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RE.D PAST  作者: 加藤けるる
七瀬編
23/36

幾度も廻す(前編)

うう…、痛い。

頭がずきずきする…。


そんな痛みに耐えられず、左手で自分のこめかみを押さえた。

意識がもうろうとした状態で、目をそっと開ける。



目もぼんやりとしているけれど、少なくとも、自分が白いタイルのような床に座り込んでいる事が分かる。

それに…すぐ近くで、男の人に話しかけられている気もする。


ここは…何処だろう…?



……少し経つと、惚けていた辺りの景色が鮮明になる。




その場所はまさに、病院の一室だった。


場所の正体は、見覚えのあるどこかの病室。

白のタイルに、白く塗装された壁と天井で覆われ、窓からは朝日の光が差す。


横転した丸イスを目の前に、私は尻餅をついている。

ふと今の自分の体勢に、頭がぽかんとした。



そして目の前のベッドには、おでこ周りに包帯を巻いている中島くんがいる。


「おまっ…何で急に倒れんだよ……!」


中島くんは私の方を見て、驚いた表情でそう言った。



「え。『急に倒れた』って…?」

「文字通りの意味だよ…!お前、急にイスから転げ落ちて、後ろにバターンって倒れだしたんだろーが…!」


た、倒れた?私が?


そうだ。えーと、今の日付はいつだっけ。

ちゃんと過去に戻っていれば、5月15日のはず。


「あの、中島くん…今日って何日だったっけ…」

「は?10日(・・・)だろーが。11月10日」



え…?今日も、蒼ちゃんの誕生日…?

窓からは朝日の光が差してるし、今日は「11月10日の朝」…ってことだよね。

どうして、5月15日に戻れなかったのか。



状況を整理してみる。

たしかさっき新田くんに追われている最中、思い切って私はタイムスピナーを回した。

新田くんとりんちゃんが出会った、「5月15日」に戻るために。


……けれどスピナーに、具体的な時間設定をするところは無かった。

だからその時は、直感で思い切って…「力強く」回すしかなかった。



恐らく、そのせいなのかな…?

「力強く」回しすぎたから、この場所に弾き戻された(・・・・)


過去に戻る最中に変なノイズが聞こえたのも…、

この丸イスから転げ落ちたのも、回しすぎが原因なのかもしれない。



……え?じゃあ、5月15日には……戻れないの?



