歓談部の入部試験
前話で由良先輩の描写を書き忘れていました。あとで書き足しておきます。
由良先輩は背が低い黒髪のツインテールと覚えておいてください。
「なるほど、つまり康一は白雪さんを誑かしたということだな」
「それ引っ張るのいい加減にしません!? おい瀬良笑うな、だいたいお前が原因だろうが!!
「いやあ、僕は事実に基づいて話してるのであって・・・・」
「やかましい!! 全部作り話じゃねえか!! 」
あれから部室内の出入口近くで、釈明を求め何度も説明するも全く聞いてもらえる感じがしない。
わりと背が低い由良先輩と背が高い瀬良との目線の切り替えが多く、首が疲れてしまう。
「ふふふっ、なんかすごく楽しそう部活だね」
あっ、しまった。白雪さんを蚊帳の外にしてしまっていた。せめて由良先輩の誤解は解きたいが、私情を優先する暇はないだろう。
「せっかく白雪さんが来てくれたんだし、自己紹介でもしようか。僕の名前は小早川瀬良。改めてよろしくね、白雪さん。」
「はい、瀬良さん。よろしくお願いします」
と考えていると、臨機応変に切り替えた瀬良が勝手にこの場を仕切ってしまった。
いつもはたどたどしく話す白雪さんが、瀬良と喋る時は普通に話せている。こいつは話しかけるが上手いし、なにか話しかけるコツがあったりするのだろうか。
「あの、ところで瀬良さんが部長を務めているのですか? 」
由良先輩の表情が、一瞬で凍りつくさまを目撃してしまった。
表情に余裕が微塵も感じられず、絶望の淵に叩き落とされたような雰囲気を漂わせている。
「いや、残念ながら僕じゃないんだ。ほら、あそこにいる背が低い女の子が部長なんだ」
由良先輩の身長は145センチくらいでお世辞にも背が高いとは言えない。人から見れば中学生と勘違いされることもあるくらいだ。
少し幼気がある顔つきが更なる要因となっているが、容姿に関しては白雪さんと負けず劣らずに可愛いだろう。けれど由良先輩は小柄とか年下とか言われるのを非常に気にしていた。
あいつの口ぶりと、にヘラ顔から、由良先輩を部長だと思わせないように計算ずくで動いていたのかと素で疑ってしまう。
「ごめんなさい、てっきり年下の子だと勘違いしてしまいました」
そして由良先輩に振りかざされる年下というコンプレックスを抉るような発言。白雪さんは頭を深く下げて謝罪しているし、わざとではないと思う。
「わ、私の名前は森本由良だ。学年は三年生で歓談部の部長をやっている。以後よろしく頼む」
声をいつも以上に震わせながら、先輩の寛大さを見せようと自信げに胸を張っている。
「本当にごめんなさい。私、全然気が利かなくて。」
「いや、別にいい。それよりも言っておかなければならないことがある」
由良先輩の目は笑っておらず非常に怖い。このとき俺は非常に嫌な予感がした。
「この過疎地みたいなうちの部に入部してくれるのはありがたい。たが、私にもポリシーというものがある。転校生とはいえ、そう易々と歓談部に入らせる訳にはいかない」
いつの間にか目が据わっていた由良先輩は白雪さんに、勢いよく人差し指を突きつけた。
「よって、今から入部試験を受けてもらう!! 」
当たってほしくない予感が的中してしまった。というかまだ白雪さん入るとか一言も言ってないし。
「由良先輩、さすがにちょっと横暴なのでは・・・・」
「ええい、うるさい、うるさい!!私が部長なんだからそれくらい、いいじゃないか!! 」
そう言って、数少ない入部希望者を全て追い払ってきたんだという事実を公明正大に言ってやりたい。
けれどこうなってしまったら、由良先輩は絶対に人の話を聞かないだろう。
「まあまあ、いいじゃないか。由良先輩のワガママくらい聞いてあげても。まるで小さな子供みたいで可愛いじゃないか」
「おい瀬良、子供扱いは止めろといつも言っているのが分からないのか!! 」
プンスカと怒る由良先輩の姿は、一年下の後輩と間違われてもおかしくないくらい幼く見えた。けれど、そんなワガママを許してしまえば白雪さんが入部出来なくなってしまう。
“今まであの人が入部試験と言い出して、歓談部に入部した人は誰一人としていないのだから”
最悪、由良先輩を妨害しよう。チビとかロリとか言えば怒り狂ってミスをするかもしれない。
「あの私、入部試験受けてみたいです。いいですよね由良先輩? 」
えっ本当!? そんな白雪さんの反応を見て俺は素で驚く。
白雪さんが、この部活に入ってくれることは正直嬉しい。だけど、機嫌の悪い時に由良先輩が行う入部試験は出来レースみたいなもので、あるカラクリを解かなければ絶対に勝つことはできない。
「いいだろう。では私と勝負しようじゃないか」
由良先輩は抗議室の物置状態になっている無造作に置かれた四足机の中から、とある物を取り出す。そして、どこぞの将軍様のお約束みたいに、手に持っている物を見せつけてきた。
「このジェンガでな!! 」
いつもながら思うことだが、心の中で言わせてもらおう。
おい、歓談しろよと。