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やりきれない思い

すみません投稿が遅れました。出来る限り3日間投稿を心掛けるつもりです。

 

  「あーもう無理、暑いのはやっぱ無理だわ」


  あれから普通に授業を聞いたり、なんやかんやあって現在は放課後。


  俺はというと七月の暑さにやられ、机に倒れ込むようにしてぐったりとしている。


  沫雪市は日本の北側に位置していて、蒸し暑くジメジメとした気候とはかけ離れてはいるが、暑いものはどうあがいても暑い。


  薄情な瀬良は俺を置き去りにして自分だけとっとと部室に向かってしまった。あいつのことだから昨日、由良先輩を怒らせてしまい、申し訳程度に早めに顔を出して誠意を見せるつもりだろう。


  そんな些細なことは置いておいて、いい加減、部活に顔を出した方がいいかもしれない。俺も由良先輩に怒られるのは、なるべく避けたいし。


  白雪さんと話す時間を取りたいが、高嶺の花すぎて話しかけにくいのが現状だ。何かあれば・・・・って。


  そうだ、せっかくだし白雪さんを歓談部に誘ってみよう。瀬良とは普通に話せていたし、由良先輩も意地が悪い人ではないから、もしかしたら入部してくれるかもしれない。


  隣の席にいる時の情報しか持ってないが、まだ誰にも部への勧誘は受けてないはずだ。


  一応、隣の席を確認してみると、白雪さんはまだ帰ってはいなかった。


  軽く誘うだけなら、回りからも怪しまれないと思いたい。もし首を横に振られたのなら、別の方法を考えよう。


  白雪さんの帰る準備が終わったため、すぐに声を掛けようとする。そんな時、クラスの女子達が密かな話し声が聞こえてきてしまった。


  「白雪さんってさ、なんか冷たくない」


  「自分から話しかけてこないし、私達のことなんて眼中にないみたいでちょっと嫌だね」


  そんな言葉を聞いて俺はやるせない気持ちになる。


  たしかに白雪さんは自ら積極的に話しかけことはしていなかった。だからといって、根も葉もない悪評を立てる女子達が正しいとは思えない。


  しかも本人がいる前にそれを言ってしまう女子達に嫌悪感すら感じてしまう。


  その瞬間、自分でも理解できないモヤモヤとした感情に突き動かされた。


  俺は帰ろうとしていた白雪さんに近づき、無言で手を取った。


  「こ、康一くん・・・・」


  困惑する白雪さんを無視して、手を引いて教室の外へと向かう。 少し教室が騒がしかったが、そんなことは些細なことでしかなかった。


  そして教室を出ると白雪さんが恥ずかしそうに喋りかけてくる。

   

  「あ、あの・・・・どうして・・・・」


  その言葉で正気に戻った俺はさっきの行動に恥ずかしくて、悶えそうになる。


  ついカッとなってやった、という弁明が全くもって許されない一線を越えた行動をしてしまった。


  その証拠に白雪さんは表情を見せないように、俺の顔を一切見ようとしていない。

 

  一度の失敗はまだ許される、けれど二度目の失敗は相手の信用を失墜させる愚行だ。今回ばかりは確実に社会的に死ぬだろう


「ご、ごめん、強引に連れてきて。手とか痛くない? 」


  「・・・・ううん、大丈夫だよ」


  「なんかさ、変だよね。そこまで親しくない白雪さんの手を突然引っ張ったりしてさ」


  「でもさっき手を引っ張ってくれたとき、嬉しかったんだ。ありがとう、私を助けてくれて」


  その言葉を聞いた途端に白雪さんの目を逸らした。結果的に助かったけど、なんかこれ以上直視したら死んじゃうんじゃないかくらい顔が熱い。


  俺は見られないように必死に隠しつつも、さっき言いたかったことを話すことにしよう。


  「そういえば白雪さん、部活とかまだ決まってないよね」


  「部活・・・・うん、まだ決まってないよ」


  「良ければさ、歓談部に来てみない? 俺も入ってるんだけど部員も少ないし白雪さんに入ってほしいな~、なんて」


  若干逃げ腰になってしまったが、言いたいことは伝えられたはずだと思いたい。


  「歓談部ってどんなところなの? 」


  「とりあえず文化部なんだけど、主だった活動はないけど人とコミュニケーションを取れるような遊び・・・・じゃなく一つのお題に議論したりすることもある部活なんだ」


  「少し部室を覗いてみてもいい? 私あまり人と話すの得意じゃなくて・・・・」


  「来てくれるの!? 分かったすぐに案内するね 」


  浮わつきそうな気持ちを抑えつつ、善は急げという言葉に従って白雪さんを案内することに決めたのだった。


 

 ―――――――――――


  流氷高校は、教室練と実習練の二つの校舎に分かれている。


  教室練には学年ごとの教室と職員室があり、一番下の階に三年生の教室、一番上の階に一年生の教室があって、下の階が最上級生になるように位置づけられいる。


  ちなみに職員室は一番下の階だ。


  実習練は教室以外の場所、つまり実習室とか生徒会室などの教室が敷き詰められている。


  俺が現在いる場所は特別練の最上階に位置するところに部室がある。といっても流氷高校は三階建ての建物であって自慢げに話せることではないのだが。


  教室練と実習練の移動距離的に、わりと疲れたりするのだが白雪さんは息一つ乱すことなく着いてきていた。華奢に見えて結構体力があったので、少し以外な一面を見た気がする。


  「白雪さん、疲れてないですか?」


  まあそれでも白雪さんのことだし、無理している可能性もあるしちゃんと聞いておこう。

 

  「平気だよ。私、体力はある方だから」


  本心を隠しているようには見えないし、少し安心した。けれど由良先輩と瀬良にどう説明すべきか全く考えておらず不安になってしまう。


  普通に転校生を誘って、見学に来ましたとかで通じればよいのだけれど。


  そしてたどり着いた部室前。その見慣れた教室名には抗議室と寂れているネームプレートに書かれていた。


  一度深く深呼吸をする。ここで不安を見せてしまえば白雪さんも不安がってしまう。たとえハリボテのような見せかけの完璧だったとしても、回りから完璧に見えてしまえばそれでいいのだ。


  俺は意を決して部室への扉を開いた。それに続いて白雪さんも部室へとおそるおそる入っていった。


  「由良先輩、瀬良。すまん遅れた」


  いつものように教室の内に響くくらいの声を上げた。頼むから由良先輩が上機嫌でいてくれと、切に願う。瀬良はヘリウムガスを誤飲して喋れなくなってくれと、本気で祈る。


  「遅い、遅い、遅いぞ康一!! 昨日は勝手に休むし何を考えて・・・・って、なんだその見たこともない白髪の子は、まさかお前の彼女なのか!? 」


  「遅かったじゃないか、康一。白雪さんを誘うなんて君も大胆になったものだね」

 

  由良先輩の怒濤の質問攻めと、瀬良のネチネチとした皮肉を前にしてこう思った。


  お願いだから、話をさせて。


  俺は頭を抱えそうになりながらも、二人が納得いくまで説明し続けるのだった。

 

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