いいや。その代わり、質問に答えてほしい」


僕はゆっくり首を振ると、村野はこの事態に驚いている様子だった。

入る寸前で止められ、眉を(ひそ)める村野。けれど今聞かなきゃ、僕の気が済まない。



「村野──暴力を受けてる、とかないか」

「は……?」


半ばストレートに言うと、唖然とする村野。その直後に顔を斜め下に向けた。

七瀬さんも驚いている様子だったので、僕の発言で初めて知ったのだろう。



「えっ? 神崎くん、どういう事……?」

「前に聞いたんだよ、先生に。4人組グループに、いじめられるって」

「う、うそ……そうなの、村野くん?」


心配そうに村野を見つめる七瀬さんに対しても、彼は気まずそうに目線を逸らしている。

沈黙の空気。そよ風の音が、鮮明に聞こえてくる。


もはや村野の反応を見れば明らかだ。やっぱり……。



「──ぷっ、あっはははっ!!」


え?

鮮明に聞こえていたそよ風の音を打ち破るかのように、村野は大声で笑う。


「お前、あっはは! はぁー! 俺がそんな、いじめられてる訳ねーじゃん!!」


村野は腹を抱えて、ふざけているかのように笑った。

僕と七瀬さんは、その笑い声に混乱する。


「えっと、あの。村野くん、ほんとに? 嘘とかじゃ──」

「いやいや! 嘘なんかじゃねーよ! あれ、もしかして……変な誤解とかさせちまった!?」


七瀬さんは心配そうにそう言うが、陽気げに村野は、彼女を横目に見てそう返す。そんな風に言う村野は、あまり嘘をついているように見えない。


……何でだ? 先生の言っていた事が間違っていたのか、村野が演技派なだけか……?

僕には、こいつの考えている事が、全く理解できなかった。



「あのさー、もう中入っていい?」


考え込む僕をよそに、村野が玄関の中を指差してそう言う。

質問には応じてくれた。なので、約束を破るわけにはいかない。僕が渋々腕を退けると、村野はすかさず中に入っていく。


──その時、七瀬さんも少し不安そうな表情をしている事に気づいた。


───────────────────────


「ありがとな、神崎! もう俺お腹いっぱいだわ」

「こ、このお礼は、いつかするね」

「ううん。こちらこそありがとう」


その後、また料理を振る舞うことになった事に関しては、言うまでもない。玄関で靴を履き終えた二人と会話する。

……七瀬さんが、過去に戻る前よりも元気が無いように見えるのは、気のせいだろうか?



「じゃ、またな〜っ!」

「あ、また明日……!」


その後、家の外で手を振る二人を、僕は静かに玄関で見送る。

二人はしばらく手を振った後、背中を向けてそれぞれの家に向かっていった。

このまま帰らせてしまって大丈夫だろうか、と頭によぎる。だが引き留めた所でどうする事もできない。



しかし──しばらく僕が玄関で見送っていると、七瀬さんが突如、その場でピタッと立ち止まった。

村野はそれに対し、心配そうに彼女の様子を伺って声を掛けていた。

遠くからだったので、ハッキリとは聞こえなかったが。「どうした、七瀬?」と言っていたのだと思う。



何も言わないまま七瀬さんは、少し経ってから早歩きで僕の前に引き返してくる。

村野は置いて行かれ、遠くから不思議そうに、僕らのことをじっと見つめている。


真剣な表情の七瀬さんは、内緒話をするように、僕に数歩ほど近付いて小声で言った。


「……あのね、神崎くん。私も、一回聞いたことがあって」

「……え?」

長野(ながの)ちゃんっていう友達から聞いた話なんだけど。神崎くんの言う通り村野くんは、その……いじめられてるかも、って」


えっ? じゃあやっぱり、本当にあいつは……。


「じゃあなんで、村野は僕らに言ってくれないんだろうか」

「……それぐらい、自分の弱いところを、見せたくないんじゃないかな」



自分の……弱いところ? 僕にはピンと来なかった。


「そういう事情、村野くんにとっては、きっとコンプレックスなんじゃないかなって思う。なんというか……村野くんの心は複雑な気がするんだ。単に私の想像だけど……」


明るく陽気な印象をもつ村野だが……その胸の奥には、一体何があるのだろうか。

もしかして、僕にすら分からない事も──。



「おーい! なーに話してんだよ! さっさと行くぞっ!」

「あっ、うん! ……じゃ、じゃあバイバイ、神崎くん」


待ちくたびれていた様子の村野は、手を口に当てて七瀬さんに叫ぶ。

七瀬さんは村野の方を見て、僕と軽く手を振り合った後、彼のほうへ向かっていった。


──村野に対して、僕ができる事は、命を救う事だけなのだろうか。

そんな物憂げな気分に陥りながらも、元気そうな村野の後ろ姿が見えなくなるまで、ただその場で見送っていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


