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RE.D PAST  作者: 加藤けるる
七瀬編
21/36

大切な親友(前編)

□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□


ふと、自分がビニール傘を差していたことに気づく。

雨粒が地面を叩く音も、段々と聴こえてくる。


目の意識をはっきりさせると、辺りは住宅街。雨もザーザーと降っていた。

さっきまで天気は、晴れていたはずなのに。



ってことは…過去に戻ったんだ。

さっき出くわしたガスマスクの人が、スピナーを渡してくれたおかげで。



……スマホを確認する。11月9日、昼頃。

自分、制服姿だし…学校の帰り道を、さっきまで歩いていたみたい。



「あれー。ななちゃん、何突っ立ってんの?はやく行くよー?」

「…実花ちゃん。スマホ、どうかした?」


少し遠くの目の前には、私の方を呆れた顔で振り向いた長野ちゃん。

制服姿で、上着を腰に巻いている。手にはオレンジ色の傘を持っていた。


それと、私が取り出したスマホを見て不思議そうに首を傾げる、りんちゃん。

同じく制服姿で、ビニール傘を差している。



「…りん、ちゃん…」


ついさっき(・・・・・)まで、車のトランクの中で、死んでいたはずなのに。

私は彼女の存在を見て、つい小さな言葉が漏れる。



…まさか、りんちゃんの彼氏の新田くんが、あんな風に豹変する、なんて…。

恐ろしくて、今にも鳥肌が立ってしまう。



「あれ、実花ちゃん……どうかした?具合でも悪いの?」


青ざめた顔だった様子に気付かれたのか、

りんちゃんは心配そうに私の方に駆け寄って、手の甲でおでこを触る。



「……何でもないよ。気にしないで」


私は何気なく、りんちゃんのその手を、そっと持って下ろす。


少なくとも今、りんちゃんの彼氏がそんな事をするよだなんて、私が言っても信じてもらえないと思う。

だから、自分一人で行動して、彼女を救うしかない。




別れ道で長野ちゃんと別れた後、二人きりで帰り道を歩く。

その時は他愛のない話を、りんちゃんから一方的に振ってくれることが多かった。


「…あの、りんちゃん」

「ん?」

「その、今から…もっと話したいな」


りんちゃんは突然の話に、きょとんとした顔でこちらを見ている。


新田くんの情報に関しては、まだあまり分かってない。

敵を知るには、弱点を知れ!…と思い、私はりんちゃんに言ってみた。



「…あれ。実花ちゃん、これから予定とかない?」

「うん。特には」

「そっか!…じゃあ今から、うちに来ない?たっくさんお話ししよっ!」


少し心を躍らせながら、彼女からそう私に提案してくる。

何だか乗り気だし、私もそんな提案に、すぐオーケーした。



ほどなくして、りんちゃんが住む、白いマンションの部屋の前に着いた。

私の住む橙色のマンションとは、壁の色が違った。


りんちゃんが部屋の鍵を開け、玄関の中へと入る。



「ただいまー!」


あれ?誰かいるのかな。

扉の影から、中を覗こうとする。



「ほら、早く中入りなよっ!」

「う、うん…」


恐る恐る、部屋の中へと入った。

玄関や、そこから真っ直ぐ広がる廊下は、ピッカピカに掃除されていて、しばらく驚かされた。


2mくらいの長さの廊下の先に、もう一つ扉がある。

蒼ちゃんはその扉を開けて、部屋へと入っていった。



部屋に入ると、ダイニングテーブルや、ミント色のカーテンが印象的だった。

マンションの部屋にしては、平均の一軒家のリビングほど広く、奥の方にはキッチンや勉強机がある。


すると、奥の勉強机で座っている、黄色のパーカーを着た少女がふと目につく。

思い悩むように、机の上に立てられたタブレットに、何かを描いている。



「……ん?あっおかえりー!」


その子は、蒼ちゃんと同じぐらいの高校生に見える。

私たちに気づくと、座っていた椅子を回し、笑顔で挨拶してくれた。


彼女が着ていた黄色のパーカーには、変なロゴが印刷されてあった。

…タブレットをちらっと見る。二次元のイラストを描いていた。


「あ、実花ちゃん初対面だっけ。紹介するね。この子は私の従姉妹(イトコ)の____」

桃香(ももか)です!ミカ、ちゃん?その髪の毛、可愛いー!」



すると私のウェーブヘアに、食い気味になって見つめる桃香さん。

もしかしてりんちゃん、従姉妹と二人暮らしなのかな?


