ソラの秘密
「なぁー、成実」
「なにー、慧ちゃん」
「マジだな、これ…」
「そうだねー、マジだねー」
俺たちの目の前には猫のソラがこちらを見ている。
だからなんだよ
って思うかもしれないが…
こいつ、さっきまであの少女だったんですよね…
天使が降臨し、俺たちが少女との生活を決意した後、
とりあえず本当にこの子が俺の飼っているソラなのか、
ということの証明をしてもらうことになった。
少女はお願いに対して快く了承してくれると
徐に机に立つと彼女の足元に白く輝く魔法陣?の様なものが出てきた。
その光は彼女を包み込んでいき、目を背けるほどの光を放った。
その光が晴れるとそこには黒猫のソラが鎮座してた。
そして、先程の話に繋がると言うわけです。
「にゃ?」
動揺が冷め止まぬ俺たちにソラが「これでいい?」みたいに可愛らしく鳴いていた。
「あぁ、ありがとう、本当にソラなんだな」
「にゃん!」
すると、再び魔法陣的なものが出でくるとソラは猫から少女の姿へと姿を変えた。
「信じてくれてよかった」
「これを見たら信じない方が無理があるからな…」
納得はしていたつもりだったが、こう目の前で見せられると感情が追いつかない。頭の中では理解できるのに全く実感が湧かない。
少し前の先生に怒られた時のような保おけた顔をしていると、喋り方が戻った成実が口を開く。
「う~ん…」
「どうしたんだ?」
「いや~、この子がソラちゃんだってことは信じられたんだけど、このまま共同生活していってもいいのかな~って」
「どうゆう事だよ?」
「だって男子高校生が血縁関係のない少女とひとつ屋根の下に暮らすんだよ? 周りには知られたら大変でしょ? 他の人は私たちの事情は理解して貰えないだろうし」
「まぁ、そうだな…『こいつは猫なんです!』なんて言ったら精神科に連れてかれそうだしな」
「さっきの変身のやつも見せたら別の問題になっちゃうし…」
「つまり、誰にもソラの正体をバレないように暮らしていくってことか…」
もしもバレたら俺は犯罪者に…想像しただけで恐ろしいな…両親に見せる顔がない…
「でもまぁ、拾ってきたのは俺だしな…責任は取らないとな」
「そうゆう真面目で優しいところは慧ちゃんの美徳だよね~」
「そりゃどーも」
「え、えーと…私は…」
「お前はとにかく俺と成実以外にはその姿を見せないようにしてくれ…さっきみたいに猫になってな」
「わ、分かった! 頑張る!」
手を握りしめ、グッと脇を閉め見上げてくるソラ。
か、可愛い…!
何この可愛い小動物…行動全てが可愛いのは反則だろ…!
俺が本日何度目かのソラの可愛さに悶えているとこちらも何度目かの成実のチョップが入った。
「まるで話は終わったみたいな雰囲気になってるけどまだだからね~? ソラちゃんがなんで人間や猫に姿を変えられるのかっていう最重要項目の答えがまだだからね?」
「ちょっとくらい浸ってもいいだろ? こんな可愛らしいものが目の前に存在してるんだから…」
「はぁ…とりあえず教えて貰ってもいいかな…?」
「えーと…これ…」
するとソラは服のポケットから指輪を取り出した。
「これは?」
なんとも怪しい指輪だ…これが説明してくれるのか?
ソラはそれを指にはめる。
「…? 特に何ともないけど…」
「いえ、これで説明することができます!」
「…え、ソラ? さっきまでそんな喋り形だっけ?」
先程までのカタコトとは打って代わり、悠長に話し出したソラに俺も成実も惑いを隠せなかった。
「それはですね、お母さんから貰った指輪なんです。 効果は言語理解だと言ってました」
「ま、マジが…」
俄には信じられないがこの指輪のおかげでソラの言葉を理解できるそうだ。
まぁ、先程の変身を見せられたら信じるしかないのだが…
「私はまだこちらの言葉を使いこなせないので…お兄ちゃんと見たアニメで少し学んだくらいで…」
「あぁ、なるほど…」
…ってことはこいつはアニメを1週間見てただけである程度は話せるようになったのか!? こいつ…まさか天才なのでは…
「では、私がこの世界に来た理由を説明します」
「……え?」
「…ってことは異世界からの住人ってことか?」
「はい」
魔法みたいなの使ってる時点で察しがついてなかったと言うと嘘になるが…
やっぱりそうなのか…
「じゃあ、なんでソラはこっちの世界?に来たんだ?」
「ソラちゃんがいた世界で何かあったの?」
俺たちの質問にソラは顔を縦にふった。
その表情から明るい理由出ないことは明確だった。
「私の暮らしてた国が他の国の人達に襲われてしまって…その時、お母さんが私をこの世界に逃がしてくれて…」
「……なるほどね~そういう訳があったのか」
「はい…この世界に来てからも突然、知らない街に一人ぼっちで…」
「こんな小さい子が…大変だったね…」
ソラの生い立ちに母性が騒いだ成実はソラを抱き寄せていた。
「なぁ、ソラ…いつこっちの世界に来たんだ?」
「昨日ですね」
そうか昨日この世界に……ん?
昨日、昨日って言ったのか?
「え、お前昨日この世界に飛ばされたのか?」
「え、そうですけど…」
「じゃあ、なんでお前あの時あんなに汚れてたんだよ! 体もガリガリだったし…」
そんな姿だったから俺はこいつを飼うことを決めたんだぞ?
「あの時は普通の姿でいるよりもあの姿の方が魔法をかけやすかったというか…」
「お前今、魔法って言ったか?」
「は、はい…傷ついた姿を見て同情してもらった方が普通に催眠をかけるよりも違和感を持たせずにかけられますから…」
つまり俺は、まんまとこいつの策略にはめられただけってことか…?
ちょっと運命とか考えていた過去を消し去りたい!!
「最初は拾ってくれるなら誰でもよかったんですけど、今ではおにいちゃんで本当によかったって思ってますよ?
私の正体を知った上で一緒に暮らしてくれるなんて言ってくれる人中々いませんから…」
「まぁ、確かにここら辺だと慧ちゃん以外居ないかもね~、慧ちゃん程の変人はね~」
「それだけが俺の誇れるところだからな!」
回りから冷たい視線が飛んでくるが俺は気にしない!… 気にしない!!