「おーい?」

「________えっ」

「何ぼーっとしてんだよ…。お前、どっかおかしくなったじゃねーの…。いやお前は元からずっと頭おかしいけどな」


鋭い目で、私を見つめてくる中島くん。

中島くんのドS発言。どうやら今日も、平常運転みたい……。


いや、こんなところでぼーっとしてられない。次なる手を考えないと。


─────────────────────────────────


中島くんのお見舞いを終えた後。私はりんちゃんを連れて、ある場所にやってきた。


「こんにちは、むらのく…って、え!?何この飾り付け!?かわいい…!!」


りんちゃんは、村野くんの部屋の壁一面に貼られている無数の色紙の飾り付けを見て、目を輝かせていた。


そう。…ここは、村野くんの家。

りんちゃんが見ている飾り付けはすべて、彼女のためだけに作られたから。



「なんで連れてきちゃうんだよ……!?」


机で飾り付けを作っていた村野くんは、私をじっと見て、独り言の様にそう言った。

それも勿論、私がりんちゃんの誕生日サプライズを台無しにしてしまったから。


あらかじめ村野くんには電話で言ったんだけど、その時は呆れ返るように驚かれた。



「ご、ごめんなさいっ」

「もういいけどさ。こっちはサプライズだったんだぜ…?数日前からずっと計画してたし______」


その言葉に、りんちゃんが食いつく。


「え!?すうじつ、まえ?……もしかして、私の誕生日サプライズ…とかなの?」

「あ…!!……もういいですハイハイ!そうですよ!」


村野くんは焦っている様子だった。どうやら口を滑らせたみたい。

でもこの際、誕生日サプライズだった事、バレても大丈夫だよね。りんちゃんもそれを聞いて、すっごく喜んでるみたい。




せっかくなので、私とりんちゃんも、村野くんの作っている飾り付けを手伝うことになった。


「さっきまでギャーギャー騒がしい女子二人がここにいたけどさ、ついさっきお前らのこと探しに行ったわ」

「え!?そうなの?」


私はそれを聞いて、驚いた。

騒がしい女子二人…、おそらく長野ちゃんと奥原さんの事かな。



あ、そうだ。


「あのね、ちょっといいかな…?一つ渡しておきたいものがあって」

「え?なに?」


私はカバンから、とあるものを取り出した。

これは、本来なら渡す事ができなかった、親友への誕生日プレゼント。


「…はい」


素朴なビニール袋に入っていた小さいプレゼントを、りんちゃんに差し出す。



りんちゃんはあっけに取られた顔で、それを受け取った。

彼女はそれを顔の前に持ち上げ、ビニール越しにじっと見る。


「あ、あの…こんな袋でごめんね?もうちょっとマシなものに入れればよかったんだけど…」

「ううん。これは、ストラップ…?」


それは、シナモン色のくまのストラップ。

くまの縦幅は8センチぐらいで、大してデカくもなかった。


「やっぱり気に入らないなら、他の人にあげても______」

「…ううん!すっごく嬉しい。ありがとう…!」


彼女がビニール袋を下ろすと、感動している様子に見えた。



「はぁ…休憩もいい加減にしろよ?早くコレ、完成させるぞー」


飾り付けを作りながら、私たちの様子を見て呆れていた村野くん。

私たち二人は、彼の言葉に対して「うん!」と同時に頷く。


その時りんちゃんは、私が渡したプレゼントを鞄の中に入れた。


─────────────────────────────────


数分後。作業に没頭していると、誰かの足音が廊下から近づいてくる。

扉を開けてやってきたのは…神崎くんだった。


「おっ!神崎!」

「その…僕も何か、役に立つことあるかな」

「いいぜ!んじゃ、七瀬の隣座れよ!」


それを聞いて、神崎くんは私の隣に座る。

彼は村野くんに指示され、ハサミを片手に、真剣そうな目で作業に集中し始めた。




やがて少しずつ、色紙の飾り付けが出来上がっていく。

四人で装飾を作っていると、ふと思う。


長野ちゃんと奥原さんは、まだこの部屋に戻ってきていない。

本来、今の時刻には、長野ちゃんがここにいるはずなんだけど…



「…大丈夫かな?長野ちゃんたち、戻って来ないけど」


私は村野くんに向かって、そう問いかける。

ハサミを動かしながら、村野くんは応えてくれた。


「あ?そういえばそうだな。まだお前らのこと、探してんじゃねーの?」

「そうなのかな…。」


私はそれを聞いて、少しだけ不安になる。

…まさか、二人も新田くんに連れ去られたとか、ないよね…??


いや。そんなはずはない。

新田くんの目的は…おそらく、りんちゃん。ただそれだけのはず。



ふとりんちゃんを見ると、彼女も不安そうな顔をしていた。


「あの…、もし良かったら、今から私が探してこようか?心配だし」


そう言いながら、りんちゃんはその場から立ち上がる。



「マジで?いやいや!別に俺が連絡してもいいけど…」

「ううん。近所にいると思うから」


村野くんはスマホを手に持つ。

しかし彼女の返答を聞き、「あ、そう?」と持っていたスマホを下ろした。


……いや、ダメダメ…!!何としてでも止めないと!