二人暮らしでこんな広さのマンションって…

両親とか、よっぽどお金持ちなのかな…?なんちゃって。



「えーっと…それ、何描いてるんですか?」

「ん、コレ?ああ今ね、依頼されてんの!SNSで」


ん?もしかして、桃香さんってイラストレーター?



「え、すごい!こんな事できるなんて…!」

「えへへ、ありがと…。でも、まだまだだよー!」


そんな風に話していると、奥のキッチンにある、冷蔵庫の中身を確認していたりんちゃん。



「あーっ!ごめん…桃香ちゃん、卵切らしてる…」

「えっ、マジ!?うわっごめんなさい!すぐ買ってくる!」


桃香さんは焦りながら、タブレットの電源を切った後、

机にあった財布を持って、買い出しに出かけていった。



「んじゃ、いってきまーす!」


そんな風に言いながら、桃香さんはここを去っていった。



「あれ、雨なのに傘忘れていったけど…」

「気にしないで、いつもの事だよ!」


りんちゃんがそう話した直後、ふと私と目が合う。

しばらくして、なぜか可笑しくなって、一緒に二人で笑った。




ダイニングテーブルの椅子に座り、りんちゃんと向かい合わせで話す。


「…あの、新田くんの事、聞いてもいいかな?」


私はそう言うと、りんちゃんは快く了承してくれた。

まず、いつ頃から付き合っているのか、と訊いてみる。



「新田くんとは、7月の上旬ぐらいから付き合ってたかな。」

「え!?そんな前なの!?」

「えへへ、まあね。けれど知り合ったのは、その2ヶ月前ぐらいだよ」


そ、そうなんだ…

私、そんな事、一度も聞いた事なかったのに。



「最初に知り合ったのは、外で野球を観戦していた新田くんに話しかけた時。

あの時出会わなければ(・・・・・・・)、私たちも付き合ってなかったかもね」


あの時、出会わなければ…

…あーっ!!じゃあ、その時に遡れば、りんちゃんを救えるかもしれない!!



「えーっと、2ヶ月前に出会ったってことは…5月?」

「うん!5月の……15日ぐらいかな?」


5月15日……うん、覚えた。

もしかしたら後で、役に立つかもしれない。



「……ねえ、他に、新田くんの情報とかない?」

「う、うん。あるにはあるんだけど……」


するとりんちゃんは、私を見て少し、困惑したような表情を見せた。

どうかしたのかな。もしかして、何か後ろめたい情報でも___


「……実花ちゃん、どうして新田くんの事、詮索してるの……?」



えっ。


「そ、それって?」

「…実は中島くんにも、同じようなこと聞かれたんだ」


中島くんにも、同じことを聞かれた?

