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RE.D PAST  作者: 加藤けるる
七瀬編
13/36

私の勇気をだして(前編)

私、この気持ちを言ってしまっても、後悔とかしないかな。






…………。




うっ……緊張する。


病院の待合い室の真ん中。私はただその場で、ぼーっと立ち止まっていた。

胸をそっと両手で抑えながら。……うう、この心をもし誰かに知れたら、恥ずかしくてこの場にいられないかもしれない。



今日、高校の大切な友達が意識を失って入院したと、担任の教師である冴島(さえじま)先生から聞いた。

この病院に入院していると聞いて、学校終わりに来てみたんだけれど…

入院した友達は、村野純(むらのじゅん)くん。


いきなり「いじめ」だったなんて言われても、突然すぎて訳がわからなかった。

前に神崎くんがそんな事を言っていたのを、ただちょっとだけ聞いたことがあっただけだけ。



…いやいや。そういう事は後で考えるとして、早く村野くんの病室に行こう。

そう思い、受付の方に向かって歩きだした。






しばらく廊下を歩いて、とある扉の前で私は立ち止まる。

これを開けた先が、村野くんの病室のはず。


……ええと、この部屋で間違いない…よね?

いやいや、病院の受付の人にも確認してもらったから、絶対そのはず。



また同じように、高鳴る胸を抑えた。

やっぱり。本当のことを言うと、私…ちょっと怖い。


村野くんは辛い経験の直後だから、心身ともに傷つけられている。

もし万が一、私が慰めようとして変なこと言っちゃったら、余計に彼を傷つけちゃうかも。



やっぱり、やめておいた方が、いいんじゃ………



_________ガラッ、バタン。


「ひ、ひいいっ!」



それは一瞬だった。突如目の前の扉が開き、飛び跳ねて驚いてしまった。

目の前には、とある『男子高校生』が現れる。


「えっ七瀬さん!?」



………それは、神崎くんだった。

神崎浩太郎(かんざきこうたろう)。最近知り合った私の友達で、村野くんの親友でもある。



制服や見た目は整っていて、真面目な印象が外見から見て取れるけど、性格ももちろんそう。

長くも短くもないその黒髪は、全体的に整っている。

けれどたまに髪の毛がちょっと跳ねている所が、(たま)に不器用なのかな?って思ったり…。


声もちょうど、ほどよい低めかつ中性的な声。だから、今の言葉も心地よく耳元に入ってきた。



普段はほとんどポーカーフェイスなんだけど、突然現れた私に、唖然とした表情で驚いている。

いやそれより!?私の大げさに驚いた姿、まさか神崎くんに見られるとは思わなかった……めちゃくちゃ恥ずかしい。


……因みに「七瀬さん」というのは、私の名前。七瀬実花(ななせみか)です。


「ええ、と…こんな所で何してたの?」

「そ、そのぉ…邪魔しちゃわるいかなぁ、と思って……。大丈夫?村野くんは」

「うん、大丈夫だよ村野は。じゃあ僕は帰るね」


その様子からして、村野くんは無事みたい。私はため息をついて安堵した。

もし神崎くんがいなければ、命も助からなかったかもしれない。本当は分からないけど。だけど村野くんが無事なのは…


「よかった…。」



私の真横を通り過ぎて、黙々と去っていく神崎くん。

もう家に帰るのかな?よし、盛大に見送らなくては。


「あ、うん、じゃあね、気をつけてね〜!」


私は両手を精一杯大きく振って、神崎くんを見送った。と、同時に。



「あ゛!いだ……!!」


つい両手を振りすぎて、「ゴンッ!」と力強い音。左手の甲を扉の縁にぶつけた。

じんじんと痛む手をもう片方の手で押さえる。うっ、我ながらなんて醜態を。


彼の姿が見えなくなった直後だったのが、ちょっとした不幸中の幸いだったと思う。

こんなドジな所を見られては、明らかに変人だと思われそうな気がしたから……っていうか、もうそう思われているかも。うん。


私は深呼吸し、手の甲をぐいと押さえ続けたまま、そっと村野くんの病室に入っていった。




室内のベッドに、村野くんはいる。

元気そうににやにやとした満面の笑みで、私のことを見ている。

それも、不自然なほどに。心の中で「え?」と思ってしまう。


「……あざといなー」


いつもの軽い口調で言う、村野くんの言葉。あれ。もしかして、今の所見られてた…??

