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RE.D PAST  作者: 加藤けるる
神崎・七瀬編
28/36

約束と小さな命(後編)

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今日は暇を持て余してしまい、お母さんに内緒で私は家を出てしまった。

何気なく、どこか散歩したい気分だった。……あとで怒られそう…。


夕焼けに染まる建物。晴れ渡る空に、気持ちのいいそよ風の声。

やっぱり外にいた方が、気分が落ち着く…かも。ただ、この小学生の姿で、変な人に話しかけられないか心配だけど……。


当てもなくただ歩いていると、ふと懐かしいものを目にした。



神崎くんとよく話していた、あの歩道橋。

それを見つけた私は、すかさず走って橋の上に移動した。


手すりに掴まって真上を見る。雲一つなさげなその空に、思わず息を呑む。



神崎くん、本当に幼馴染の事を救うつもりなのかな。

確かに、少しでも救える可能性があるのなら、それを諦めることは出来ない。けれど、私……


「まさか、あそこまで出来る奴だとは思わなかったよな…」

「ほんとにすごかったねー!神崎くん」


…え?神崎くん…?


バッと背後を振り返ると、私の横を通りかかった、小学生高学年の男女四人組が話していた。

その内の一人の女の子……写真で見た「あの幼馴染」と姿が一緒だった。



「ま…まま待ってください…!!」


つい声を上げて、四人を引き止める。

全員がそれぞれ振り返り、私の方を見た。


真ん中の子…その髪色と短めのツインテール。神崎くんの幼馴染である、三島春香さんに違いない。

けれど突然引き止めてしまったせいで、みんな首を傾げている。



「…え、もしかして知り合い?クラスにいたっけ?」


彼女に対して、私は首を振る。



「か、神崎くんの……友達、です」


私がそう言うと、四人全員が顔を見合わせた。


「あー!あっはは!神崎くんのお友達ね、そっかそっか!」


それを聞き、三島さんはケタケタと笑い出す。

私は唖然としてしまう。何が可笑しいのか分からなかったけど、とにかく全員納得してくれたみたい。




詳しく話を聞き、神崎くんの家がすぐ近くにあるという事を知った。

案外、私が友達だというだけで簡単に教えてくれたので、早速来てみたんだけれども……



ガチャッ。


「ひっ!?」



突然玄関のドアが開いたので、後ずさって驚いてしまった。

そこからは、一人の中年男性が出てくる。…もしかして、神崎くんのお父さん?


「ん、君はさっき来た子……ではないよね?」

「ぁ…あの。神崎くんはいますか…?」

「浩太のお友達か。なら、さっさと入るといい。外は少し冷えるだろう」


少なくともこの人は、家の人だよね。

紳士のような気遣いに恐縮しながら、私はお礼を言って中へと入った。




「浩太。また君のお友達が来たぞ」


彼はリビングに顔を向けて言った。

すると部屋の入り口から、クールな男の子が現れる。


「ん?…あっ!な、七瀬さん…?」


……神崎くんだ。その姿を見て、私は思わず絶句してしまった。



写真で一度見たけど、やっぱり…子供の頃も、カッコ良さは全く変わってない。

声変わりはしておらず、子供の可愛さも相まって、より一層胸がドキドキしてしまう。


「え、ええと、その…」

「…久しぶり(・・・・)、でいいのかな」

「う、うん…。久しぶり」


「久しぶり」だと言うって事は、神崎くんも問題なくタイムリープできたってことだよね?




