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RE.D PAST  作者: 加藤けるる
神崎・七瀬編
26/36

そして、遠い過去へ(後編)

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ガスマスクの人にそう言われ、僕はハッとする。


女子中学生が亡くなるのは……2013年の、9月26日………??

その日付に何故か僕は、どこか重要性を感じた。



……そうか。今、思い出した。


「すみません。僕…今からどうしても確認したい事があります。ひとまずここで待っていてください」

「は…?今からだと?」


ガスマスクの人は、間抜けな声を発して驚く。

そんな二人を置いて、僕は早歩きでこの場を後にした。




「か、神崎くん!」


玄関からこの場を出ようとすると、聞き慣れた声で呼びかけられて、きゅっと腕を掴まれる。



「ど、どうしたの急に…?なんだか神崎くんらしくないよ」

「……今から、どうしても確認したい事があるんだ」

「今から?」


僕は七瀬さんを見つめて、こくりと頷く。

何かを言いたげに下唇を噛んだ後、七瀬さんは「私もついていっていい?」と言った。


一瞬だけ顔が驚いてしまったけれど、僕はまた首を縦に振って返事した。




「………あった。これだ……!」


やがて自宅に着いた僕は、自室にある埃だらけの押し入れの奥を漁っていた。

僕が手にしたのは、使い捨てカメラで撮られた一枚の写真。


くっ付いていた埃を手で払い、その写真を別の部屋に持っていく。



「…こ、これって」

「小学校に通ってた頃、幼馴染と撮った写真。なんだか、すごく懐かしい」


ダイニングの椅子に座っていた七瀬さんに、それを机にペラッと置いて見せる。



その写真には、広角を上げて微笑む、僕と幼馴染の写真。

黄色っぽいその髪の毛は、短めのツインテール。その子は印象からしても天真爛漫な子だった。


「か、神崎くん……幼馴染、いたんだ」

「うん…まあね」


…幼馴染っていうか、小学校の頃の友達…っていう感じだけど。



「名前は三島春香(みつしまはるか)。この写真は、2013年の9月24日に撮られた写真」

「えっ、どうして分かるの?」

「ほら、裏に手書きで」


写真を裏返すと、ちゃんと『2013.9.24』と書かれている。

これは僕らの写真を撮った友達が、ボールペンで書いたものだ。


「その……神崎くん、どうしてこれを?」


この写真は、僕にとってかけがえのない大切な写真だ。

何故なら……翌日の9月25日に、彼女は亡くなるから。



その事について、七瀬さんに詳しく説明する。


「そ、それって…ガスマスクの人が言ってた、女子中学生が死ぬ前日…?」

「うん。この写真を思い出して、咄嗟にこの目で確かめたくなったんだ」

「…ってことは……」



七瀬さんが言おうとしたこと。

それはおそらく……女子中学生と幼馴染を同時に救えるかもしれない、という事だろう。


僕と七瀬さんの目は、希望に満ちていたかもしれない。

たとえ過去に戻り、そう上手くはいかないかもと分かっていても。


─────────────────────────────────


ガスマスクの人に案内されたあの一軒家に戻ろうと、二人っきりで道を歩く。



スタ、スタ、スタ。その足取りは、なぜか重苦しい。これから、5年前に戻れるかもしれないからだ。

きっと僕と同じく七瀬さんも、心の準備をしているのだと思う。


七瀬さんは、俯いている。

かと思いきや、夕日で逆光を浴びた自分の影を踏んづけて、楽しんでいるみたいだ。

彼女は僕がじっと見ていた事に気づき、お互いに目と目が合う。僕がにこっと笑うと、恥ずかしそうに顔を逸らした。



「……5年前に戻るってことはさ……私たち、小学六年生ぐらいなのかな」


しばらく経って、七瀬さんは突如そう言い出した。

あっ…、確かにそうだ。今の僕たちは高校二年生。5年前に戻ると、おそらくそのぐらいだろう。


「それなら、身長も逆戻りになるわけだ」

「確かに!……あと、神崎くんの幼少期の姿、直接この目で見てみたいな……」

「ん?」

「い、いや!ごめんなさい気にしないで」


焦ってもじもじしながら、向こうに目を逸らす七瀬さん。

何かを喋っているのは聞こえたが、どういう意味かは僕には分からなかった。



スタッ。

七瀬さんは、突如足を止めた。


ここは……僕ら二人のお馴染みの場所、歩道橋だ。

七瀬さんは左横に首を向け、きらきらと差す夕日を拝んでいる。

僕もつられてそれを見る。やっぱり…ここから見る太陽は綺麗だ。


「ねえ。私たち、これからどうなるんだろう……」



七瀬さんは夕日から目を逸らし、弱音を吐くように下を向いて言った。

僕は振り返り、何かを抱えているような彼女の側に寄る。


「七瀬さんは、何か不安そうだね」

「ううん、大丈夫。でも……強いて言うなら、幼馴染」

「え?」


思いの外、意外なところからやってきた。

もしかして写真で見た、僕の幼馴染のことを言っているのか……?



