表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/39

二学期の始まりは騒がしい

第二部開始です。


 あの花火大会から目まぐるしい日は過ぎ去り、気づけばもう9月1日。夏休みの宿題をという枷から解放されたが、そこそこ充実した夏休みを思い返すと少し名残惜しいものがあった。


 今までの怠惰な自分なら遊びにかまけて今日この時も、山積みの宿題に四苦八苦していただろう。だが今年に至っては課題は全て終わらせてある。そうしないと俺が由良先輩に怒られるどころか関節の一つや二つ、簡単に破壊されかねない。


 俺は朝早くから自然公園にあるベンチで、なんか空を見たいという願望から仰向けで寝っ転がっていた。

 

 あまりにも退屈だったので、暇つぶしに空になった398円の犬用クッキーの袋を振りまわしていた。あの番犬(ケルベロス)さえいなければ無駄にお金を使わずに済むのにな。


 振り回すのに飽きてしまい、ガラケーと呼ばれる型落ちの携帯を何気なしに開いた。現在の時刻は朝6時30分、何の嫌がらせなのか池田に朝5時から叩き起こされたせいで、時間を持て余してしまい自然公園に足を運ぶことになってしまった。 


 ようやく姿を見せたお寝坊な朝日を眺めながら、幾度もなく使わせてもらった木製のベンチに寝っ転がれる幸せを嚙みしめていた。自分だけの居場所、ベストプレイスなんて言うのだろうか。


 居場所という言葉で歓談部のこと、正確には一年前の出来事を思い出した。


 歓談部は俺のとっての居場所であり大切な場所だ。ここ最近忙しくて行けなかったが生徒会関係の仕事は、会長と約束してしまった文化祭の手伝いが終わればお役御免だ。全てが綺麗に片付いた暁には、また歓談部に自然と足を運ぶことになりそうだ。


 「どうしようかな……」


 ふと目を瞑って白雪さんのことを考えてしまう。あの花火大会の日、ただただ無様でカッコ悪い自分に失望していた。あんなの告白というより後ろ向きの愚痴じゃないか。どうして俺はこう……


 「もっと上手く出来ないんだろうか」


 ずっと抱え込んできた罪悪感から、あの時見た()()()()()を思い出していた。これは誰にも言うことはできないし、たとえ誰かに伝えたとしても決して信じてくれないだろう。嫌な現実から目を逸らしたくて瞳を閉じた。


 もしあの時見た記憶が真実であるならば、俺は白雪さんに……


 「わぁっ!」


 「うわぁああぁ!」


 意識外からの突然の大きな声。しかもその人物は寝顔を覗き込んでいたのか、顔と顔との距離がかなり近い。驚きにより前後不覚になった俺はベンチから転げ落ちてしまった。深く考え事をしていたせいか、声をかけてきた人物の足音さえ全くもって気付かなかった。


 そういえば前にもこんなことあったかも、なんてデジャヴュを感じた。とりあえず立ち上がり正体不明の誰かを見た。その人物はイタズラが成功した子供のように無邪気に微笑んでいた。


 「し、白雪さん、どうしてここに?」


 「えっと、康一くんがいそうだなーって思って来てみたんだ」


 こんな朝早くから自然公園に来ていたことも驚くべきことだが、まさか白雪さんがイタズラをしてくるとは夢にも思わなかった。……まあ前に罰ゲームでイタズラされたが、あれは内容が内容だけにノーカウントということで。


 夏服姿の白雪さんは白い半袖のYシャツに少し丈の長いスカートで身を包んでいた。なびかせる白い髪は淡い雪のように綺麗で、今にも溶けてしまうくらい儚く写ってしまった。清廉な佇まいでありながら小悪魔のように可憐で笑顔を絶やさない。

 

