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RE.D PAST  作者: 加藤けるる
神崎・七瀬編
35/36

いつまでも忘れない(前編)

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「……か…、神崎……くん…?」


声を掛けても、一向に返事をしない。いや、するはずもない。

あまりに突然の出来事に、思わず硬直して気が動転してしまった。


真夜中の大きな倉庫の道で、壁に寄りかかって、頭部から血を流す神崎くん。

彼の目の前に立つのは、先が真っ赤な鉄パイプを持っていた、デイビット。



「神崎くんっ…!?かんざき…くん…っ!!!」


すぐ彼の近くに寄って、肩にぐっと手を乗せて声を掛け続ける。

けれど目を開く事もなく、やっぱり未だに返事はしてくれなかった。



う…、嘘…?


神崎くんが今死んじゃったら、私……!!!!



その時、背後から腕を掴まれた。この大きな手に反応し、私はバッとその主を横目に見る。


「ハハハッ!いいですね、その目は。私の記憶に残りそうです」


こんな状況でも、デイビットは笑う。…まるで悪魔みたいに。

そして腕を掴まれたまま、私は恐怖のままに壁へ壁へと追い込まれる。




「_______さて。アナタも、もう終わりにしたくありませんか?…おっと動かないで、余計に傷が深まりますよ」

「いや……、いや、いや…っ!!!!」


もう一方の手には、神崎くんを殴った鉄パイプを持っていた。

必死に身動きを取ろうとしても全く動けず、そして彼の持っていたそれが振り上げられ、ひたすらに目を瞑って叫んだその時。



……ドッ!!!

鉄パイプが、強く当たる音がした。




「_____感心しないな、デイビット。やはり交渉は破談で正解だった」


一瞬、何が起こったか分からなかった。

ただ全く痛みは感じず…、縮こまった私の目の前に「救世主」がいた。



「ッ……!アナタは…!!」

「済まないな、七瀬実花。こんなことに巻き込んでしまって。少し調べ物があって、来るのが遅くなった」


その疲れ気味な陽介さんの声に、思わず安堵する。

私の身代わりになって、鉄パイプの攻撃を受けてくれたみたいだった。



焦って気が抜けているデイビットを見て、陽介さんはその隙にパイプを奪って遠くへ飛ばし、彼の体を床に押し付ける。

その姿、まるで粋な刑事みたいで、思わずちょっと胸が熱くなる。


「私を捕まえても、いい事なんてありませんよ?RE.Dでの罪は…問われない!ハハハッ!」

「それはどうかな。君は今、小学生男児に重傷を負わせた。十分な罪は問われるはずだ」


二人の会話は、まるで本当に悪い意味で、腐れ縁な雰囲気がした。



こんな悪魔のような人間なんて救いようがないと、私は心の中で思う。

そんな風に思っていた私の事も知らず、デイビットはただ気味悪く笑い続けた。




やがて別の部屋にデイビットの身柄を拘束して、神崎くんの元へ戻る。


「陽介さん、彼は無事なんですか…!?」

「まだ無事だが、命に関わる状況だ。病院に電話しておいたから、救急隊がすぐに駆けつけるだろう」


私は陽介さんに対し、ぺこりと頭を下げた。

真っ赤なおでこが目立つ、口を少し開けて無反応な神崎くんの方を見る。

髪の毛の下からとにかく出血してるし、それを見て不安になる。


「七瀬実花。君の『死の運命』は過ぎ去った。もう命に関わることは起こらないだろう。

……この彼が、全てを背負った形になってしまったが」



私は彼の肩に手を乗せ、彼を想う。


神崎くんはこれまでの間、「運命を変えること」を諦めなかった。

私と一緒に協力してくれたのもそれを変えるためで、本当に諦めきれなかったのかもしれない。


そんなものが、自分にどんな影響を受けるのかも知らずに。

私たちの事なんかより、もっと自分自身のことを心配すればよかったのに…!



元々、私がここまでやって来たから、神崎くんを危険な目に合わせてしまった。

何度でも謝りたいから、お願い。早く…はやく…!