翌日、10月29日。

いつもより早く、学校に来てしまった。今日の昼頃に、村野は死んでしまうはずだ。……その事を考えていると、夜も眠れるはずがない。



眠気覚ましに運動場を散策していると、辺りには人が少ないこの場所。

部活の練習を個人で行なっている生徒も、少なくはない。大きなグラウンドにぽつんといたユニフォーム姿の村野も、その一人だった。

……あれ? 村野も学校に来るの、早いんだな。


早朝の静寂な運動場に、砂をザッと蹴る音がよく響く。

村野はサッカー部だし、一人で朝練でもしているのだろうか。

けれどあいつ、部活はサボってるとか言ってなかったか? ……案外、真面目なのかもしれない。



離れた所で村野の様子をじっと見ていると、彼が思いっきりボールを蹴ったせいで、僕の足元にボールが勢いよく転がってくる。

村野はその場に立ち止まり、こっちの方を見た。……どうやら僕の存在に気付いたようだ。


「……おーい! そのボール、俺にパスしてくれーっ!」


少しにこっと笑顔を見せて、大声で僕にそう指示する。

足元には、サッカーボール。……仕方ない。あんまり自信ないけど、とりあえず思いっきり蹴ってみるか……!

村野の方向に合わせ、ボールを力強く蹴る。



「──ぁ」


しかし渾身の蹴りは掠っただけで、ショボい勢いのまま、ボールは真っ直ぐ右方向に進んでいく。

人の少ないこの場が凍りつく中、それが転がる音だけが、僕の耳に響いた。



「……ボール蹴るの、難しいね」


僕が苦笑いしながら、唯一出てきた言い訳がこれだった。恥ずかしい。すごく恥ずかしい。


「ぶっ……あっはっはっは!! お前意外と運動音痴かよっ!?」


村野は腹を抱えながら大笑いする。とても苦い屈辱を味わった。

笑いたければ笑ってくれ。でもこの事、誰にも言うなよ……っ。



その後、しばらく村野と、一緒にサッカーボールを蹴り合っていた。

いや、ゆっくり蹴れば、どうにか上手くコントロールできる。ゆっくり蹴れば……。


「……村野。ここでボール蹴ってたのって、朝練か?」

「ん、あーそうそう! 最近はさ、ほとんど朝練だよ!」

「えっ、そうなのか」


村野がここまで熱心なのは、かなり珍しい事だ。

……少なくとも勉強も同じように取り組んで欲しいというのが、僕の本音だ。他人の心配はあまりしないけど、こいつが留年しないかは不安である。



「……何で最近になって、そこまで熱心になったんだ?」

「ん? ああ、俺に弟がいることは知ってるだろ? その弟が理由ってのも、あるかもしんねーなー」

「えっ、どういう事だ」

「弟もサッカー部だしさ、なんつーか、負けてらんねーってこと」


村野の弟も、同じサッカーの部活。

「負けてらんねー」って、それは何の勝負なのかは知らないが。ただ、それを話す彼の声の明るさが、熱心に励んでいる想いを強く証明していた。



「じゃあ、アザも朝練で出来たのか?」

「──え? ……あ。そそ! そゆこと」


不意打ちを食らった一瞬の焦りの表情も、僕は見逃さなかった。

やっぱりこいつ……そこまで僕に秘密を隠し通したいのか。正直、あまり良い気分では無かった。


───────────────────────


授業が終わって休み時間になった途端、クラスの教室で自分の席に座っていた。

僕は、村野の方を確認する。村野も自分の席に座り、教科書をしまっている様子だ。


……まだ村野はいる。

けれど、あいつが事件に巻き込まれるまでには、もう時間の猶予もなさそうだ。


深呼吸した後、僕は席を立ち、村野のいる方へと歩く。

しかし同時に、村野の肩を背後から叩いている誰かに僕は気付き、そのまま立ち止まる。



「──よー、村野じゃねーか」

「……!」


その声は、荒々しくも若い男の声だった。


……折原拓海。良からぬ行為を行なっている主犯だ。

後ろには三人の男子生徒。折原含む全員、さっきまでこの教室には居なかった。……おそらく全員、他クラスの奴だろう。


四人の威圧感が半端なく、僕もそのせいで足を止めてしまった。

村野は驚いた表情をして以降、一言も喋る気配もなくただ俯いている。


「あー。今日も調子よくてさ……遊ぶ相手が欲しかったんだよな。早く行かねーか?」