それの意図は分からなかったけど、悪口ではない言い方だった。あと、少しだけ誤解があるような気がする、けど……


「あ、あの、違うよ!?今のはわざとじゃなくて、ちょっと、何と言うか……」


あたふたと言い訳。その内容は、完全に怪しくなっちゃうものだったけど。

そんな風に一方的に話していた合間、思わぬ言葉が、村野くんの口から発せられた。




「お前、神崎のこと、好きだろ」


________っっ!?!?



ガッと咄嗟に俯く。私の頭の中の何かが、沸騰するようにこみ上げてきた。


「あーこれゾッコンだな、お前の反応でぜーんぶ理解しちゃった」

「そ、そんなわけっ!!」

「…あのさ、俺がそこまで鈍感だとでも思ったか?おまえの神崎への反応見てると、もはや百年前からでも分かってたわ、ははっ!」


え、うそ……


熱が冷めた顔をゆっくりと上げると、村野くんに満面の笑みで迎えられる。

さっき神崎くんに対して、めちゃめちゃ両手を振ってた所で確信されたんだね、きっと。


私は恐らくかなり顔に出やすい。動揺を隠しきれないのは、昔から自分でも分かっていた。

でもまさか、村野くんに気づかれてしまう程だったとは思わなく、今の私、多分放心状態だと思う。



……そう。村野くんの言う通り。

私は神崎くんに出会う前、今年の春からずっと、片思いをしていた。



あ!!こんな事、自分でもなんだか怖くて恥ずかしい。

だって私が、神様のような神崎くんと釣り合うわけがない。


「……いや、ごめんなさい。この事は内緒にしてて…」

「えー?なんだよ、それ?さては七瀬、おまえ勇気ねーんだろーがっ」

「ち、違うよ!?だって私、二度も神崎くんに告白しかけた事あったんだよ!?」



村野くんは私を見て、じっと眉をひそめた。

一度目は、家が火事になる直前の歩道橋。二度目は、神崎くんが入院していた病室で。


……けど、村野くんには一理あるかも。私には勇気がない。不安なのかも。

私が神崎くんを前々から知ってたって、彼にとって私は、最近できた友達でしかない。

家が放火された時、助けてくれた命の恩人だけれど。それ以外を見れば、単なる友達。


自分でも情けない。釣り合う釣り合わないの問題じゃなくて、もしかすれば本当は、ただ勇気が湧かないだけ……?




ガラッバターン!!


ぐは!?!?


「だ……はぁ……っ!だいじょうぶ!?村野っ!!」



急に扉が開き、『バターン!!』と強い音。私はその一瞬で、心臓が締まる感覚がした。

バッと驚いて振り返ると、そこには息を切らして心配そうな表情をしていた、私と同じ制服姿の女子高生がいた。


長野穂花(ながのほのか)。学校の女友達で、流行が大好きな一年生。

あと今みたいに、たまに破天荒な時もある。



「おまっ…!病院走ってきたのかよ!?あぶねーぞ!?」

「え……はぁー!?あんたが病院送りにされたって聞いて、私もう学校からすぐ走ってきたんだけど!?!?」

「マナーきちんと守れよ!!!」


長野ちゃんはさっきまで心配そうにしてたけど、村野くんの突っ込みがパンパーンと炸裂。いつもの調子(・・・・・・)に戻った。

村野くんの言う事にうんうんと納得。えーと、看護師さんに注意とかされなかったの??


「ほんっと心配したんだから……ん?」



長野ちゃんはようやく私の存在に気がつき、視線を向ける。

一瞬驚いた後、ニヤリと口角を上げた。恐ろしい……思わず背筋が凍った。


「あ!!ななちゃーんっ!!」

「ひっ……ぎゃあっ!?!?」


私に気がついた途端、可愛らしく弾けた声と裏腹に、タックルの如く猛烈にハグしてくる長野ちゃん。

き、きつい!やっぱ腕の力、強いよね!?

