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まさかの結果

すみません若干失踪しかけてました。しばらくは不定期更新です。

 

  「あの、ジェンガってなんですか? 」


  由良先輩が激烈にはまっているだけで、知らない人は知らない遊びだよな。


  ジェンガとは54個の直方体のブロックを縦横に3本ずつ組み上げた18段のタワーだ。


  ゲームの参加者はそのブロックを崩れないように引抜いて、タワーの上に乗せていき、最終的に自分の手番でタワーを崩してしまった人が敗者となる。


  というだいたいのルールを白雪さんに説明してみた。


  「初心者だからと言って手加減はしないぞ。獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすという言葉があってだな。手加減をせずに相手を倒すのが礼儀なのだからな」


  どや顔で建前を言う由良先輩は、とてもじゃないが大人げないと言わざるを得ない。もうすぐ受験が控えていてストレスが溜まっていたとしても、度を過ぎた理不尽極まりない行為だ。


  「由良先輩、さすがにハンデの一つや二つないと入部試験の意味がないんじゃないんですか」


  「ちょっとまって、康一君」


  由良先輩に対し苦言を言うが、白雪さんがそれを制止した。


  「先輩は私がここの部活にふさわしいかどうか試そうとしてくれているのに、そんなことをしたら先輩の気持ちを無下にしてしまう」


  違うんです。その人、ただの逆恨みで白雪さんを叩きのめそうとしているだけなんです。

 

  「ふっふっふ、その心意気やよし。だが、この私をコケにしたことは盛大に後悔させてやるぞ。さあ私の圧倒的な力を前にひれ伏すがいい」


  もう本音を隠す気がないな由良先輩は。瀬良なんか必死に笑うのを堪えていて止める気もないし、もうなんか、なるようになるんじゃないないかな。


  若干、投げやりになりそうになりつつも俺は二人の様子を見守ることにした。


 


  ―――――――――――――




  木で出来た四足机の上にジェンガを乗せ、白雪さんと由良先輩が対角線状なるように座っている。


  俺と瀬良はその勝負の行方を見届けるように二人を見据える。


  「では、先行は私から行かせてもらうとしよう」


  そういって、由良先輩はジェンガに手を着ける。まず始めに手を着けたのは一番下の段の右側にあるブロックを引き抜いた。


  その一手で俺は感づいてしまった。このゲームを速攻で終わらせようとしている。おそらく、白雪さんがこのゲームのコツを掴む前に倒しきるつもりだろう。

 

  「さあ、どこでも好きなところを引き抜くといい」


  相手を挑発するかのような発言だが、白雪さんはそれを物ともしていない。それどころか、この状況を楽しげにしているようにも見えた。


 

  そして、白雪さんが引き抜いたのは、由良先輩が抜いた一番下段の反対側のブロックだ。


  「こういう感じでいいんですか? 」


  その優しげな言葉とは裏腹に、その行動は大胆なものだった。


  倒しては負けるというルールの中で、自分が倒さないようにするよりも相手に倒させるという攻撃的な戦略に打って出たのだから。


  下の土台となるブロックが一つとなったタワーは安定性をなくし、今にも崩れそうな様子だった。


  「ほう、なかなか面白いことをしてくれる」


  由良先輩は大胆かつ慎重に下から二番目の左側のブロックを引き抜いていた。安定性が欠け始めたタワーが少しゆらりと揺れる。だがまだタワーが倒れることはなかった。


  だが一番下のブロックばかり抜いてしまっているため、重心が不安定になり、倒れやすくなるだろう。


  再び手番が回ってきた白雪さんは負けじと由良先輩と同じように下から二番目の左下のブロックを引き抜く。揺れゆくタワーはかろうじて存在し続けている。


  「どうですか、由良先輩」


  張り詰めた状況下での戦いは、初めて数分とは思えないくらい白熱している。


  「瀬良、この勝負どうなると思う? 」


  「白雪さんのやり方は初めてにしては上手なのかもしれないね。でもそれだけじゃ由良先輩は倒せない」


  白雪さんにいい印象を与えていたが、あくまでも瀬良はこの状況を客観的に見ていた。


  「くっくっく」


  しかしこの状況を楽しんでいた白雪さんではない。由良先輩は勝ち誇った顔で嘲笑っている。



  「()()()()()


