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1話

 楽に死ぬには。

 そういった薬を飲むのが一番かもしれない。

 けれど日本では認められていない。

 では、どれがいいものか……。


 僕はさらなる死に方の模索をしていた。

 何通りもの死に方を考えて、その中で一番いいものを選択しよう、と。

 

 気がつけば山奥に。


「こういったところが『名所』になるのかなぁ」


 大木に手を伸ばす。

 木は何も言わない。

 僕が触れても嫌がらない。


「君の近くで死ねるのも、いいかもね」


 なぜか木々に愛着が湧いてしまったので、さらに緑の深い方へと進んでいくことにした。

 さらに、さらに。

 帰り道もわからなくなるくらい。

 ひたすらに歩いた。


 と、いつの間にか僕は山を越えていた。

 少し歩きすぎただろうか。


 一日中歩いたせいで、空も暗さを深めている。


 この旅に出てからというものの、寝袋で野宿することが多くなった。

 たまに空き家を拝借するが。

 今日は後者でいこうと思っていた。


 山の近くには廃屋が多いから、いい感じのものがあるだろう。


 予想は的中。

 すぐに年季を感じさせる豪邸が見つかった。


 どの個室にも電気は点いていなかったし、扉の鍵も空いている。

 壁が崩れるどころか窓ガラスさえ割れていなかったので、過去最高峰の寝心地を誇る空き家だ。


 扉を開け、そのまま奥へと進む。すると、またもや大きな扉が待っていた。

 館の内部なんて一切知らなかったから、何も考えずに開けてしまった。


 扉の軋む音。そして目に飛び込んできたのは広い空間。

 とても長いテーブルと、光を失っているシャンデリア。それに――。


「勝手に人の家へ入るなんてね……。人間って本当、無礼な生き物」


 月明かりに照らされる女性の姿があった。


「……空き家かと思いましてね。失敬、すぐに消えますので」


 こんなケースは初めてだ。

 通報されたりしたらどうしよう。


 うむむ、空き家の拝借も犯罪に抵触しているかもしれないから、大事にしたくないのだが。

 家族にも黙って出たし。


「ん? 帰るの?」


 女性が困惑したように聞く。


「……だって、あなたの家じゃないですか」


「あれ? 私を殺しに来たんじゃなくて?」


 何を言っているんだこの人は。

 僕も死にたいが、殺したいとは思わない。


「え、じゃあ何。何しに来たワケ?」


「……宿を探していまして」


 女性は拍子抜けしたような、安堵したような表情だった。


「なんだ。ビックリさせないでよ。一晩くらいならいいけど――」


 女性は月光から離れ、続ける。


「私、吸血鬼だけど? それでもいいの?」


 からかうように女性はいった。

 吸血鬼――名前は聞いたことがある。ただ、それがでてくる映像作品などは視聴したことがないので疎いが。

 まぁ、どうあろうと彼女の言うことは冗談だと思うが。


「たとえ吸血鬼でも構いませんよ。一晩泊めていただけるだけでありがたい」


「……は? あんた、もっと驚きなさいよ」


「……なんで?」


「だから私、吸血鬼だってば」


 しばらくの沈黙が部屋中を包む。


 もしや彼女、本気で言っているのか?

 それとも頭のネジが飛んだのか。


「それに、あんた、不用心すぎない? 私はそんなことしないけどさ、吸血鬼に寝込みでも襲われたらどうするのよ」


 寝ている時に襲われる。

 殺される。


「それもいいですね。ここで死ぬのも」


 自分からすれば、何気ない一言だった。

 寝ている時に死んでしまえば、安楽この上ないと思ったのだ。

 だが、その言葉は失言であった。


 女性が僕のことをきつく睨む。


「……自分が何言ってるかわかってんの?」


「え? あぁ、すいません。自分、死に場所を探しているので」


 見ず知らずの人間にいきなり死にたいなどと告白されても不愉快になるのは当然だろう。

 こういう配慮が足りないから嫌われるんだろうなぁ。


 女性は舌打ちをすると長机の近くにあった椅子に腰掛けた。


「あんたみたいなのが一番頭にくるわ。生きるとか死ぬとか、簡単に言っちゃうやつ」


 あぁ、この人も否定する。

 もう僕を嫌わないでくれ。


「ごめんなさい、生きる理由が見つからなくて。誰からも嫌われてしまう体質で――」


「何が生きる理由よ!」


 女性が叫ぶ。

 話が遮られてしまった。


「いい? 私は吸血鬼、存在自体が昔っから人間に嫌われて、殺されて、殺され続けて、もう私しかいないの! でも生きてんのよ! 理由なんてこっちだって知りたいわ。悲しいことしか起こらない、見慣れた景色しか見えない、この生活があとどれくらい続くかもわからない……!」


 言っていくうちに女性は少しづつ涙を浮かべ、ついにはその瞳からこぼれ落ちた。


「それでも、生きたくなるのよ……」


 彼女はぐいと涙を拭って、またもや僕を睨みつける。


「あんたの、バカみたいに贅沢な願い。私が全力で潰してやるわ」


 まだ彼女の声は震えていた。

 それでも、しっかりと僕を目で捉えて放さない。


「決めた。しばらくうちに住みなさい。監視のために」


「……まぁ、いいですけど」


 一方的に話は進む。

 皆、僕の意見なんて必要としてないもんね。


 明朝にここを出よう。これだけ広ければ、きっと隙を見て抜け出せるはず。


「ったくもう……。トラウマ、思い出しちゃったじゃない。あんたのせいで」


「……あの、あなたの事情はわかったんですけど。こっちにも事情があるので、あまり強くあたらないでください」


 クスッと女性は笑った。


「なによそれ。大層なこと言ったくせに女々しいヤツ」


 女性は「バッカじゃない?」と笑ったが、その笑みは今まで受けたものと違った。

 今までうんざりするほど見てきた嘲笑とは。


 でも、この人は嫌いなタイプだなぁ。

 怖いし、すぐ怒鳴ったし。


 そう思っていた僕だが、この女性に、その笑みに、まさか救われるだなんて、今は知っているはずもなかった。

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