リビングの机に向かい合って二人っきりで、色んな事を話し合った。

私たちがここにタイムリープしてきて、その後どうなったか、これから私たちはどう行動すればいいか…など。


「さっき、短めツインテールの女の子と会ったんだけど……あれ、神崎くんの幼馴染だよね?」


そんな話をしてして、ふと気になった事を聞いてみる。


「え?ああ。たぶんそうだよ、三島春香さん。さっき会ったの?」

「うん…。」



自分で言ったのもなんだけど、返事を聞いて下の方を向いた。


「…え、どうかしたの?」

「あのね…ちょっとビックリしちゃって。あの子の後ろにも、もう三人居たから。あれって全員友達だよね?」

「う、うん。そうだけど_______」

「その…正直、うらやましい」


私の言葉を聞き、神崎くんは唖然としている。

…ずっと欲しいのに、今の私には誰も友達がいないから。私からすれば、正直羨ましかった。

恥ずかしげにそう雑談のように話すと、黙って聞いてくれた。



「…いやいや、とんでもないよ。現に高校時代になれば、立場が逆転するでしょ?」

「あ、そっか…」

「はは。それに、友達がいるからと言って、人によって幸せだとは限らない」


そっか…。神崎くんも、辛い経験をしてきたんだよね。

二人でそんな話をしながら、この時間を持て余した。



「これからどうすればいいかな。三島さんを救うべきかな?」

「もちろんだよ!私もお手伝いする」

「…本当に?」


それに対し、私はこくりと頷く。



「本人には、言うべきなのかな…。自分が25日に死ぬってこと」

「それは…分からない。でももし言ってしまうと、傷つけちゃうかも」

「やっぱりそうだよね…」


彼女が信じてくれるとも限らないし、言う必要もあんまりないと思うし…

私の言った事に対し、神崎くんは納得した。けれど反面、少し落ち込んでいた。




その後、神崎くんと別れ、家に帰った。

自宅に帰ると案の定、お母さんに鬼の形相で怒られてしまうことは……だいたい想像できたけども。



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「………。」


22日の正午。僕は母さんの仏壇に手を合わせていた。

すると横から父さんが、足をそっとしながら隣に座る。


「昔お前の母さんは病弱だった。けれど病気のことではなく、常に浩太の事を想っていたよ」


父さんは仏壇の前で手を合わせ、ゆっくり目を閉じた。

僕も目を閉じて、ふと母さんのことを想ってみた。



前に入院中、余命宣告されていた母さんが僕に言ってくれた言葉を思い出した。

あの時は何を言っているのか分からなかった。けれど今なら、分かる気がする。



『もし私があの世に行っても、辛くならないでね。これは…宿命なんだから。受け入れて』


……『宿命を受け入れる』……か。




______ピンポーン。


そんな中。昨日と同じくチャイムが鳴った。

父さんが玄関に向かうと、すぐ僕の元に戻ってきた。


「ふぅ…また浩太のお友達だぞ。今日は一人で来たみたいだが」


父さんは片手を腰に置いて言う。今度は誰だろうか。春香さん?じゃなくて…七瀬さん?