スラリと細い体型だけど、さすが長野ちゃん。部活(バトミントン)の特訓でよく鍛えてる……。



「好きー!!」

「もうその辺にしてやれって長野!七瀬イヤがってるじゃんか」

「うるっさい!私は将来ななちゃんと結婚するの、だからねぇー…離さない!」


そんな約束、私一言もしてないよ!!と、心の中で思った。

私は身動きも取れずあまりにも困惑していると、長野ちゃんは名残惜しそうに離れてくれた。



「はぁー…あっそーいえば!さっき神崎くん、だっけ?通路ですれ違ったような気がする」

「そうなのか!さっきこの病室に来てたわ。」

「やっぱり。神崎くんって、ほんとイケメンだよね?ね?ななちゃんも思わない??」


急に話を振られ、うんうんと言って何度も頷く私。何やらタイムリーな話題。


「だよね!?彼女とかいるのかな……なんなら私、今度告っちゃってもいいけど!あははっ!」



その発言に、動揺を隠せず、思わず「えっ……!?」と声が出た。

微かな声に気付かれたけれども、二人に何気なくチラ見されただけで終わった。


長野ちゃんは確かに、とにかく恋愛に貪欲。

言い方だと多分、半分冗談のつもりなのかもしれない。け、けど……もし万が一取られたら、って、まって違うよ神崎くんは、誰のものでもないし……!!



「えーと、ホノカ、ダメダメ。あれは七瀬のだから_____あっ」


私が、困惑げな表情をしていた最中だった。

村野くんは平気な顔でそう言った直後、しまったと言わんばかりの表情に変え、口元を押さえた。




……え。村野くん…!?!?!?


「はぁ?どういうコト?…ん、それってもしかしてななちゃん、神崎くんのことが、す……?」



村野くん、口が軽い!!早くも人にバラしちゃったよ!?

よりによって、他人の恋愛に対しても容赦なく食いついてくる長野ちゃんに…!


既に彼女は私を、疑いのような目で見つめている。

…抑えきろうとしても、顔の熱がどんどん込み上げてくるのが自分でも分かる。言い訳を考えねば。言い訳を!!


「……あのね、長野ちゃん、これは…ぁ…ご、ごかいで_____」

「はぁ──!?!?う、嘘!?そーゆー事!?それだったらもっと早く言ってよ!