机にハサミを置いて、その場から立ち上がり去ろうとする彼女を、私は必死で止める。



「さ、探さなくても、平気なんじゃないかな…?」


私は勢いで咄嗟に立ち上がり、りんちゃんの目の前に(はばか)る。

突然の私の行動のせいで、三人に注目されてしまった。


「え…?どうかしたの?実花ちゃん」

「いっ、今頃二人もきっと無事だと思うし」

「…無事かどうかなんて分かんないよ?」


うっ…とっさの判断だったけれど、りんちゃんに何と言っていいのか分からない。



「_____あ、わ、私が二人を探しにいくから!りんちゃんはここで待ってて!」

「え、そう…?」


そんな風に、ついつい勢いで言ってしまった。



りんちゃんはそれを聞いて、自分の席に戻り、そこに座った。

私がその場でぼーっと直立していると、彼女に不思議そうな目で見られる。


「実花ちゃん、上着忘れてるよ?」

「あ。…そ、そうだった。」


私はりんちゃんにそう言われて、床に畳んでいたベージュの上着を手に取る。

それを着た後、仕方なくこの部屋から立ち去ろうとする。



けれどその場で振り返り、彼女に忠告した。


「…あ!あのねりんちゃん!」

「え…?」

「絶対…ぜったいに…、ここから離れないでね…!?ほんと、約束だから!」


りんちゃんは、不思議そうな表情で「…うん?」と頷いて返事した。

その様子を確認すると、私はすぐにこの部屋から去った。




ドアを閉め、廊下でふと立ち止まる私。

……うう、これからどうすればいいんだろう…。


私はざわついていた心を落ち着かせようと、その場で深呼吸する。



ガチャ。


「______七瀬さん?」



すると部屋のドアが開き、神崎くんが現れる。

私がまだここにいた事に気づいて、彼は首を傾げた。


「…あ、ごめんなさい」


私は思わず、顔を俯かせる。

あれ、コレってちょっと、変に疑われてる…?



「えっと…こんな所でどうしたの?たしか、長野さんたちを探しにいったんじゃ…」

「う、うん。そうだったんだけど、あれー?スマホ忘れちゃって…」


そう言って、私は周りをチラチラと見た。…ちょっとわざとらしい演技だけど…。


スマホ(・・・)って……七瀬さん、上着のポケット」

「え?…あ。」



神崎くんが指さした、私の上着ポケットを見ると、自分のスマホが頭からひょっこりと出ていた。

あ…恥ずかしい。この中にスマホを入れてた事、すっかり忘れてた。


「ぷっ…あはは」


すると神崎くんは、微笑むように笑いだす。

思わず私は顔を赤くしてしまい、その目線を斜め下に向けた。



「あ…と、ところで神崎くん…何か用、ですか…?」

「そうだ。今からトイレに行こうと思って」


そう話した後、この場から立ち去ろうとする神崎くん。

彼を見ていると、私は一つの考えが頭に浮かんだ。



私は「あの!」と言って、神崎くんを引き止める。

立ち去ろうとしていた足を止め、彼はこっちを振り向いた。


「…どうかした?」

「あ、あの…その。トイレが終わったらリビングで、その…。ゆっくり話をしませんか」


思い切ってそう言ってみる。

彼は、顔をきょとんとしていたものの、すぐに頷いた。




数分後。リビングの部屋で、ダイニングテーブルの椅子にじっと座る私。

トイレを終えた神崎くんがハンカチで手を拭きながら、私から右隣の椅子に座った。


「ふぅ…。で、どうかした?七瀬さん」


横からそう問いかけられて、私はこう話した。



「あのね。神崎くん。今日、中島くんが大怪我したの、知ってる?」

「え…、そうなの?」


あれ?この驚きよう。もしかして知らなかった?

