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♠ 12時46分 馬南小学校、校門前


「だが、問題も一つある……」


 僕とレヴェッカ、そして嫌々付いて来た春尾の三人は、世田谷がここに現れるのを待っていた。バリケードなどが乱暴に剥がされ、駐車場に何重もの木の板が敷き詰められた、馬南小学校校門前。


「相馬クン、キミのように意思の強い人間がこちらに来てしまうことで発生する、唯一の問題。それはなんだと思う?」


 春尾は小首を傾げ、僕の顔をまじまじと見つめて来た。美形で色白な彼は、「それは……この学校で唯一のボケ役がいなくなって、ツッコミ役しか残らなくなってしまうコトっすか!?」誰も笑顔にならない寒々としたボケをかます。


「ボケ役になった憶えはないけどさ。ていうか、どっちかって言ったらボケははるきゃんの方だろ!」

「俺っちはツッコミの方っすよ」


 レヴェッカは僕と春尾の顔を見比べ、「大丈夫か、こいつらで」と言わんばかりのため息を零した。

「正解は、もし学校内で問題が発生したとき、それを止められる人間がほとんど残されていない。だから相馬クンは私に付いてくるべき人材でもありながら、残るべき者でもある」


 それは、僕が仮にも『教師』として『生徒』たちを取り締まる側だからそう言われるのか、定かではない。ただ、僕の感情は複雑で、嬉しくもあり哀しくもあった。


(アンナ……)


 胸中に残る、一抹の不安。

「なんで僕が学校にいないとダメみたいな、そんな言い回しをレヴェッカさんはするの?」


 レヴェッカは鋭い目つきをさらに細めて、僕の顔をじぃっと見つめて来た。


「な、なに?」

「……私は、テストも兼ねて同行者を求めた。そんなことも気づいていないのか?」


 男口調。せっかくの美人が本当に台無しだ。日本人でも真似ができそうな茶色の髪は生まれつきで、他のカラーに染める気はないそうだ。


「まあ、いいさ。とにかく、今は給水塔が最優先だ。もし死体が入っていたら、それらを全部外へと取り除かねばならないから、手伝ってほしかったのは事実だ」

「入ってないといいけど……」

「そりゃ、無理ってもんでしょ。だって、血みたいに水が染まってたんすよ」


 がははと笑う春尾の腹を、僕は肘で突いた。


学校(コミュニティ)の問題も、外の問題も。結局は意思の強い者にしか解決することができない。世界が元に戻ったとしても、同じことさ」


 つぶやく、僕よりも背の高い女。レヴェッカはぼろぼろのバリケードの段々に足を踏み入れて、椅子の代わりとして座り込んだ。僕も右に倣って、彼女の真横に座り込む。血がくすみ黒くなった指跡が残ったその上へ。


「世田谷さんは、今は何を?」

「車っすよ。武器とか、クーラーボックスとかを持ってきて、ここに来るそうです。あと、もしもの時のクスリとかね」


 春尾の言うとおり、カウボーイ・ハットの男が六人乗りのバンとともに現れたのは、その二分ほど後だ。


「お待たせ。じゃあ行くか」


 髭の濃い男は僕と春尾の姿を一瞥し、颯爽とレヴェッカの前に立った。強引に手を繋ごうとしたが、その傷だらけの腕を払いのけて、後部座席へと乗り込んでしまった。


「いやはや、気難しい女だぜ」

「めっちゃ嫌われてますね……」


 デリカシーの無い春尾に、世田谷と呼ばれた男はにひひと笑い声混じりに、

「はるきゃん。それ言っちゃう?」

 幼く見える青年の頭をグリグリ撫でまわし、さっさと運転席に乗り込んでしまった。



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