やばいやばい!!じゃあさ、いつ告るわけ?てかもう告った?チューとかした?いやそれは早いかぁー!」



うわわぁ…!これは、長野ちゃんの大技・マシンガン質問攻め。内容も、胸が高鳴りすぎて困惑するものばかり。

結局は聞く耳を持たない長野ちゃん。ただただ「恋愛」という未知の存在に、目を光らせて興奮していた。


「あのね?こんな恋愛経験すらない私からの、地味ーなアドバイスだけど。告るなら早めにしておいたほうがいいよ?万が一の時があれば、会えなくなるかもしんないから」


長野ちゃんは突如、真剣な顔をして私にそう言う。

そうかな。けれど確かに、ずっと一緒にいられるとも限らないもんね。



万が一会えないとすれば……例えば、急に別の学校に転校したり?急に留学するとか?いやそれはフィクションの話かな。

それ以外にも、あり得るとするのならば……この世から、消えちゃう……とか。



「あーごめんね!私、こんな暗い空気にさせちゃった!ホントごめん…!」

「…はぁ?だからと言って、早まるのも無理あんじゃね」

「ええー、じゃあななちゃんはどう?神崎くんのこと、好きなんだよね?」


長野ちゃんが私にそう言った後、村野くんも私の事を見る。

そう言われると、妙に緊張して口が硬くなる。けれど二人は黙々と、もじもじしていた私の返事を待ってくれた。




……最初はほんの一目惚れ、だった。



桜が咲いていた、二年生ぐらいの時期かな…?前の席にいた同級生の男の子が目についた。

整った制服姿に、全体的に優しい印象をもっていた黒髪の美少年。


あの日、初めて神崎くんを見た時。私の胸がきゅっと締めつけられた感覚に陥ったんだ。




「…好き。私は本気で…神崎くんが……すきです。」


左胸に両手を当てて私はそう言った。心臓は、ばくばくと鳴っていた。

それに頬がだんだん熱くなる。そして二人は、そんな私を見て唖然とする。



「きゃぁー!!うわ、うわわわ!可愛すぎる!二人ともお似合いだわ!!」

「神崎って、いいチョイスすんなぁ?ちょっと真面目で硬い性格だけどさ、俺はアイツの親友として応援するからな、七瀬〜っ!」


村野くんにそう言われて、私はちょっとだけ恥ずかしくなった。


「で、でも怖いよ、私。まだ神崎くんとは仲良くなったばかりだし。そんな関係にはなれないっていうか」

「へー?まあそうだよね、誰だってそうだよきっと。けどね?そんなもの、これから少しずつ関係を築いていけばいいじゃん!」


長野ちゃん…。真剣な表情をされると、何故だか説得力があった。

これから築いていけばいい、それは確かにそう。嫌われたらどうしようって、不安だけど…


「…いい?ななちゃん。それである程度イイ感じになったら、思い切って告っちゃうの!

ゆっくり攻めてくの!でないと後悔するから。もし万が一落ち込んだ時とかは、私たちに電話して!」



長野ちゃんに、お節介ながらアドバイスされる。いやお節介というのならさっきからずっとそうだけどね。

……けれど、おかげで決意は固まった。もし、ある程度仲良くなれたなら……いつかきっと、出来るだけ早く神崎くんに、想いを伝える。


「……ありがとう。村野くん、長野ちゃん」


一言そう感謝を言うと、微笑む村野くんと、「いいんだよ!」と頷く長野ちゃん。



でも神崎くんは、私の言葉を、受け入れてくれる?

イヤイヤ、そんな事を今考えたって、しょうがないよね…。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


翌日。教室の席に座っていた私は、その場で辺りを見渡す。



今日はたしか、村野くんは病院で欠席。

お見舞いに行った時は全然平気そうだったけど、これまでの怪我が酷かったらしく。多少の入院が必要、だとか。


村野くんも私みたいに災難だったね。本人は、神崎くんが助けてくれたとか言ってる。

あ、そういえば前に、私が放火に遭って部屋の中にいると、炎をかき分けて彼が助けてくれた事もあった。


いや、それにしても。なんで神崎くんはあんな咄嗟の反応ができたのかな?

未来を読む力があるとか?いやそう言うとほんとに馬鹿みたいだけど……。すごいよ、ほんとに。




……あれ?


しばらく辺りを見渡していると、神崎くんがこの室内にいなかったことに気づく。

どこに行ったんだろう?ちょっと気になったので、私は先生に聞くことにした。


席を立ち、冴島先生の席の前に来る。



しかし先生は、疲れたような表情をしながら、頬杖を突いてため息を吐いていた。

左下の方を向いてるし、どうやら私の存在に気づいていないみたい。


「……先生?」

「___あっ!!は、はい!どうかしたの?」


目の前の私の存在に気づき、あたふたして慌てながら姿勢を正す。

ちょっと疲れてるのかな…?私は心の中で、冴島先生の事を心配した。



「え、ええと…神崎くんはどこに居るか、知りませんか?」

「あれ?神崎くん?ええ、とね…もしかしたら今日も、学校図書館の方にいるんじゃないかな?いつもそうだから」


学校図書館…。

そういえば休み時間って、確かに神崎くん、学校図書館にいるよね。勉強熱心な所もいい…。

私はお礼を言った後にその場を去ろうと振り返ったけど、途端に気になって立ち止まり、再び先生に体を向けた。



「……どうして、ため息をついてたんですか?」


机の書類に変えていた冴島先生の目線は、私のほうに戻る。


「えっ。ああ、ちょっとね。色々あったでしょ?ここ最近。厚見先生が、あなたの家を放火したって聞くし、学校内のいじめが発覚したし。

事件真っ盛りだったのに、なんだか私、何もできなかったから…すごいショックだったの」



あー、なるほど。先生は、自分のことを責めてるんだ……優しい人なんだ。

無理はしないでくださいねと心配の声をかけると、先生はいつもの調子を取り戻した。




学校図書館に着くと、神崎くんはいつも通り机に座り、勉強をしている。

……話し掛けづらそうなオーラを放っていた為、外の廊下から様子を見ていた。


うっ…!ど、どうしよう私、もう既に心臓がばくばくして、破裂しそう!!