「もし5年前に戻って、神崎くんの幼馴染を救ったとするでしょ…?そしたら……」

「そしたら?」

「……その……神崎くんは、私のこと忘れちゃうんじゃないかって………」


え…?ど、どうしてそんな結論に?


「忘れたりなんかしないよ?何でそう思ったの」

「…ん、んん。やっぱり何でもない」



七瀬さんは首を大きく振った後、僕の横をすり抜けて立ち去ろうとする。

その時の彼女はどこか焦っていて、逃げてしまいたいという感情を大きく感じた。


……でも。



「っ_________」


橙色の光が真横から差す中。僕の右手に、冷たくて柔らかい感触。

気がつけば、僕は七瀬さんの手を取っていた。自分でも意識は無かったのに、何故か今、逃してはいけないと感じた。



僕らはお互いに驚いた表情で、目が合ってしまう。


「……あ」

「…えっ……と」


何か。何か言わなければ。

でもこんな時、何を言えばいい?「さっきの言葉、どういう意味?」だとは聞けない。

余計なことを言ってしまえば、変に嫌われてしまう。



「………僕は弱い人間、なんだ」

「……へ?」

「だからその、そんな僕が今更……七瀬さんを好きになってもいいのかな……って、あ」


なっ…!僕としたことが、こんな時にどうしてそんな事を……!?

すぐにバッとその手を離し、後ろに回す。


いやいやいや…!自分から振っておいてこんな事を言うなんて、失礼極まりない。

七瀬さんも、かなり唖然とした顔をしている。



「……あ、ご、ごめんなさい……ぼっ、僕は________」


焦っていたその瞬間、何が起こったのか、一瞬だったので分からなかった。




七瀬さんが、僕の体に飛びつくように抱きしめていた。

彼女の口と鼻がくっついている感触が、左肩にじんわりと感じてしまう。


想定外の出来事だったので、後ろに回していた腕の力が思わず抜けた。

更に驚いた事に、その僕の肩に妙な湿気を感じたからだ。



「ぐすっ……う、うれしい」


な、なんで七瀬さん、泣いてるんだ!?