じゃあ、今までも中島くんは、ずっと新田くんのことを疑ってたんだ。



「ねぇ、二人ともどうして新田くんを詮索するの?新田くんの事で気になることでもあるの…?」


不信感を抱くような表情で、私にそう問いかけてきた。



「言っておくけど、新田くんは、変な隠し事をするような人間じゃないよ」


いや。りんちゃんの言っている事は、間違ってる。


……でも、そうだよね。

私にとって新田くんは、「人殺しの怪物」

でも、今のりんちゃんにとってはおそらく、「大切な恋人」


無理に詮索しても、そんな風に思われるのは仕方ない。



「…ううん、何でもない。ごめんね」

「え、だいじょうぶ!そんな…、謝ることなんかじゃないよ!」


それを聞いたりんちゃんは、私を見て困るような表情を見せた。


私は、こんな事でりんちゃんとの仲を壊してしまうのが、怖かった。

もしかしたら、それは少し考え過ぎかもしれないけど…



「りんちゃんは、新田くんの事、愛してるんだね」

「…うんっ!」


それを聞いた直後、満面の笑顔で、りんちゃんはそう話した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


病院のロビーで、スマホの時刻を確認する。

11月10日の朝。前よりも早い時間帯に、病院に着いた。


朝から起きてすぐに出かけたから、それは当然。

けど、中島くん、こんな朝早くから病院にいるかなぁ…?




そんな想いで、私の記憶の中にある、前に中島くんのいた病室に着く。



「…あ゛?来たのかよ」


…いた。



病室の扉を開けると、頭に包帯を巻いた中島くんが、室内のベッドに横たわっていた。


「だ、だいじょうぶ?」

「うっせーな…大丈夫に決まってんだろ」


そんな風に言う中島くんだけど…本当に平気そう。

自分のおでこを痛そうに、手のひらを当てていた所は少し気になったけど。



「…よく聞け七瀬。アイツの彼氏の事で___」

「新田くんの事?その…知ってるよ。私」

「……あ゛?」


私はこれまでに見た新田くんの本性を、少しだけ明らかにした。

…過去に戻ったことに関しては、何も言わなかったけど。



「…じゃあ車のトランクの中の『誰か』に、話しかけているところを見たって事か?」

「う、うん!確かに見た…!それが誰なのか、までは見てないけど」


嘘をついちゃったけど、中島くんは信じてくれるのかな。


「……あっそ。気持ち悪いな」

「新田くんの事?」

「そうに決まってんだろ」


中島くんは窓の方を見て、ひとつため息をついた。

……よかった。どうやら私のこと、信じてくれたみたい。



「…蒼は今、大丈夫なのかよ」

「うん。……今のところは、多分」

「あっそ」


おそらくこの時間帯で、りんちゃんは死なないと思う。

じゃあ、どうやったら、彼女を救えるだろう?


「これから、どうすればいいのかな」

「知らねーし」

「…そうだよね」

「……新田って奴に、直接問いただせばいいんじゃね」


えっ、新田くんに直接問いただす?

問いただすって言われても…どんな風に?



「俺は、そのせいでこんな怪我したけど」


…え!?そうなの!?


「だっダメだよそんなの!危なすぎる!」

「あぁ゛?他に何があんだよ」


うう、確かに。他になにか出来ること…あるのかな。

一応この話はやめておく。これからの事は、その時に考える。



「おい!大丈夫かよ、中島!?」

「あ゛…!?うっせーな…!?頭打っただけだし」


すると、すぐに後ろから村野くんが、心配そうに駆けつけてきた。


「じゃ、じゃあ私は行くね」

「えっ?七瀬、もう帰るのか?」

「うんそうだよ。二人きりの方が、色んな話できるでしょ?」


村野くんにキョトンとされながらも、私はそう思い、この病室から立ち去った。

中島くんは二人きりにさせられて、嫌悪感を醸し出してたけど。


実は、村野くんと中島くんは、昔からの腐れ縁。


……仲が悪くて、いつも喧嘩してるけど。

きっとそれも、コミュニュケーションの形かな、と思っている。




病室を出て、病院の廊下を移動する。

……確かこの辺りで、りんちゃんとばったり会ったはず。


「あ、実花ちゃん。どう?蓮木くんの様子は」


やっぱり。

りんちゃんが驚いた様子で、私の近くにやって来た。



「うん、まあまあ…かな。」


ふと、りんちゃんの瞳を見る。

まるで全てを明るく照らすような、純粋な目だった。


……この目の輝きが失われた、あの時の事を思い出すと、胸が苦しくなる。



「あの、もし家に帰る時…帰り道、一緒に歩いてもいい?」


りんちゃんはそれを聞き、きょとんとした表情をしていた。

けれど直後、すぐに満面の笑顔を見せる。



「いいよっ!実花ちゃんと二人なら、賑やかで楽しそう!」


そんなりんちゃんを見ていると、少しだけ目に涙が浮かんだ。

こんなに心優くて、可愛らしい子に、死んでほしくなんてない……!!