下手に邪魔してしまったら、「僕の勉強の邪魔をしないでください」

って言われて絶交されてしまうかもしれないし!?



私はその場から、ウサギのように逃げ出してしまった。


うう、自分のヘタレさが憎い。けれど今の私じゃ、神崎くんに話しかけられるかな…。

もう少しそのチャンスが訪れるまで、待ってみた方がいいよね。


─────────────────────────────────


そして、放課後のクラスの教室。そのチャンス(・・・・)は、すぐに訪れた。


「あれ、りんちゃん。神崎くんと何話してたの?」

「あっ実花ちゃん!今から神崎くんと一緒に通学路歩いて帰らないかなーって相談してたんだ」



この黒髪ロングの女子高生「りんちゃん」。彼女の名前は、蒼凛(あおいりん)

友達の中で唯一、女の子同士で意気投合する仲間。とても仲が良く、私の大大大親友。


普段は一年生なんだけど、この教室にわざわざ来てくれたみたい。

神崎くんの席の目の前に立ち、二人で何か会話していたので、気になって話しかけてみた。


それにしても一年生のりんちゃんが、二年生の神崎くんと一緒に帰りたいだなんて、珍しいな。



「もし良かったら、実花ちゃんもいっしょに帰る?」


りんちゃんに、今から私たちで一緒に帰らないかと誘われる。

ふと神崎くんの方を向くと、私を見つめてじっと返事を待っていた。


その真顔の眠そうな瞳が、どこかドキッとする……。


神崎くんを横目に見てると、変に動揺してしまった。

すぐに私は視線を逸らし、りんちゃんの方を向いてぶんぶんと頷いた。



「ん!ありがとう実花ちゃん!やっぱり人数が多い(・・・・・)方が楽しいもんね」

「「……ぇ?」」


私と神崎くんはその発言に驚く。

もしかして、他にもいるの!?その話、聞いてないけど……神崎くんも知らないのかも。





私と神崎くん、りんちゃんで校舎の外に着くと、見覚えのある男子生徒が一人だけいた。


「あぁ゛…!?まじで来たのかよ」


この身長の高い、ガラの悪そうな男子生徒。名前は、中島蓮木(なかじまれんき)くん。

黒髪のせいか、神崎くんと少し似たような共通点がある気がする。

その鋭い目つきと、身長が高いという点が違うけど。うう、私にとっては怖い。



「ありがとう、中島くん。待っててくれてたんだね」

「うっせぇな…。俺だって用事があんだよ、用事が」


不機嫌そうな様子の中島くんを恐れず、りんちゃんはやっぱり明るい笑顔で彼と話していた。

私からすれば、まるで猛獣を操る猛獣使いのよう。二人ともずいぶん交流があるみたい。




下校中は、狭い歩道を一列に並び、中島くんを除き、みんなで色々な事を話した。

もうすぐ迫る冬休みの宿題とか、流行りの曲の振り付けとか?


…ちなみに中島くんはその話題に入らず、私たちから距離をとって歩いていた。


「あーそうだよね!…ん?神崎くん、どうかした?」

「え、いいや、何も。僕のことは気にしないでください」


りんちゃんが気を遣って、神崎くんの方に振り向く。顔を歪めていたけど、声をかけられてハッとした。

そういえば、りんちゃんと二人で流行りのダンスの話をし始めた時から、神崎くんは、暇そうに考える素振りをしていた。


…どうかしたのかな?

気になってはいたけど……りんちゃんと話すことに集中してて、本人には何も聞けなかった。




その後、りんちゃん、中島くんと別れる。

静かな住宅街の帰り道、神崎くんと、また二人きりになってしまった。

考えてみれば、しばらく帰り道は同じ。もしかしたらこの瞬間がもっと仲良くなれるチャンスかも。


「神崎くん。さっき何考えてたの?」

「…え、ううん、大した事じゃないよ。昔のこと考えてただけ」


神崎くんの昔…?それって一体何だろうと思い、どうにか話題を広げてみる。


「昔のことって何?」

「…うん。僕は昔、色々あってさ。小学校の頃は幼馴染が死んで、中学は友達が虐めに遭ったんだ」


……え!?!?

