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RE.D PAST  作者: 加藤けるる
七瀬編
22/36

大切な親友(後編)

─────────────────────────────────


やがてしばらくして、村野くんの家に着く。

村野くんの部屋に入ると、机には長野ちゃん、村野くん、奥原さんが座っていた。


部屋の中に入った直後は、顔を俯かせて、その場にただ立ち尽くしていた。

すると長野ちゃんは、心配そうに話しかけてくる。


「……大丈夫?ななちゃん」

「おいおい…!大丈夫かよ!?おまえ、泣き虫だな__」

「ちょっとあんたは黙ってなさいっ!」


長野ちゃんは、隣にいた村野くんの肩を手で叩き、

村野くんは「いてっ!」と反応した直後に、その肩を摩った。



……泣き虫。

確かに。私、こんな、仕方のないことで泣いてる。


「そうだよ…。村野くんの言うとおり、私は泣き虫なんだ…」

「…は?おい七瀬っ、何があった?」


不思議げに私を見る、三人。

このままずっとこの感情を抑えてても、しょうがないよね。




私は、りんちゃんと喧嘩したことを伝えた。

みんなはそれを聞いて、少しだけ納得した表情を見せた。


新田くんが今日、りんちゃんを殺すとかは、みんなの前では恥ずかしくて言えない。


「私、りんちゃんに酷いこと言っちゃって」

「さっき言ってた、『私と仕事、どっちが大事』的な?」

「うん。…ちょっと違うけど」


長野ちゃんが、そんな風に言う。

確かに…そんな発言、困っちゃうのも無理はないよね。



すると意外にも、私の話に、奥原さんが反応した。


「なんで喧嘩したのかは知らないですし、偉そうなことは言えないんですけど…、

私に言わせてみれば…そういう時は、素直に謝った方がいいですよ」


うっ、唐突な直球のド正論が来て、少しだけショックを受けた。



長野ちゃんも真剣な表情で、私に対して口を開く。


「そーゆーことならきっと、許してくれると思う。

…私、知ってる。蒼ちゃんにとって、きっとななちゃんは大切な親友だよ?」



『大切な親友』……?

……そ、そうだよね。こんな事で、へこたれちゃいられない。


あっ…それに、今もりんちゃんは命の危険に晒されてる。

モタモタしていると、またすぐに…!!



「私、今から行ってきます…!」

「は…?」


困惑した村野くんと、みんなを後にして、私は家の外に走り出した。




私は、新田くんの家の前に着く。

ふとガレージのシャッターを確認すると、まだ閉まっていた。


時間通りなら、りんちゃんはきっとこの中に……


…自分の額から、冷や汗が滲み出ている。

正直、頭の中は恐怖でいっぱい。でもこのままじゃ…、りんちゃんは手遅れになる。


私は扉の前に来て、インターホンを鳴らす。



ピンポーン。


『……はい』


インターホンから一人の男性の声がする。

これは…間違いない、新田くんの声だ。



「あ、あの…りんちゃんは……」

『……2~3分』


…えっ?


『2~3分、待ってて』


そう言われ、インターホンの音声を切られる。



に、2~3分?

そんなに時間がかかるの…?


やっぱり、りんちゃんに直接電話した方が良かったのかな…。



しばらくそう不安がっていると、すぐに、玄関の扉が少し開いた。


「…何か御用かな」



それはもちろん、新田くんだった。

扉の中から顔を出して、こちらを向いている。


冷静……というよりかは、どこか不機嫌そうな表情に見えた。


「あれっ?凛ちゃんのお友達か」

「うっ…ここ、すごい家……ですね」


前の、新田くんの豹変っぷりを思い出すと、変に動揺してしまう。

なので一旦、彼から目を逸らして、この家の外観を見渡す。


「まあね。ここ、父さんに買ってもらった家なんだ」

「……そうなんですね」

「要件は何かな?」



そんな風に言う新田くんは、ちょっとばかり急かしていた。

……そろそろ、本題に入らないと。


「あの、りんちゃんはどこですか…?」

「あーごめんね、ここにはもう(・・)いないんだ」



ここには、もう?


「中に入らせてください…!」

「え?残念だけど僕のプライバシーを見てもらっちゃ困る____」

「お邪魔します!!」

「は…?」


私は扉をこじ開けて、何とかこの家の中へと入った。

唖然とした新田くんを置いて、私はあらゆる場所を探した。


玄関から、廊下へ、いろんな部屋を見て回る。



「おい……!?!?土足で中に入るな……!!」


新田くん、怒ってる様子だ。

私が靴を履いたままなのを怒ってるように聞こえるけど……


……この家に、隠し通したい「何か」があるかもしれない。



しばらく扉を開けて探していると、ふと私は、あるものを目撃する。




「りっ、りんちゃんっ……!?」


それは、暗い部屋の天井に掛けられた手錠で、監禁されていたりんちゃんだった。

まだお腹から血は流れていない。けど、こちらを見てくる様子はなかった。

もしかしたら、意識がないのかも。



しかし、この部屋の内装に、思わず青ざめてしまう。


部屋には、壁と床には隙間がないくらい、写真が貼られていた。

……それもぜんぶ、りんちゃんの、街中の盗撮写真。



「……みか、ちゃ……」

「っ…!?だっ、大丈夫!?」


私は、りんちゃんの元へと駆けつける。

僅かばかりだけど、意識はあるみたい。



「実花ちゃん…、あぶな……!」


ゴンッ!!