 初めて学校で会った時よりも感情表現が豊かになって、心から笑うことも増えてきていた。なんだか白雪さんが笑ってくれるだけで、俺自身が救われたような気がした。


 あの日この場所で、情けない告白をしたあの日から何かが変わったのかもしれない。少なくとも白雪さんの笑顔が見れるだけで俺は嬉しかった。…………。


 ……後悔なんてあるはずがない。


 「…そっか、この場所を白雪さんも気にいってくれて嬉しいよ。え、えっとその、ちょっと早いかもだけど良かったら一緒に学校に行きませんか?」


 「うん、いいよ」


 俺のささやかな願いを受け止めてくれる、聞き入れてくれる、肯定してくれる、それだけで俺には充分すぎる幸せだった。


 ―――――――――――――――――――――


 歩くのは飽きるほど見知った通学路。朝早くから登校したおかげか残暑に関わらず、ひんやりとした空気が涼しい。こんな朝早く登校する生徒は限りなく少ないからか、人通りは全くというほどおらず、二人だけの貸切状態だ。


 …なんか好きな人と二人きりって意識すると気恥ずかしいな。これまでも二人きりの時はあったはずなのに未だに慣れてくれそうにない。外面はクールキャラを装っているが、高鳴り続ける心臓はあまりにも正直すぎた。


 そういえば白雪さんと登校するのはこれが初めてだ。そういえば白雪さんの家が何処にあるのかも聞いてなかったな。こんな朝早くから自然公園に来れるのだから、そこまで遠いってわけじゃなさそうだけど。

 

 まあいいか、細かいことは後回しにしよう。少なくとも俺のことを理解してくる好きな人と登校できる、この瞬間を噛みしめていよう。


 そうそう、こういうのでいいんだよ、こういうので。


 こんなベタな恋愛小説のような甘酸っぱいワンシーンが欲しかったんだよ。ラブコメというのは多くの恋愛要素に少しばかりのギャグをアクセントにすべきであって、コメディ要素全開の前途多難な展開なんて一ミリも望まれて無いんだよ。

 

 ここで死んでも悔いはないと思える充実感に満たされていた。……この瞬間が永遠に続けばいいのにな。と思った時、事態は急変した。前方に見知った人物が見えてしまったからだ。


 「……噓だろ……」


 うわぁぁぁぁあぁ!あの小ささは由良先輩だぁぁああぁ!!なんだってこんな朝早くから来てるんだ。さっきのキザな言葉が原因でフラグ建築したっていうのかよ、もはや世界そのものが俺と白雪さんのラブコメ展開を阻止しに掛かっているようだった。


 (頼む、突然立ったまま気絶して数分程度でいいから気付かないでくれ。白雪さん二人きりで登校できるチャンスなんだ……)


 俺は由良先輩に気づいたが、幸いなことに白雪さんは気づいていない。がしかし、勘が鋭い先輩は突然後ろを見始め、こちらの姿を捉えられると一目散に近づいてきた。


 「おはよう諸君。珍しいなお前と白雪さんが、こんな朝早くに揃って登校するとはな」


 「おはようございます。森本先輩」


 「由良先輩と呼んでくれ。その方が可愛い印象を与えられるからな」


 「……おはようございます由良先輩。随分とお早い登校で、何か用事でも」


 おのれ由良先輩ぃいいぃ!!許すまじぃいいいぃ!!そんな怨恨が顔と態度が今にも出そうだが、白雪さんの前で醜態を晒すわけにもいかなかった。


 というか由良先輩って朝早くから登校するんだな。偏見だけど朝起きるのが苦手で寝起きが死ぬほど悪いイメージしかなかったんだが。


 「瀬良を避け……いやちょっと朝に飲むカフェラテの味を満喫したくて、早めに登校しようと思ってな」


 あのド三流イケメンが原因か!!しかもまた由良先輩に迷惑かけんてんのか。あの日の初対面で求婚したことといい、あいつをそこまで突き動かす理由って何なんだよマジで……。冗談抜きでガチガチのロリコン……いやこれ以上はやめよう、人の性癖は誰にも縛られず自由であるべきだ。