意外と闇が深そうな過去に、驚きを隠せなかった。同時に黙り込んでしまう。

さすがに詳しいことは聞けなかったけど……幼馴染が死んで、友達が虐めに遭ったって。そんなに暗い過去だったんだ。



もしかして、私たちが危険に晒された時、やけに神崎くんが本気だったのはその為…?


「_____ぁ、ごめんなさい…!変なこと聞いて!」

「ううん。……僕は、またいつか二人の様子も見に行こうと思ってる」


二人の様子を見に行くって事は…、お見舞い……かな?

神崎くん、真面目な所もあるけど、きっとそれ以上に友達想いなのかな。



二人でそんな話をしていると、あっという間に歩道橋に着き、神崎くんと別れた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「え?それで私に、アドバイスってわけ…?!」


翌日、学校の休み時間。

半ば無理やり長野ちゃんに女子トイレに連れ出し、少し唖然とした顔をされる。


「ごめんね、こんな所に連れてきて。で、でも私不安だよやっぱり…!」

「……うーんそうだねぇ…。もういい。なら私が恋の極意、一から教えてあげるから!」


恋の極意って、長野ちゃん。前に恋愛経験は、一切ナシって言ってなかった…?

けどアドバイスを貰う立場でそれは言える訳もなく。長野ちゃん流のそれを教わった。




それから約数分後、恋の極意(アドバイス)は続いていた。


「いい!?恋は一瞬の隙を見計らってアタックするの!!わかった!?」

「な、なんだか、サムライ映画みたいだね...」

「何言ってるのかよく分かんないけど、つまりそういう事!」



急に熱く語られてしまい、ぐっと黙り込んで頷くのみ。私も流石に耳や頭と首の筋肉が疲れ果ててしまった。

恋愛経験ナシって言ってたのに、いろんな形や考え方を知ってる長野ちゃん。

そもそも、恋って何?脳内が恋という文字でゲシュタルト崩壊する………



「じゃあさっき教えた事、早速実践だから!いい?」

「ふぇ…!?」


突然の発言に、驚いて変な声が出てしまった。

えっ実践!?さっきのって……まさか!?




私はクラスの教室に戻れば、神崎くんの席には彼がいる。

卓上にある教科書を見ながら、彼は顎を手に当てて考え事をしていた。


あの神崎くんに…「デートに誘って」ってこと…!?


私は後ろを向くと、長野ちゃんが入口を阻んでいる。

長野ちゃんは私を見て、ニヤニヤと笑っている。……ちょっと怖い。



こうなったら後に退けない。

私は重い足取りでゆっくり、神崎くんのいる方へ向かった。


「……ん、どうかした?七瀬さん」


私は神崎くんのテーブルの前に立つと、思い切って口を開いた。

さすがにこんな人気のある場所で告白できないし、予定だけ聞いておく。


いつも普通に話してるのに、こんな時に限って緊張する。



「あ…、あああ、ああ、あの…!きょ、今日の予定空いてますかっ!!」

「えっ?ごめんなさい、積もってる宿題が山ほどあって」


玉砕。即答でした。私はずーんと落ち込んでしまう。

いや、そうだよね。神崎くんだって忙しいだろうし。放心状態のまま、教室の外に向かおうとした_____



「あっでも、明日の学校終わりなら空いてるよ」



えっ…?

予想外の言葉に、私は心の中で驚いてしまう。


「じゃ、じゃあ学校終わりに、いつもの公園で待ってます!!」

「うんいいよ。一回家に帰るから、遅くなるかもしれないけど」

「いや、ぜんっぜん!……楽しみに待ってるね!」


私はそう約束を交わした後、その場からすたすたと逃げるように立ち去った。

神崎くんの前で、喜びを表情に出し過ぎまいと。……そして。



やったあぁぁぁぁ……っ!!!


私はその心の喜びを漏らすように、小さくガッツポーズをする。

ふと長野ちゃんを見ると、私に向かって親指を上げていた。

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