「_______お願いだから、早く戻ってきて…っ」


その目をぎゅっと閉じて、心の中でただただ祈り続けた。

いくつもスーッと涙が頬を伝い、少しだけくすぐったい。



「彼のことが、本気で好きだったということか」

「………。」

「…済まないな。こんな結果を生み出してしまうとは、私自身も思わなかった」


そんな…!それじゃあ、神崎くんが死んじゃうみたいな言い方だよ…!?

一瞬冗談だと思い、陽介さんの方を見る。いつも以上の真顔で落ち込んでいる様に見えた。




そんなのって、ないよね…?神崎くんがこのまま死んじゃうなんて、あり得ないよね…?


村野くんの家で神崎くんと初めて顔を合わせた時。私の命の危険に真っ先に助けに来てくれた時。

雨の公園で泣いていた私を抱きしめてくれた時。そして、二人きりの歩道橋を何度も歩いた時。



これまで過ごした神崎くんとの時間が、頭いっぱいに浮かんでくる。


…けれど、もう……そんな思い出が、私の中で消えてしまいそうな気がして……

泣いた勢いで思わず、プチリと意識が切られていた神崎くんを、おもいっきり抱き締めた。


う、うそ……わたし、わたし……!!



________ねえ、神崎くん。……まだ、終わりなんかじゃないよね……?

































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「………。」


ゆっくりとまぶたを開く。何だか、頭が物凄くぼーっとした。

まるで今までの事が嘘だったかのように、穏やかな鳥のさえずりが、晴れた窓の外から聞こえてくる。

ここは部屋の中…なのだろうか?


目を僅かにはっきりとさせると、どうやらここは…見覚えのある、真っ白な空間だ。

思わず布団の中の脚を動かそうとするが……ピクリとも動いてくれない。



………ん?


自分の手をちらっと見ると、元の高校の頃の姿に戻っている。…というより、それより少し大きいような…。




「……あ、あれ?起きられたんですか!?」


すると、部屋の中に入ってきたマスクをつけた看護師の女性に、驚いた顔をされる。

あれ?その瞬間、僕は何かを察した。ここは病院で、僕は今……




その後、医者の方からここで詳しい話を聞く。

ここ数年間、頭蓋骨を鈍器で殴られた衝撃で、僕はずっと病院のベッドで眠っていた。


つまり、「昏睡状態」だった…というわけだったらしい。

それも約8年…。かなりの時間をここで過ごしたそうだ。




現在の日付は……「2021年5月26日」。

正直そう聞いた時、あまり信じることは出来なかった。医者の人も、随分と気にかけて話してくれる。


同時に、あらゆる疑問が浮かんだ。

僕は昏睡状態で、七瀬さんと同じ高校に行くことはなかった。みんなは今、どうしているのだろうか。


もう一つ。デイビットや殺人兵器RE.Dは、最終的にどうなったのだろうか?

