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RE.D PAST  作者: 加藤けるる
七瀬編
16/36

黒い罪(後編)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ブゥウーン。


翌朝、11月3日。おそらく今日、神崎くんが交通事故に巻き込まれる。

人がまあまあ通る都会の道路で白い軽自動車(・・・・・・)が、音を立てて走っていった。



待ち合わせ場所の歩道で、そんな様子を、暇つぶしがてら眺めている。

気を強くしとかないと、あとはせめてものオシャレかとも思い、お気に入りのキュロットを履いてきた。


……ちょっと、早く来すぎちゃったみたい。



「お待たせ。こんな朝早くにごめんね」


横から、青いジャケットの姿で、神崎くんが現れた。

そのごめんねの一言に対して、私は首を振った。



「ううん。大丈夫」

「そう?じゃあ行こうか」


神崎くんが目的地に歩き出すのと同時に、すぐさま彼の横について行った。

ちょっとだけ、彼と距離も空いちゃったけど。

緊張感が漂う中、歩道の横を走る、自動車の音だけが響いていた。本当に私を誘ってくれても良かったのかな……?





やがて交差点につき、人混みに紛れて、赤信号の前に立っていた。

目の前の道路には、さっきよりもかなり交通量が多いのが感じられる。


辺りから感じる人の声。ふと目についたのが…



「えー!これやばーい!」


私の真横にいた、信号の待ち時間に、スマホを見ている若い女子二人。

二人とも知らない人だけれど、もしかしたら目印(・・)になるかもしれない。



「……大丈夫、七瀬さん?」

「あ、ごめんなさい。大丈夫…」


緊張し過ぎていて、神崎くんも私の様子を見て察したみたい。

私がそう話した後も、再び彼との間で沈黙してしまう。


けれど、この後の事故が起こる状況を考えると、心がざわざわしてしまう。

そんな緊張をほぐすために、私は下唇を噛む。



ブゥゥウウ───ン!


銀色の高級車が、道路の向こう側を勢いよく走る。



ひっ!?驚いて、下唇の噛みぐせをやめる。

たまにああゆう高級車が通ると、やけにビックリしてしまう私。



「_____七瀬さん」


……えっ?

低いトーンの声で、神崎くんが話しかけてくる。


私は「はい…?」と返事をし、神崎くんの方を向くと、

いつも以上に真剣そうな顔で、こっちを見ていた。



「もし。もしこの件で僕が、踏ん切りをつけられたら……_____」




その矢先に、私の目が反応する。


神崎くんの真後ろに迫っていた、「黒い両手」が見えた。



「神崎くん、危ないっ_______!?!?」



私は咄嗟に、迫っていたその両手を掴む。

両手の主は、「黒いフード」で顔を隠していた。


その人の服は……間違いなく「あの時」、私に着せられた黒いコート。

間違いない!この人は広瀬さん______



……しかし。顔をこっちに向けた途端、それは別人だった。


顔と印象がまるで違う、若者の男子のような顔つき。

うそ!?この人、まるで「ニセモノ」だよ……?



私に驚いた顔をした直後、その人は素早く、人混みの隙間を走って逃げる。


「ま、待って…!!?」


私はそのニセモノを追う。

しかし、途中で立ち止まって、神崎くんの方を向く。


「神崎くん!お願いだからここから一刻も早く離れて!!」



私は周りの人も気にも止める場合もなく、神崎くんにそう声を上げた。

驚きげになりながらも、彼はそこで「わかった!」と頷く。


ひとまず今は、あの人を追いかけるしかなさそう……!


─────────────────────────────────



「ぜぇ……っはぁ…………ぁ?…ゔわっ!?!?」


私は、人気の少ない通路に逃げ込んだ、その人の両腕に掴みかかる。

両手を振り払おうと抵抗している、あからさまに焦っていたニセモノに、こんな状況でも私は訊く。


「はぁ……はぁ……!!

どうして、彼の背中を押そうとしたんですか……!?」


走り過ぎたせいで、私の方も彼の方も息切れが止まない。



「俺は……俺はぁ………!こんなつもりじゃ、なかったんだよ………!!」

「えっ…?」


質問の返事を聞いて、思わずその両手を離す。よく見たら……身長が、私より高い。

同時に彼も抵抗を止め、説明不足で呆然としていた私の表情をじっと見ていた。




一旦お互いに落ち着いて、近くのベンチに座り、二人で話し合う。


彼が名乗った名前は、米塚圭一(よねずかけいいち)

少し遠い学校に通う、高校2年の男子高校生だそう。


どうして、私たちとは違う高校に通う人が、こんな事を?