右側の頭部に、叩かれたような痛みが走る。


突然の衝撃に耐えきれず、私は足を崩す。



なんとか意識はあったので、頭を押さえながら背後の方を見上げる。

新田くんが、豹変した目つきで鉄バットを持っていた。


「……っぁ…!」

「…どうして、ここに来たのかな。人のプライバシー(・・・・・・)を、勝手に侵害するだなんて」


すると、足を崩していた私に、その鉄バットを振り上げた。

……私は咄嗟に、危ないと思い、顔を伏せた。



「痛い…いた゛いっ……!!!」


自分の体に、何度も痛みが走る。

新田くんに鉄バットで、私は何度も体を殴られ続けていた。



「……お願い、やっ…やめて……!」


必死に声を出そうとするりんちゃんに、新田くんはその手を止める。

すると新田くんは、震えていた彼女の輪郭を、そっと手で触る。



自分の足を動かそうと、必死にもがく。

けれど…身体中が痛すぎて、立つことすらままならない。


私はそこで、りんちゃんの状況を見ることしかできなかった。



「僕たちは、4ヶ月間と7日の間、ずっと愛し合ってきたよね。

僕を否定する理由なんて、ないじゃないか。それなのに…」


すると新田くんは、机に置かれてあった、あるものを手にした後、りんちゃんを見る。



「______もうそろそろ、終わらせよう」



赤い血飛沫が、私の頬や部屋中に飛ぶ。


新田くんは身動きも取れないりんちゃんを、包丁で突き刺していた。

彼女のお腹からは、赤い血液がどんどん流れ出てくる。


手錠で繋がれていた彼女を見て、全身に血を浴びた新田くんは、恐ろしい程に笑っていた。



……逃げなくちゃ。

こんな醜い状況を、少しでも変えなければ。




すると、笑い終えた新田くんは、私を見下ろして睨む。殺意の目だ。

赤い水滴がぽたぽたと落ちる、その包丁を持ったまま、私の方に向かってくる。


「面倒なことは、あまりしたくないけど……_____」


そう言って新田くんは、倒れていた私に、包丁を近づける。



……嫌…だっ…!!!こんな所で……!!


私は溜めていた力で、思い切って、新田くんの包丁を狙って蹴る。

新田くんは突然の事態に驚いて、そのまま包丁を落とし、後ずさる。


私はその隙に、急いでその場から逃げ出した。

逃げ出す途中で、肩を掴まれそうになったけど、なんとか掠っただけだった。


─────────────────────────────────


「はぁ…、はぁ…!ここまで来れば…」


人気の少ない住宅街の道路に逃げ込む。


…いやいや。侮っちゃだめだ。

けれど、こんな場所まで来れば、流石に血を浴びた服装では来れないでしょ。



私は頬についた僅かな血を、指で拭く。

少しだけ血のついた、自分の指を見て、ふと目を閉じてため息をついた。


どうして、りんちゃんがこんな目に遭わなくちゃならなかったのかな……



「………。」


ガスマスクの人が、再び忽然と目の前に現れる。

そして、右手に持った「タイムスピナー」を、私に差し出す。



「……あの、これっていつ終わるんですか?」

「お前が、彼女の命を救うまでだ」

「…そ、そうですか」


即答で、そんな風に答えられる。

その考えでいくと、絶対にりんちゃんを救わなきゃ、無限ループなのかな…。


私はそのスピナーを受け取ると、

ガスマスクの人は、すぐにここから立ち去っていった。



そうだ、5月15日……!

確かりんちゃんと新田くんが、知り合った日だ。


この日付に戻れば、救えるかもしれない……!!



私は迷わず、持っていたスピナーに時間指定を…


…あれ?スピナーのどこを見ても、時間指定をするようなものは無い。

もしかしてコレ、時間指定できないの……!?


それなら、回す直感でいくしかない。



「……後ろ」

「えっ?」


その声のする、背後の方へ振り返る。



ベージュ色のコートを着た新田くんが、目の前にいた。


「っ!!?」


私はスピナーを持ったまま、すぐに後ずさって転ぶ。

彼の右手には、錆びている別の包丁を持っていた。顔に浴びた返り血も、綺麗に洗われている。


「…僕らの愛を邪魔するやつは、とっとと消えろ……ッ!!!」


そう言って新田くんは、その包丁を振り上げる。



まずい……急げっ…!!

私は咄嗟にスピナーを、いつもより力強く回した。




キュル____________



急激な体の衝撃と共に、目の前の景色が、だんだん薄れてゆく。

スピナーが回っている間の全身の振動は、いつもより勢いが増していた。


これなら……!!



ジャ────────ッ…………………ギ……ギギギ……



……え?

妙に、耳に障るノイズのような音に困惑する。



ガチャ───ッ!!!



ひっ!?!?

いきなりの状況に驚きすぎて、私は思わずその場(・・・)に倒れ込んだ。


ぼやけて見えないけど、ここは……白い部屋。

そこでは、低い男の声の誰かが、何かを話している事しか聞き取れなかった。

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