─────────────────────────────────


病室で中島くんと話した後。

帰り道の、街の歩道をりんちゃんと二人で歩く。


「中島くん、よかったね!いつも通り元気そうで」

「うん」


いや…元気そうだったかどうかは、分からなかったけど。

けどいつも中島くん、陰気な雰囲気だから…だから、「元気」かどうかはあんまりよく分かんなかった。



しばらく経って、私はふと横を振り向く。

そこには、私たちに歩いて近づいてくる、二人の人影。


「あっ!二人とも〜!」


長野ちゃんと、奥原さんだった。



「二人とも丁度良かった!ななちゃん、いいから着いてき___」

「ごめんなさい!!大事な用事があるんです!!」


長野ちゃんに、半ば強引に腕を掴まれるものの、私はすぐにそれを振り払った。

そしてすぐに勢いで、りんちゃんの二の腕を掴み、二人を後にした。


「____ぇ、ななちゃ──んっ!?!?」


長野ちゃんが困惑げな声で私を引き止めようとしたけど、すぐに逃げることができた。




やがて、街の歩道から離れた、人気のない住宅街の道へと逃げ込む。


「ちょ!はなしっ…!!」


りんちゃんが、嫌そうに私の手を振り払おうとしてたので、私は彼女の腕を離す。

無理やり連れてこられたのがよっぽど嫌だったのか、私を嫌うように、二の腕を押さえてこちらを見ている。



「ど、どうして無理やり、こんなところに連れてくるのっ!?」

「それは、あの二人から逃げるためで…」

「___逃げる必要なんてないよね…!!?」


私の言葉が、すぐに反論されてしまう。

こんなに不機嫌なりんちゃん、見たことない。


「…ねっ、どうして、私にいちいち付き纏うの?最近の実花ちゃん、おかしいよ…?」

「そ、それは、新田くんが_____!!」

「また新田くん…?どうして…どうしていちいち、新田くんなの…?」


りんちゃんはそれを聞いて、顔を俯きだした。

自然と私も、目に涙が浮かんでくる。



「もし新田くんが、変な事とかに関わってるのなら、仕方ないよ?けど…彼は、そんな人間じゃ___」

「…違うっ!!新田くんは……今日りんちゃんを殺すの!!」


心の中に隠していた秘密が、カッとなって飛び出した。

りんちゃんはそれに対し、唖然とした様子だった。


私は、流していた涙を、袖で拭く。



「……え…?それって…」

「あのね…今日、新田くんの家の車のトランクで、お腹を刺されて…」

「そ…そんな縁起の悪いこと、言わないでよ…っ!!」


りんちゃんは、混乱している様子に見えた。


「本当だよ…!?」

「おねがいっ…お願いだからそんなこと言わないで!!」

「_____じゃあ私と新田くん、どっちを信頼する…?」

「っ…!?」



私はついつい、そんなことを口に出して言ってしまった。

りんちゃんも、その発言を聞いて以来、何も口を開かない。


……そりゃそうだよね。

私みたいな、単なるしょうもない女友達なんかより、大切な彼氏の方が、よっぽど信頼できる。



「……ごめんなさい」


ようやく口に出した、りんちゃんの言葉がそれだった。


私は、何もかも嫌になって、そこから逃げ出した。

こんな事しても、りんちゃんは救えないのに。




その後、長野ちゃんから電話がかかってきて、村野くんの家に来て欲しいと頼まれる。

長野ちゃんは電話越しに、声を出して泣く私を心配してくれた。


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