…でも神崎くんと中島くん、大して深い付き合いでもないもんね。村野くんもその事、教えなかったのかな。



神崎くんに、中島くんを怪我させたのは、りんちゃんの彼氏である新田くんであると話した。


「________それって、どういう意味?」


そう聞かれて、私は話を続ける。


「あ、あのね。新田くんは今日、りんちゃんを殺そうとしてるかもしれない。

中島くんがその事を知っちゃったから、彼に怪我を負わせたんじゃないかって」

「口封じ…ってこと?」


神崎くんのその言葉に対して、こくりと顔を頷いた。

すると彼は考え込む仕草で「どうしてそんな事を…?」と、独り言のような声で言った。



「……分かんない。どうして…どうして、自分の恋人を殺そうなんて考えるのか。

私、そんな人間の気持ち、絶対に分かんない…。分かりたくもないよ…」


暗い感情に押しつぶされそうで、思わず俯き顔になってしまった。



新田くんは……どうしてこんな事をするんだろう…?

何の得も、何の幸せも、得られるはず…ないのに。


「…七瀬さん、大丈夫。きっと蒼さんは死んだりなんて_______」



次の瞬間。


「いや゛っ_________!!」


村野くんの部屋の方から、りんちゃんの響くような悲鳴がした。

その瞬間、廊下から走るような足音が近づいてくる。


「…え?」

「今のって、蒼さんの声…だよね?」



私たちは唖然としながら、急いで廊下の方へと向かう。

玄関の方に着くと、りんちゃんが屈んで靴を履こうとしていた。


「りんちゃん、どうかしたの!?」

「……っ」



すると彼女は突然ピタッとその手を止め、口を開く。


「私…、今日はもう…いいから。お祝いなんて…しなくても」


少し涙ぐんで怯えているような声だった。

靴を履き終えたりんちゃんは、振り返らずそのまま立ち去ろうとする。



「待って…!」


私は彼女の手を掴む。



「っ……!お願い、離してっ______!!」


りんちゃんがこちらを向くと、その純粋そうな丸い眼は、涙ぐんでいた。

全身も、まるで何かに怯えているかのように震えていた。



「ねえ、さっき絶対ここを離れないでって私言ったよね!?何があったの…!?」

「私…っ…!!」


りんちゃんは、何か言いたげで…、けど、何も言えない様子だった。


「えっ。大丈夫、蒼さん…?」


神崎くんがそう心配している矢先に、りんちゃんは玄関の扉を開けて出て行ってしまった。

私たちは、そんな様子に唖然としていた。



……この直前、りんちゃんに何かあったに違いない。


「あの、神崎くん!村野くんの部屋の様子、見に行ってきてくれない…!?」

「う、うんわかった。こっちは任せて」


そう言うと、神崎くんはすぐさま部屋へと急いだ。

私は玄関の扉を開け、りんちゃんの後を走って追いかける。




「……っ、りんちゃん!!」


外の通路のどこを探しても、全然見当たらない。

私のばか…!どうして、どうして…、りんちゃんを逃しちゃったりしたの…!?


涙ぐんだ目で私を見つめてきたりんちゃんの表情が、頭から離れない。

何があったのかは知らないけれど、このまま彼女を野放しにしておく訳にはいかない。



「あれ?ななちゃんじゃん!」


聞き覚えのある陽気な声。それは、長野ちゃんだった。

一人だった彼女が目の前に現れて、軽く片手を挙げて挨拶する。



「な、長野ちゃんっ!?今りんちゃん見なかった!?」

「え?りんちゃん…?あっそういえば、それっぽい服装の人は見かけたよ?」


焦りながらそう聞くと、長野ちゃんは答えてくれた。

たしか、りんちゃんの服装は…白いワンピース姿だったはず。


「それって、白いワンピースの?」

「そうそう!」

「一人だった?」

「ううん?確か…男の人と一緒にいたよ」


えっ?

長野ちゃんは顎に指を当てて、思い出すかのように言った。



「遠くからで見えなかったけど。雰囲気的には、新田くんだったような…

…て、ちょっとっ!?どこ行くの!?」


それを聞いて、すぐさまその場から走り去った。

私…ほんとに馬鹿だ…!このままだと、またりんちゃんが…!



…そんな不安を抱えていた私。

けれど、事はそれ以上に複雑だった。


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