「……はは。俺、今日、ちょっと用事が──」

「俺たち友達だろお前に拒否権なんてないんだよ」


村野は焦った状態で席を立って去ろうとするが、後ろの取り巻きのような男子生徒が、彼の腕をがっしり掴んで止める。

折原は鋭い目付きで、自分の右小指の爪をガリガリと噛んでいた。



村野は、青ざめた顔をしている。

あんなに怖気付いた村野の表情を見るのは──初めてだ。


……今まで村野はあんな奴らから、ずっといじめを受けていたのか……?

やっぱり、なんで僕は今まで気が付かなかったんだ……? これまでもきっと、気付けるチャンスは少しでもあったはずなのに……。


でもこんな時、一人で考え込んでいる場合なんかじゃない。こうなったらと、思い切った僕は……折原の方へと歩く。



彼の隣に来て、村野を掴んでいた折原の手首を、ぐっと強く掴む。


「──こんな事はやめてください」


口元を震わせながら、やっと言えた。後ろの三人組の身長に怯えながらも、僕は折原の睨まれる目を、そっと睨み返す。

……正直、頭の中は恐怖でいっぱいだった。後ろに回していた方の手が震えていたのも、そのせいだ。


「お前、誰? 俺たちの邪魔しないでほしいんだけど」

「神崎、です」

「あそ。別にいいじゃん友達と遊ぶぐらいとか。友達と遊ぶのがダメってあんたキチガイじゃねーの」


強引な言い方だ。折原にその手を振り払われ、四人にさらに睨まれる。村野はただ何も言わず、顔を俯かせた状態だ。

──でも僕は、こんなやり方、全然好きじゃない。


「友達と遊ぶぐらいならいいんです。でもあなたたちの遊ぶ(・・)って、どういう意味ですか」

「……は? ふざけてんの?」

「いや……何もふざけてません」


折原は村野を無視し、僕の目の前に立った。

三人も折原の後ろで僕を睨む。僕の中で、ぞっと冷たい空気に覆われる。


ここまで人に嫌な目で見られるなんて、思ってもみなかった……。

冷静な表情のまま押し通そうとしているが、額には見えないような汗が滲む。


けれど、ここは僕らの教室。

他の生徒がいる中では、彼らもきっと武力行使は不可能だ。



「──かっ、神崎くんを、いじめないでください!」


そんな事を考えていると、僕らの様子を見ていた七瀬さんが、横から乱入する。

僕と折原の間に立ち、手を広げて庇ってくれて……少しだけ安堵した。正直、今度は七瀬さんが犠牲になるって、不安にはなったけれど。



「……何言ってんの?こいつらが俺たちに、ちょっかいかけてきただけ」

「そんなことっ……!」

「うるせーな! ただ話し合いしてただけだろーが。女は黙ってろ」


……案の定だ。許せない、七瀬さんを単に「女」呼ばわりするだなんて。

七瀬さんも強がっているが、背中からして……怖さと悔しさの感情が見て取れる。



「──ねえ、どうしたの!?」


そんな時、職員室か何処かにいたはずの冴島先生が、やっと教室に現れる。

……気がつけば辺りの生徒たちも、こちらの方を見て騒いでいた。


折原はそんな状況を見て、他の三人を連れてすぐに教室から出ていった。

ようやく周りの様子も、いつも通りに戻った。


「大丈夫?」

「……うん、大丈夫。あの人たち、ひどすぎるよ」


七瀬さんに心配の声をかけた。……少しこわばっていたが、僕の顔を見て冷静になったようだ。

次に村野を見ると、未だに沈黙したまま、顔を俯かせた状態だ。僕は彼に近づき「大丈夫?」と声をかけるが、返事はない。


「……って……んなよ」

「え……?」


少し経つと、村野はようやく口を開いた。でも明らかに様子がおかしい。



「頼むから、勝手な事すんなよ────!!」


何故かその時、彼は不機嫌に怒りだし、廊下の方を走り去っていった。

学校のマナーを無視する程、取り乱しているように見えた。


「む、村野…!?」


僕は村野を追いかけようとしたが、七瀬さんに左腕を掴まれて止められる。


「っ!?な、なんで止めるの……?」

「ごめん、神崎くん。今の村野くんは、もしかしたら、一人にしてあげたほうが」


そう言われて僕は何も言えず、その場に呆然と立ち尽くしてしまった。

え? 何で? 僕はただ、村野を救おうとしただけだ。なのに何故、あんな風に言われてしまったんだろうか……?