玄関の扉を開けると、目の前には春香さんがいた。

……明らかに様子がおかしい。下を俯いているし、チラッと見える彼女の目は、少し赤くなっている。


「だ…大丈夫?」


そう声をかけると、春香さんは顔を上げるや否や、どこか愛想笑いのような笑顔を見せる。



「う、うん。大丈夫。気にしなくても」

「…どうかしたの?」

「ちょっと…寂しくなっちゃって」


やはりその表情とは裏腹に、どこか物寂しげだ。

何かあったのだろうか?様子からして、かなり泣いた後なんじゃないか、と思うけれど…


「君、一人で来て大丈夫なのか?お父さんお母さんはどうした?」

「えへへ…私こういうの慣れてるんで、大丈夫です」


すると、いつの間に横にいた父さんが、心配そうに彼女を見ていた。

確かに女の子一人が外を出歩くのは、かなり危ない気がする。



「せっかく来たんだし、中に入ってよ。このまま外に居たら危険だし」

「う、うん…ごめんね、勝手に押しかけて」


春香さんはそう言い、僕らの間を抜けて家の中に入っていった。




リビングのソファに隣同士で座り、色々な雑談を話し合った。

最初はあまり元気がなさそうだったけれど…会話している内に、少しずつ調子を取り戻してきたようだ。


「…あのさ。何があったの?」

「ん…えーと、その…喧嘩しちゃったんだ。お母さんと」


元気になった春香さんは、もじもじしながら、何があったのかを教えてくれた。

喧嘩した理由は気になるけど……色々と事情もありげだし、聞かないでおこう。



「それにしても神崎くんのおウチのリビングって、すっごく広いね」

「そう…?普通だと思うけど」


春香さんは話題を変え、興味津々に辺りをキョロキョロしだした。


「…あ、あれ、神崎くんの…お母さん?」


彼女が指さしたのは、僕が今さっき手を合わせていた仏壇だ。

すると突然椅子から立ち上がり、仏壇の前に立つや否や、その場で足を崩した。



「前に言ってたよね?神崎くん、お母さんがいないって」

「え…?僕、そんなこと言ったんだ」

「言ったよ!」


そう言い張りながら、じっと僕の方を見てきた。

…おそらく、僕がここにタイムリープする前に言ったことだろう。


仏壇の遺影に目線を戻し、春香さんは微笑んでこう話す。



「やっぱり私たち、今ここに生きてるだけで……ほんとに奇跡のようなものだよね。」


僕は彼女の言葉を聞き、いつの間にか目を見開いていた。




「だから神崎くんのお母さんの分まで、私たち(・・・)が生きようねっ!」


そう話すのと同時に、春香さんがこっちを向いて満面の笑顔を見せる。


……ああ。そんな顔を見せられると、何故だか妙に切なくなる。

僕は25日に死んでしまうはずの彼女を、救うことができるのだろうか。





帰り道。一人で出歩かせるのも不安だし、僕も一緒に家まで見送った。


「ねーねー神崎くん、26日、予定空いてる?」

「え?あ、あるけど」


突然の発言に驚きながらも、すぐさま返事をした。

26日?春香さんが死んだ後の日付じゃないか。



「今月の26日、私のお父さんの誕生日なんだ!」

「あ、そうなんだ…」

「うんっ!だから、ぜーったい!友達や私の両親含めて、7人でお祝いしたいなーって!」


そう話す春香さんは、とても期待を弾ませているようだった。


彼女が歩き続ける中、僕はピタッと足を止める。

……何だか、憂鬱だ。本人は楽しそうにしているが、その日には既にこの世にいないかもしれない。



「_______無理、かもしれない」

「…ん?」


僕がふと呟くと、春香さんはその場を振り返り、こっちを見つめる。


「春香、さんは……25日に、死んでしまうから」



それを聞いて、彼女は驚いた表情だった。…そりゃそうだ…。

同時に僕は、自分がそんな言い方で話してしまったことを後悔した。


「…ぷっ」


その直後に春香さんは、なぜか突如吹き出す。


「あっはは!神崎くん、やめてよ!本当に死んじゃうみたいじゃん!」

「え…」

「いやいや、やっぱり神崎くんに嘘は似合わないよーっ!」



それに対し、僕は言葉を失った。

…けれど意を決して、本当の事を話してみる。


「25日の放課後、君は車にはねられる。だって、僕は知ってる。未来から来たから」

「…えっ」


しばらくの沈黙の後、春香さんは場を和ませるためにか、「嘘だ〜!」と声を出して笑いながら言った。

けれど僕の真剣な眼差しを見て、彼女は段々、何も言えなくなっていった。



「……嘘、だよね…?」


僕は、俯いて黙り込む。