僕はそこまでわんわん泣くほど、大したことは言っていないはずだ…。



「いいんだよ……?神崎くんは……神崎くんは…弱い人間なんかじゃない。

だから今更でも、私のこと好きになってくれるのは、すごく嬉しい」

「………。」


今の僕は、どれくらい間抜け顔をしているだろうか。

何も言えず、ただただ絶句。七瀬さんがまさかそんな事を言うとは、自分では想像もつかなかったからだろうか。


けれど、七瀬さんにそう言われて、心の底から幸せが溢れ出す。



七瀬さんは、すっと抱きしめていたその腕の力を少し抜き、僕の目の前に顔を見せた。

横から差す夕日が、彼女の表情を照らす。彼女は……はにかむようにニコッと笑っていた。


………ああ。僕はこの表情を、いつまでも忘れないだろう。


─────────────────────────────────


「……ようやく戻ってきたか」


さっきの古びた一軒家に戻ってくると、ガスマスクの人が、玄関の扉にもたれかかって待っていた。

七瀬さんがその事に関して驚く。



「え…?もしかしてここでずっと待ってたんですか…!?」

「当たり前だろう……すぐに戻ってくると思ってたんだ。もう1時間も待ったぞ」


彼はマスク越しに不機嫌そうな雰囲気を醸し出してくる。

…1時間も待たせてしまったのか。何だかちょっと申し訳ない事をしたな。


「要件が済んだなら、私について来い」

「は、はい……分かりました」



言われるがままに家の中へとついて行く。これから僕ら、どうなっちゃうのだろうか。

すると彼は、さっき来たリビングの奥の部屋の、本が詰められている古びた本棚の前で立ち止まった。


その時。ガスマスクの人はいきなり、詰められていたその本を全て手前に落とす。

すると本棚の隙間から、奥にある「空間」の存在に気づく。


……いや。空間というか、あれはおそらく隠し部屋だ。



「……この日をずっと待っていたのだよ」


ガスマスクの人はそんな風に言いながら、その本棚の右側面を、両手でぐっと押し続ける。

やがてそれが少しずつ横側にズレてくると、隠し部屋へと通れる道ができた。



「隠し部屋ですか……!?な、なんだかカッコいい…」

「さっさと中に入ってくれ。要件は直ぐに済ませたい」


興奮気味な七瀬さんをよそに、彼は静かに部屋の照明を付け、中へ入っていく。

中は和室で、鉄の机やキャビネット等の家具が置かれていた。全体的には広くも狭くもない。


机の上は多少散らかっていて、何かの専門用語で書かれた書類や地図、そして設計図のようなものがあった。

壁に掛けられていたコルクボードにも、同じようなものが一面に貼られている。


ここ以外の部屋と比べても、家具や書類が多くてかなり散らかっている。



「この設計図……」


七瀬さんが机に置いてあった一際大きい設計図に目をつける。

それはタイムスピナー……ではなく何故か、縦に円柱形になっている機械だ。



その時。ガスマスクの人は、横の奥にあったベージュ色のカーテンをガサッと手で除ける。


するとそこには、設計図通りの機械がそのまま、2m以下程度の高さで存在していた。

七瀬さんと、それを近くでまじまじと見る。全体的に鉄のようなもので出来ているようだ。

鉛色で艶があり、何本かコードが露出している。


それでも、とても精巧に作られているみたいだ。

機械の中は一つの壁で分断されており、ひとつずつ二人まで入れるスペースがある。ん?まさかだけど……



「二人とも、この中に入ってくれ」

「えっ…」


あ、やっぱり。


「安心しろ、怪しい機械ではない。性能はちゃんと身を持って証明した。問題は……無いと思う」

「これで過去に戻るんですか?こ、怖そう……ほんとに問題ないんでしょうか」

「今の所まだ無い」

「なっなんですかそれ!?」


その返しに驚きながらも、さらに怖がる七瀬さん。

…まあ、問題が「今の所まだ無い」なんて言われれば、不安になるのも仕方がない。



「少なくとも、この機械で戻れる時間は大幅に上昇する。タイムスピナーでは戻れない5年前にも、戻る事ができる」


それを聞いた後、僕は深呼吸をした。

これを使えば、もしかするとついに5年前に戻れるかもしれない。



僕はそのまま迷わず中に入ると、七瀬さんも不安な顔で、もう一方の中に入った。

機械に扉のようなものはない。そのまま中に入ると、僕らは壁に背中をつけた。


「準備はいいか」

「待って!……すー、はー……。はい」


七瀬さんは深呼吸をした後、心の準備が整った返事をした。

ここからじゃ七瀬さんの表情や姿が見えないが、僕はその聞き慣れた声に、思わず安堵した。


僕も「はい」と返事をすると、ガスマスクの人はタイムスピナーをポケットから取り出す。

すると彼はもう一方の手に持っていた特殊な三角ドライバーで、スピナーの中心部の蓋を外す。



スピナーの中枢部には、美しく照明を反射する、青い宝石のようなものがセットされていた。

……まさかこれが、タイムリープの役割を果たしていたのか?


青い石を巨大な機械に挿す間、ガスマスクの人から説明を受ける。


「これから君たちを、5年前に転送する。

やるべき事は、今から私が指定する中学校に行き、26日の午前中に自殺する女子中学生を救う事。

そして、もう一つ指定した場所にある殺人兵器「RE.D」を見つけ出し、この世から根絶する事だ」



それを聞き、一つの疑問が頭に浮かぶ。


「あの、僕らは中学校の中に入れるんですか?」

「……心配ない。しばらく正門の方で待っていれば、救世主が現れる」

「救世主……?」

「彼に協力してもらえれば、いずれRE.Dも潰せるだろう」


言葉の意味は分からなかったものの、ひとまず頷く。

彼は机の上に置かれてあった、赤い点がふたつ付いた地図を僕らに見せる。この部分が、指定された場所か。


僕はその位置を、頭の中に記憶した。



「ああ、ちなみに5年前にはまだ過去に戻れる技術は習得してない。

もし失敗してしまえば、5年後にやり直しだ。そこをよろしく頼む」

「「ええ…!?」」


僕と七瀬さんはその発言に驚いて、彼の方を見てしまう。

しかしそんな僕らを無視し、ガスマスクの人は機械のスイッチを押した。


機械はブーン…と静かな音を立て、起動しだす。



「では、検討を祈る」


彼は親指を立て、一歩後ろに遠さがった。

だんだん、身体中が震えだす。 そして僕らは『遠い過去へ』_________




ギギギギギ……バチ……バチバチ……!!



火花のような音を立て、その機械は今まで感じてきた以上に、大きく振動する。


「か、神崎……く……ん」



七瀬さんの不安そうな声も、頭の中に僅かに響いてきた。


同時にこれまでの5年間の景色が、どんどん走馬灯のように甦ってくる。





………。



僕が気づいた時には、既に頭が真っ白で、意識は遠のいていた。

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