猫のソラ
「……こ、ここは…平原…?」
俺は目が覚めると何故か平原にいた。
そこは本当に平原と青空が広がるだけでそれ以外は何も無かった。
「なんでこんな所に……ん?…あれは」
ただ広がるだけだった景色に1つの人影が映る。
その人影は黒髪の少女だった。
風に揺られてその綺麗な黒髪とそれとは対照的な薄緑色のドレスが揺れている。
後ろ姿しか見えないが美少女だと言うことは言うまでもなかった。
「おぉーい!」
俺はその子に声をかける。
その声にその子が振り向くと
突然、突風が吹く。
そこで俺は目が覚めた。
目が覚めると、俺は見慣れた天井を見上げていた。
「な、なんだったんだ…」
結局、顔は見れなかったし…
あの場所はどこだったんだ? 見覚えすらないし、そしてあの最後に居た少女は一体…
「にゃ!」
「おぶぅ!?……ってお前かよ,」
先程の夢のことを思い出していると、
先日飼い始めた猫が俺の顔を覆ってきた。
「にゃあー」
「はいはい、朝ごはんにするからなー」
早くご飯をくれと言わんばかり鳴いている猫のために朝ごはんを手早く作る。
今日のメニューは、鮭の塩焼きにした。
昨日は野菜を茹でで少し味付けしたものを出したから今回は魚を出してみた。
当然こいつの分は塩を薄めにしてあるけど…
「ほら、今日は鮭だぞー」
「にゃ……!!」
食べやすいようにほぐして、渡してやる。すると、美味しそうなのか目を輝かせて鮭を見ていた。
「よし、じゃあ。 いただきます」
俺が鮭を食べるのをみてこいつも鮭の皿にかぶりついた。
「にゃ~~♡」
「お前、ただの鮭だぞ?」
こいつ本当に猫なんだろうか? そう思うぐらい表情豊かだ。俺の声にも反応するし…まぁ、頭が少しいいだけだと思うけど。
鮭を頬張る猫を見てあることに気がついた。
「そう言えばお前の名前、まだつけてないな」
「にゃ?」
「今まで、猫とかお前とか呼んでだし…そろそろつけないとな」
「にゃー、にゃにゃ!!」
「うん、どうした? 鮭のお代わりならもうないぞー」
「にゃにゃにゃ!! にゃーん!!」
「なんなんだ? まぁいいか…名前か…うーん…」
「にゃー…」
何故かため息をついているようなこいつを横目に俺は名前の案を頭で散策する。
んー、やっぱり特徴を捉えた方がいいよな…黒い毛並みだからクロ、とか?いやいや、流石に安直すぎるか
他には…よく見たらこいつの目、水色なんだな…水色か…
「よし、お前の名前はソラだ」
「にゃにゃ?」
「いい名前だと思わないか?」
「にゃー…にゃ…」
なんだ、今こいつにバカにされたような…
ってそもそも猫と話している時点で俺相当やばいのでは?
なんか悲しくなってきた…
俺は一抹の悲しみを覚えながら上着を着て買い物用のバックを手に取る。
「にゃーん?」
すると、ソラが玄関に行こうとする俺の足に絡んできた。
「ん、なんだ? お前も買い物来るのか?」
「にゃ!」
「んー、まぁ、いいか」
そう言ってバックの中に入れようとすると、ソラは俺の上着の中へと飛び込んできた。
「ちょ! お前はバックの中に」
「にゃにゃ?」
「はぁ、落ちないようにしろよ?」
「にゃん!」
そして俺はソラと買い物に出かけた。
外は2月の半ばとはいえ、まだまだ寒く上着を着て来て正解だった。更にソラが中にいるのでさらに暖かかった。
そのソラといえば、最初こそ落ちそうになっていたものの、コツをつかんだのか
俺の上着の中でくつろいでいた。
そんなソラが目立つのか、道行く人がチラチラと見られ結構恥ずかしい…
「お前も少しは隠れるとかしろよ…」
「にゃー」
本当にこいつは俺の言葉をわかってるのかと思うほど、しっかり返してくる。やっぱりこいつ天才なんじゃ…まさか芸とかも出るんじゃ!
俺が邪推なことを考えていると近くのデパートにたどり着いた。
ソラといえば俺の押すショッピングカートのカゴの中で初めて見るのか、デパートに目を輝かせている。
ここは俺の家から徒歩で10分ほどにあるデパートである。食品売り場だけではなく本屋や服屋などもあり、大抵のものはここで揃えられる。
ほんとにここには一人暮らしになってからお世話になってるよな…
そんなことを考え、いつもの様に食品売り場に向かう。
今日買いに来たのは鍋の材料でだ。
鍋ならソラのご飯も一緒に済ます事が出来るし、鍋ほど簡単で美味しいものはないよな…!
俺は足りてなかった材料を素早く買い終わると今回の本命の店に向かう。そこはペットショップだ!
そう今回の買い物の目的はクロと暮らしていく上で必要なものを買いに来たのだ。
「よーし、必要なものは事前に調査済み。さぁ、さっさと終わらして帰るぞ」
「にゃ…」
前方から野菜やお肉に埋もれてるソラの声を聞き流し、買い物に移る。
「なぁ、そろそろ機嫌直してくれよ~」
「にゃ…….!!」
「悪かったって…」
今俺はソラに許しを乞っていた。
猫相手に謝罪をしてることに違和感を持つと思うが、とにかく謝っていた。多分買い物中、カゴの荷物に埋められたことを根に持っているだと思うが…
帰ってきてからずっとこの調子。
「どうしても治してくれないんだな?」
「にゃ!」
「ならば、この手しかないな!」
俺はキッチンから準備していたあるものを持ってくる。
それは、今日の夜ご飯である鍋だ。
「これを食べればお前の機嫌も良くなるだろ」
「にゃーん…」
「…ほら、食べてみな?」
「にゃ………っ!!」
今まで、心底不服そうだったソラは
鍋を口にした瞬間、一瞬でなべの虜となっていた。
「にゃにゃ!!」
「はいはい、機嫌が治って良かったよっと」
次を催促してくるソラに促され
俺は鍋から再度、具を取り分けてやる。
ただのなべでここまでの反応を示すとは…今までの不機嫌さが嘘のようだな…
全く本当にこいつは人間じみている。本当に芸をさせたらお金もらえるんじゃないか?
食事をするソラを見ながら、何を覚えさすかを真面目に思案した。
そんなこんなで今夜の食事も終わり、
俺はソラを足の間に入れて、撮っていたアニメを堪能していた。
まさか、ソラのやつが興味を持つとは思わなかったな…以外に趣味が合うのかもな。
撮りだめていたアニメも見終わり、ソラも眠そうにあくびをしていた。
時計を見るとそろそろ今日が終わりそうになっていた。
「うわ、もうこんな時間…俺も早く寝ないと」
「にゃー」
俺がベットに入るとソラもその中に侵入してきた。
「おい、お前には新しい寝床買ってやったろ?」
「…zzz」
「って寝てるし…まぁ、暖かいしいいか」
俺は電気を消し、眠りについた。