明らかに、神崎くんの背中を押そうとしたはずだけど……。



「あの…。赤の他人である米塚さんが、どうして神崎くんを…?」

「……言っとくけど、俺と神崎は顔見知りだ。中学の頃からな」

「えっ!そ、そうだったんですか」


中学の頃から……?

ふと、神崎くんと、二人で話していた頃のことを思い出す。


『神崎くん。さっき何考えてたの?』

『…え、ううん、大した事じゃないよ。昔のこと考えてただけ』

『昔のこと?』

『…昔色々あってさ。小学校の頃は幼馴染が死んで、中学は友達がいじめに遭った』


神崎くんの言っていた、中学の「心の傷」と、何か関係があるのかもしれない。

私は米塚さんに、その事を聞いてみた。口がまごまごしてしまうけど……



「もしかして。米塚さん、何か知ってますか?例えば、えーと……いじめ(・・・)の事とか」

「____はっ!?なんでお前がそれ……っ!?」

「えっ?」


その言葉に対して、米塚さんはとても焦っている様子だった。

やっぱりこの人、何か知ってる……?


「何か知ってるんですね!?教えてください!!」



私はそう言うと、突然、米塚さんは深呼吸をした後、

思い切ったような表情でこう話す。



「……俺が虐めてた。アイツのことを」


えっ?いじめてた?


「だ、誰をですか!?」

「言わなきゃならねーよな…。広瀬結衣って女の子だ」



ひ……広瀬結衣!?私は頭が混乱する。

もしかして…!神崎くんの言っていた「中学の友達」って、広瀬さんの事だったの…?


「今はもちろん、あんな事をした俺が馬鹿だったと思ってる。でもアイツ、今になって俺の学校にやってきてさ。

俺にだけ虐めの証拠があるとか言って、それを正門の前にばら撒くって脅されて……狂ってた表情だった」



米塚くんは顔を俯かせ、自分の拳をドン!とベンチに叩く。


「この服着て、神崎を脅かしてこい(・・・・・・)って、訳の分かんない交換条件を言われた……」



つまり、米塚くんは広瀬さんに脅されて、「あの交差点で神崎くんの背中を押して」と脅されてたって事?


それじゃあ、あの時私が米塚さんを止めていなければ、神崎くんは助からなかったかもしれない。

……もしかしてこれで、命を救ったの?けど彼の命を奪ったのは、私と同じ身長の広瀬さんのはず……。



「でもよかった。米塚さんの手を、汚さずに済んで」

「まあな……でも俺は、あの時からずっと後悔してる。後で神崎に謝って、これからも罪滅ぼしするつもりだ」


米塚さんがそう言ってベンチから立ち上がり、向こう側へ去っていった。

どうして広瀬さんは、神崎くんに殺意があったんだろう……?


─────────────────────────────────


私は一度、さっきの交差点へと戻る。

神崎くん、どこ行ったかな。一回彼と連絡してみた方が…って、あ。連絡先知らない。


その時。交差点の道路の一つの場所に、人混みが集中しているのが見えた。



「あれちょっとやばくない…?」

「見るからに、まだ学生さんだったのにね」


人混みの中にいる、誰かがそう話しているのが聞こえた。

不安な気分だった。

追い討ちをかけるかの如く、隙間から一瞬だけ見える。



止まっていた白いバスの前で、道路を赤く染めて倒れていた、神崎くんらしき姿が。



え……?

もしかして神崎くんは、助からなかった(・・・・・・・)の……?