七瀬さんが暗い顔をしていたのも、あまり意味が分からなかった。僕は、「村野の気に障る」ような事をしてしまった……??



「……神崎くん、七瀬さん。もしよければ、私に何があったか説明してくれない?」


いつの間に横にいた冴島先生にそう訊かれる。

僕らは先生に、これまでの事情を説明した。



説明を終えた後、冴島先生はうーんと考えるような素振りを見せた。


「いじめ……薄々気付いていたけれど、あの四人組は確かにおかしいのよね。けどまさか、そこまで酷いとは思わなかった」


先生は額に手を当てて、僕と七瀬さんに対してそう話した。

横にいた七瀬さんは、冴島先生に疑問を抱く。


「先生は気付いていたんですか?」

「ごめんなさい。それに関しては本当に初耳なの。だけど、あの四人は全員問題児だって噂だけは聞いたことがある。特に、あの折原くんって子は」



どうやら折原には、何らかの事情があるらしい。それに関しては、詳しいことは聞けなかった。


「何にせよ、教師として見過ごせない問題だし、今から上の先生に報告してくる。だから安心して……!」

「そうですか……あ、ありがとうございます」

「いえいえ! その、本当にごめんなさい。私たちもこの事に気付くべきだったから」


僕はお礼を言うと、冴島先生は優しい表情で、教室を出ていった。

……先生ですら気が付かなかった。村野はそこまで、この件を隠し通したかったのか……?



村野の様子を確かめにいった方がよさそうだ。

そう思っていた矢先、蒼さんが先生と入れ違いでやってきた。


「あっ、実花ちゃんと……神崎くん!」

「りんちゃん! どうしてこの教室に?」

「うん、勉強も終わったし、退屈だったから。実花ちゃんと会いたくなっちゃって!」


その会話を、僕は二人の横で聞いていた。

直後。笑顔とは一変して、蒼さんは不安げな表情になる。


「……あのね、さっき村野くんとすれ違ったんだけど、明らかに様子がおかしかったんだ。たしか生徒四人に絡まれてて……」


生徒四人……って事はもしかして、折原達?

あいつらは、まだ諦めてない……?



──まさか。

この時まで、明らかに油断していた。すぐに二人を置いて、理科室へと向かう。


「あ、待って神崎くん!? 廊下走っちゃ……!?」


蒼さんに一言注意されながらも、僕は振り向かず、少し歩幅を緩めながら、それでも間に合うようにと走り出した。



「──お、おい、ちょっとあれやばすぎるだろ……!」

「いやいや! 先公にバレたらガチでやばいやつ! あの野郎、いい加減すぎるだろ……!」


そして、廊下の途中。


男子生徒三人が逃げるように僕の横を通り過ぎ、二人がそう話しているのを聞いた。

その途端、僕の中ではもう、半分諦めがついていたのかもしれない。


───────────────────────


教室の自分の席に戻ると、七瀬さんが俯いて僕に謝罪した。


「ごめんなさい。私が……神崎くんを止めたから」


……理科室で目撃した状況は、最初の状況とほとんど、いいや。「全く」一緒だった。

折原は髪の毛をぐしゃぐしゃに荒らしながら、村野の死体を見て、不気味に笑っている光景。


その直後、七瀬さんも後から僕に付いてきたため、状況を目撃してショックを受けてしまった。

村野を追いかけようとした僕を、止めてしまった自分を責めてしまっているのだろう。


「──いいや、七瀬さんは、何も悪くない」


でも違う。それは違う。悪いのは僕だ。

おそらく、僕が先生と話している合間に……村野から目を放してしまったから。


元々そう簡単に、過去を変えられるとは思っていない。

少しずつ試行錯誤を繰り返せば、きっと。きっと、「物事の構造」が見えてくるはずなんだ。



放課後、家に帰った僕は、すぐにポストの中に入っていたスピナーを回した。

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