  由良先輩はタワーの上から二番目の段のブロックを少しだけずらしていた。それも白雪さんにバレないようにしながら二つのブロックをずらす。


  そして何食わぬ顔で、一番上のブロックを慎重に引き抜いた。倒れそうで倒れない極限のアンバランスさだが、かろうじてタワーは原型を保っている。


  この方法(イカサマ)が由良先輩の必勝パターンだ。ブロックをずらす行為ははローカルルールでも禁止されていることが多い。


  しかも由良先輩はこのゲームを完全に熟知していて、いつタワーが崩れるのかを本能レベルで覚えているため勝負どころでは絶対にミスはしない。


  次に白雪さんがブロックを引き抜けば、確実にタワーは崩壊するだろう。


  「私に対してリスキーな手段を用いるとは考えもしなかったが、これでチェックメイトだ。次動かせば必ずにこのタワー倒れる」


  由良先輩は勝ち誇った笑みで、勝利を宣言した。


  白雪さんもそれを理解していたのだろう、見せる表情は決して明るいものではない。むしろ辛そうな表情を浮かべている。



  「だがここまでの奮闘を称えて入部に関しては考えさせてもらおう」


  ああは言っているが、十中八九断るだろう。由良先輩は一度決めたとこに対しては、何がなんでも突き通す頑固な人だから今さら手のひらを返すはずもない。


  というかこの試合に見とれてて、妨害するのを忘れてしまっていた。せめて由良先輩のイカサマ時に妨害すべきだったと後悔したが、もう手番は白雪さんに回っているし、もう神様にでも祈るしか方法はなかった。


  「・・・・分かりました」


  白雪さんは今にも倒れそうなタワーへと手を伸ばす。バランスの確認のためか一番下のブロックに軽く触れている。


  それを見た由良先輩の勝ち誇った笑みは徐々に大きくなっていく。先輩にとっては、ただの悪あがきにしか見えないのだろう。


  白雪さんは時間稼ぎのためか、ブロックの色々な箇所を軽く触り始めている。


  「これで終わりだね。白雪さんが入部してくれれば面白いことになったかもしれないのに」


  瀬良はそう寂しそうに、独り言を口にした。

 

  だが俺にはそう感じられなかった。白雪さんのあの顔はまだ勝利を信じていると確信めいたものがあるのだから。

 

  「それはどうかな」


  そして白雪さんは心を決めたのか、まだ手が付けられていない下から三番目のブロックを引き抜いた。


  勝ち誇った由良先輩の表情が再び凍りついていた。 なぜなら倒れる運命だったタワーはピクリとも動いてはいなかったのだから。


  「なぜだ!? なぜ倒れない!?」


  由良先輩は真っ先に声を上げて驚愕している。倒れないことすら奇跡に等しいというのに、あれほどブロックが抜かれ不安定なタワーが動かないのは物理法則を完全に逸脱していた。


  「由良先輩、次の番ですよ」


  白雪さんに告げられて、悔しげに由良先輩はタワーのブロックに手をつける。不気味さをあらわにしながらそれを引き抜いた。その途端、タワーは由良先輩の方向に崩れ始める。それはまるで、かけられていた魔法が解けてしまったかのように。


  白雪さんを除いた誰もが、呆然としていた。ブロックを引き抜いた由良先輩すらも。

 

  そして白雪さんは由良先輩にへと声をかけた。


  「由良先輩、その・・・・」


  だが、あれほどまでに勝利宣言をしていた由良先輩に話しかけづらいのか、とても言いにくそうな感じだ。


  「おめでとう、白雪さん。これで君も歓談部の一員だ」


  「は、はい。ありがとうございます」


  という仲睦まじい会話二人でをしているが、由良先輩は何も反応はない。きっと勝つ自信しかなかったジェンガで負けて、よっぽど精神的にきているのだろう。


  「由良先輩は手を抜いてたんですよね。さすがに新入部員相手に本気を出して負けたというのは、考えられませんし」


  それを察していたのか、瀬良は落ち込んでいる由良先輩を的確にフォローする。その一言に少々毒が混ざっているのが、あいつらしいが。


  「ふっふっふ、その通りだ。これで勝ったと思うなよ。私はまだ実力の三割しか出していないのだからな。だが、今の勝利を称え白雪さんの入部を歓迎しようじゃないか」


  由良先輩はすぐに自信を取り戻し、実に元気そうだった。一時はどうなるかと思ったが、白雪さんが入部してくれて良かったと思う。


  俺は何気なしに、先程の崩れたジェンガに目を向ける。よく見ると、数多くの木のブロックに小さな水滴が付いていた。


  非常に些細なことなのかもしれない。けれど俺はある言葉が頭をよぎり口に出てしまいそうになり、ぐっと堪えた。

 

  きっと忘れた方が幸せなこともある。そう思ってしまったからだ。

 




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