「…ごめんなさい」


そう発した時には、この場から逃げ去るような足音がした。

僕が顔を上げたときは誰もおらず、春香さんが最後、どんな表情をしていたのかも分からなかった。


─────────────────────────────────


「こんにちは、三島春香ちゃんの母です」


翌朝、曇り空の下。今度は自宅に、彼女の母親が訪ねてきた。

お互いに玄関で挨拶をする。どうやら、僕にわざわざ用があって来たようだ。


……心当たりは、大体ある。おそらく昨日の件だろう。




「春香ちゃん、もしかしてこの家に来ましたか…?」

「ああ、来たよな。浩太」


僕は横にいた父さんに、こくこくと頷く。


「何があったのかは知らないんだけど…春香ちゃん、昨日家に帰って来てから、ずっと泣いたまま風呂場に篭ってるの」

「え…?」



間違いない。僕のせいだ。

僕があんな事を言ってしまったせいで、余計に傷つける事になってしまった。


「昨日からずっと何も食べてないから、私…心配なの」


…とにかく、僕のせいで彼女を傷つけてしまったのだから、責任を取らなければ。



「あの。少しだけ、春香さんの様子を見にいっても大丈夫ですか?」

「え?」

「僕…あの子と、ゆっくり話がしたいです」


いきなりのお願いだったと言うのに、春香さんの母親は快く承諾してくれた。




案内されて、春香さんの家にやって来た。

1階建ての一軒家で、あまり大きな建物だとは言えなかった。


「本当にごめんなさい…、ついてきてもらって」

「いえ、大丈夫です」


彼女の母親は僕を見て言った後、玄関の鍵を開ける。

家の中に入り、案内されながら狭い廊下を進んでいると…明かりの点いていない風呂場の前の洗面所に来た。



「ん、君が神崎くんかい…?」

「はい、そうです」

「ああそうか…。私は三島康介。彼女の父親だ。」


風呂場の引き戸の前にいた、春香さんの父親に挨拶する。

どうやら、僕らと春香さんは風呂場の引き戸によって遮断されているみたいだ。



「春香さん……」


引き戸を介して、彼女に会話してみる。

これは半透明だが…風呂場の明かりが暗すぎて、あっちの様子を見て取ることはできない。


「済まないが、あとは任せてもいいかな」

「あっ、分かりました」


すると彼女の両親は、他の部屋に行ってしまった。



「……ごめんなさい。あんな事言って」


二人きりになってから、まず謝罪した。



「いきなりあんな事言われたら、変だったよね。忘れたければ、忘れてもいい_______」

「違う」

「…え?」


突如引き戸越しに返事が返ってきて、僕は言葉が詰まってしまう。

その声は…どこか掠れていたような気がした。


「違うっ…そういう、事じゃない…!私は…神崎くんが嘘をつく人間だとは思えない」

「いや、それは…」

「私は……死ぬのが、死ぬのが…怖い…」


それが、春香さんの本心だったような気がする。


「…これからもお父さんやお母さんや、みんなとずっとずっと、仲良くやっていけると思ってた…。

…私だけ痛い思いして、独りになっちゃうの…?…ねえどうなのっ!?はっきり言ってよ!!」



彼女の思いは、もちろん全て分かるわけじゃない。

けれど、ちぐはぐな言葉に込められた想いは、少しだけなら…分かる気がした。


「…あのね。人間にとって死ぬ事は必然的で、本来は不可避なんだよ」

「よく分かんないけれど、私…死んだらもうずっと独り_____」

「それは違う」


僕がそう言うと、彼女は口を止めた。



「いや、今回は例外なんだ。僕はこれから君に起こる事を誰よりも知ってる。だから、君を救えるかも知れない」

「もし…救えなかったら?」

「僕がずっと…春香さんについてる。約束だ」


例え春香さんを救えなかったとしても…。

そう言おうと思ったが、彼女を励ますのに精一杯で言えなかった。



ガラガラガラ…


引き戸の開く音がするとともに、春香さんが目の前に現れた。

彼女の目はどこか暗くて、いつものツインテールも解けている。


するといきなり彼女は、僕に飛びついて抱きしめてくる。

僕はただ、それを受け止めて倒れないように精一杯だった。



「約束……だからね」


春香さんは涙を堪えようとしているのが、声でわかる。




これまで僕は、二人の運命を変えてきた。

春香さんに、女子中学生…。彼女らを救える可能性は……確実にあるはずだ。

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