ふと、そこよりも向こう側の歩道に、赤い髪の少女が目につく。

……間違いない。あれは広瀬さんだった。


その服装は、黒いフード付きコート。

過去に私が着させられたものと、米塚さんが着ていたものに、全く同じ。


『アナタは私に(・・)成り代わるの。アナタはコウタくんを……殺した!!!』


そういえば。過去に戻る前に、広瀬さんはこんな事を言っていた。

やっぱり過去に戻る前も、「広瀬さん自身」が神崎くんの命を……。




私は広瀬さんの方へ向かい、彼女の目の前に立つ。


「あら、初めまして、七瀬さん。

……いや、その顔。前にも何処かで会った事、あった?」


首を傾げ、表情を変える事なく、私にそう問いかける。

不意に漏れたような笑みが、不気味に口角を上げて、怖い。


「どうして……、どうしてその黒いコートを着てるんですか!?なんで……?何で神崎くんは……っ!!」


広瀬さんといる度に、頭が混乱して、謎が増えていく。

謎が多過ぎて、自分の汗もどんどん溜まっていった。



「面白い。あー面白い!すっごく!アハハっ!……あなたの困り果てた顔が。

あなたは自分の思いを踏みにじられても、どーしてそこまで焦って彼を救おうとしたのかしら」


その言葉が、私の心に突き刺さる。彼女が言うのは、神崎くんに告白を断られた時の事だと思う。

私は……誰かの命が失われるのが、怖い。

ただそれだけだと言うのに、笑われそうで。言えなかった。それには答えず、質問をした。



「……私が神崎くんに告白を断られた事。なんであなたが知ってるんですか?」

「その日、あなた達を尾行していたの」

「えっ…」


思わず背筋が凍る。

あの時、人気が少なかったのに。全然気づかなかった……。



広瀬さんは、神崎くんが倒れている、道路の人混みの方を見る。

私もつられて、そっちの方を向いた。


「ずっと私は、コウタくんの無様な姿が見たかった。嫌な気持ちをさせられたから。あなたもそうでしょ?」

「………広瀬さんはどうして彼に、殺意があったんですか。どうして彼に執着するんですか」


その言葉に対して、彼女は私の方を、じっと見つめる。

名前呼び。やっぱり気味が悪い。この人、特に神崎くんに関わってるけど……何で彼に(こだわ)るの?



「言ったでしょ?嫌な気持ち(・・・・・)をさせられたから」


広瀬さんは、さっき言った言葉をそのまま返した。


「……人間はいつも自分たちのことしか考えてない。どんなに助けを求めていても、みんなその人を避ける。私もその犠牲になっただけ」


広瀬さんの左眼は、妙に白く輝いていた。

言葉に反論しようとするけれど、その直前に去っていってしまった。




……彼女の言っていたことは、どういう意味なんだろう。

私は一つ、神崎くんのいる方を見て、ため息をついた。


「……広瀬さんと神崎くんに、何があったのかな」



そう呟くと、それを聞きつけた人が、目の前にやってきた。


「____本人に問い正してみろ」


黒いガスマスクの人が、私の目の前に立ち、そう答える。

私は、神崎くんを救うためには、神崎くんをもっと知りたい。


「……あの。もう一度、私にチャンスをくれますか…?」

「………。」

「知りたいです、私。神崎くんの事、もっと。もしそれが、聞くに堪えないイヤな過去だとしても」

「……………。」

「えーと……」


ハッキリと、胸の内を明かした。

けど。これは、完全に無視されてる……?



そう思っていた矢先、『タイムスピナー』たるものを、黙って直接渡された。

直後、ガスマスクの人は、ここから退散するように立ち去っていった。あの人、何者?神様?


□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□



スピナーを回した直後、私は辺りを見渡す。


近くには、神崎くんの姿。ここは屋内みたい。

ということは………もしかして、図書館?



11月2日。学校図書館で神崎くんと、机のイスに隣同士で座っていた。


死んだはずの神崎くんが目の前にいるっ!?

……うん。過去に戻ってるから当然だよね。

確かに予想はしてたけど、実際に目撃するとびっくりしてしまう。


「……七瀬さん?えっと…。話って、何かな…?」

「えっ…?____あっ!!!」


そうだった。この時、神崎くんと話がしたいって、私から誘ったんだったっけ。

わざわざ一緒になってくれたのに。かたじけない!!



けど、ふざけてる場合じゃない。

神崎くんに思い切って、こんな事を聞いてみる。



「神崎くん。質問しても大丈夫?」

「うん」

「イヤな質問、かもしれないけど」

「いいよ、全然」

「……広瀬さんとは、どういう関係なのかな」

「えっ?七瀬さんって、広瀬さんの事知ってるの…?」


神崎くんは、驚いた表情だった。中学の友達の名前を、私が言ってたら困惑するよね。

でもやっぱり、何かフクザツな事情がありそうな顔でもあった。

彼はしばらく考えた後、私にこう打ち明ける。



「……僕が中学の頃に、いじめられていた子がいた。それが、広瀬さん。

僕は、彼女のいじめから、ずーっと目を背けてたんだよ」


彼は、複雑そうな表情をしていた。

真っ黒な罪を、これまで抱えてきたように。





___ううん。正直な事を言うと……

私にはまるで、「それ以上のコト」を想うような面持ちに見えた。


そして、見て見ぬふりをしていたのかもしれない。知りたいけど、知りたくない。

だってそれが本当(・・)だとすれば…… この想いは完全に砕かれそうで、私にとって不都合になるから……

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