……いや。それ以外にも、まだまだ分からないことだらけだ。



「うっ……だ、大丈夫か、浩太!!」


医者の人が立ち去った直後。まるで切羽詰まったようにやって来た彼。

それはこの頃にはもう死んだはずの、僕の身内。口にマスクを付けていた。


父さんが、い…生きてる!?ってことは、RE.Dはもう起動していないのだろうか。



自分が今見ているものが信じられなかったのか、父さんはじっと目を凝らして僕を見た。

随分と心配するような目だ。かなりの時間眠っていたから、当たり前の反応だと思う。


「……なに…が」

「ん?」

「………何が、あったん…ですか。みんなは…どうしてますか?」


それを聞いて唖然とした表情だ。僕の敬語に驚いたのだろう。

声変わりしたこの懐かしい低い声。使うのが久々すぎて、すぐには上手く話せなかった。




小学校の同級生だった長谷田くんに茅野さん、寺岡くんも、今は別々の進路を歩んでいるらしい。

七瀬さんの母親は、僕が昏睡状態になってからすぐに科学者を辞めて転職し、今は電話に掛けても出ないそうだ。


そして僕は肝心の、七瀬さんの安否について聞いた。


「…悪いが、それ以上のことは聞かされていないんだ。力になれずすまない」



どうやら父さん自身も、聞かされていないことが山ほどあるようだ。

ってことは…。父さん以外の人が何か、知っているのかもしれない。


ふと、窓の外の上をちらっと見る。太陽の光を、多少の雲が阻んでいた。

こんな空模様の時はどうしても不安になってしまう。



…すぐにでもこの病院を飛び出して、七瀬さんを見つけてしまいたい。

けれど今は手足の筋肉はあまり動かない状況で、そんなことは出来るはずがない。


そんな風に考えていると、父さんは仕事へ立ち去っていった。

確かに、さっきまで白衣を脱いだ仕事着だったような気がする。




その日の夕方。一人だった僕の元に、もうひとり見覚えのある人が現れる。


「…久しぶりだな。君の父親から目が覚めたと聞いて、駆けつけてきたよ」

「よ…陽介さん…!」


8年ほど経ったせいか、彼の頭から多少の白髪が目立ってきたような気がする。

けれど見た目はほぼ変わっておらず、クールな中年のままだった。


僕は陽介さんに、聞きたいことがたくさんあった。



「あの…。どうしてみんな、マスクを付けているんでしょうか」

「ん?ああ、そうか。それについては、話が長くなる。今は気にしないでくれ」


そういえば、陽介さんも口にマスクを装着している。今、インフルエンザでも流行っているのだろうか?


「それより。君は何より一番に、私に聞きたいことがあるはずだ。そうだろう?」



それを聞き、ハッとする。確かにこんな考えで頭がいっぱいだった。

彼女は今、どうしているのだろうか…って。


丸椅子に座った陽介さんに、思い切ってこう質問する。ここに来て唯一聞きたかったことだ。




「あの。七瀬さんは……元気ですか。」




そう聞くと、こう返ってきた。



「彼女は今も元気にしているよ」


陽介さんらしい、淡々とした返事だった。



……それを聞き、全身の筋肉が脱力した気がした。元からなんだけれども。

ただよかった、よかったって、心の中で想い続ける。そんな風に思っていると、涙腺すらスッと脱力した。


「あの時私が駆けつけなかったら、彼女も血塗れだっただろうな。とはいえ、君がRE.Dの身代わりを受けたから、そんな事は無いと思うが」

「僕が代わりに、七瀬さんの死を受けたってことですか?」


そう聞くと、頷く陽介さん。


「……話が早くて助かる。君が今ここで目を覚ましたことすら、奇跡に他ならないんだ」



こんな時に限って、七瀬さんが夕方の歩道橋で見せてくれた、あの笑顔を思い出す。

僕にはもう、あの子しかいない。彼女の笑顔を思い出すと、過去の苦い記憶が消えてゆく気がして…


結局、布団に嬉し涙が滲みてしまった。

下を見ていた僕に、そっと青いハンカチを差し出す陽介さん。僕はそれを受け取って使った。


「いいかな?」

「…あ、はい。ごめんなさい」



どうやら気を遣って無言になっていたらしく、話の続きをしだした。


「例の場所に設置されていたRE.D本体の中身は、赤い石だった。タイムスピナーの核である、青い石よりサイズは大きいが、性質は同じだ」

「赤い…石……」


前に陽介さんは、たまたま山奥で見つけたって言ってたけれど…。

デイビットも、同じようにどこかに石が落ちていたのを見かけたのだろうか。



「もちろんあの石は、二つともハンマーで砕いて処分した。これ以上あの研究を続けていると、ろくな事がないと思ったよ。

…科学者として、多少の後悔はある。だがな、我々にとっても、君たち以上の人間を犠牲にしたくはなかった。」

「……賢明な判断だと思います」


石の研究に囚われず、思い切って処分した陽介さんは、すごい人だ。

確かに、これ以上あの石の謎を追求し続ければ、また犠牲者が現れていたかもしれない。



「あの。最後に陽介さんに聞きたいことがあって」


僕がそう話すと、陽介さんが改まって体の向きをこちらに向けた。




「…どうして今まで、僕らにこんな事を頼んできたんですか」


ずっと、その事が気になっていた。


僕と七瀬さん以外の人にも、千里さんやRE.Dのことを、頼む事が出来たはずだ。

なのに何故、僕たちにこだわったのだろうか?



すると、陽介さんは深呼吸をした。

そこまで緊張して話す事なんだろうか?よっぽどの理由のはずだ。


「ああ、それは……_________」



そして、陽介さんが打ち明けてくれた。これまで僕たちにタイムスピナーを託してきた「理由」を。

…なるほど。彼が話した理由を聞いて、今までの謎が全て解けたような気がした。


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