 そんな不毛な話は置いといて、さすがに白雪さんがいるからか瀬良を避けると言及しなかったな由良先輩は。もし俺一人だったら瀬良に対する苦情と色々と愚痴を聞かされたに違いない。


 ……ああいう変な所が無ければ本当に完璧な奴なんだがな。もう奇跡でも起きない限り由良先輩と瀬良が付き合うとことは絶対にないだろう。


 「一応聞くんですけど、付いて来てくれるんですか……」


 「無論だ」


 (早くどっか行ってくれないかな……)


 この先輩に空気を読むという機能は搭載されていないらしい。仕方ない、俺はもうちょっと白雪さんと二人きりになりたかったが由良先輩に『帰れぇ!!!!』なんて言えないしな。


 「どうだ白雪さん、転校してきて間もないが学校は楽しいか?色々と立場はあるだろうが辛くはないか?」


 「はいっ、とっても楽しいです」


 生きてて楽しいか、そういえば前にもに聞かれたっけ。今年の夏くらいから色々と出会いや面倒事、色々とっ散らかって収集がつかない大渋滞な日々だったと思う。

 

 ……今の俺は楽しんでいるんだろうか。こんな俺でも日々を楽しんでいいんだろうか。負の感情に押しつぶされないようにするだけで精一杯で、いつだって生きたい死にたいの堂々巡り。


 きっとこの問答に答えなんて出ないのだろう。だからせめて今だけは楽しんで生きたいって思う。


 「……おい聞いてるのか」


 「…何か言いましたか」


 「お・ま・え・は・生・き・て・て・楽・し・い・か!?」


 「き、聞こえてますよ!!」

 

 突然耳元で大きな声で叫ばなくってもいいじゃないか。この先輩には上品さやお淑やかさが全くもって足りていない。こんな茶番じみたコントを白雪さんは嫌な顔一つせず笑っているのに由良先輩と大違いだ。


 「楽しいですよ。それなりにはですけど」


 「お前白雪さんの前では猫被ってるよな」


 べ、別に、猫なんて被ってないですけど。ほら俺ってクールだし冷静沈着だし。知的でクールで謙虚で誠実なんですけど!


 「いえいえ由良先輩の態度こそ猫を被っているのでは?白雪さんが歓談部に来るまでは部室の黒板に『私専用VIPルーム』って書いてあったんだけどなー」


 「ははは、冗談が上手くなったじゃないか。ところで一年前に私と初めて出会った時、泣きべそをかいてたの何処の誰だっだかな」


 「ち、ちょっと!それは……」


 「…二人とも仲がいいんだね」


 「いや、全然。こんなロリコンホイホイ先輩、あ、冗談です先輩ぃぃ!、やばい肩ぁああ!!捥げるぅううう!!」


 イタイ!イタイ!イタイ!現在進行形で関節決められてるって。前回愉快なロリコン共と言われた意趣返しのつもりだったんだけど本当にロリとか子供呼ばわりに容赦ないな由良先輩は!


 「なに少しばかり肩のマッサージをしようと思ってな。お前も立派な男だしな、下のマッサージでもしてやろうか?」


 「ぎ、ギブ。すみません口が過ぎました。もう二度と生意気な口は聞きません……」


 そう言うと由良先輩は即座に手を離してくれた。全く、あやうく上半身と下半身が纏めてへし折られるところだった。お互いに猫かぶりなのは承知の上のはずなんだけどな。


 「まあ何はともあれ、今年の体育祭くらいは出ておけよ。私の言いたいこと分るよな」


 頼むから俺の肩に手を載せないでくれないかな。というか俺が話を聞き流していた時に体育祭に触れていたのか。お願いだから去年の体育祭の時に面倒だからサボったことは水に流してほしいんだけどなー。もう去年の内に全身の骨が軋む位には罰という関節技は喰らわされたんだけどなー。


 「前向きに検討させていただきます」


 「白雪さん、こいつは足だけは速いんだ。だから体育祭でカッコイイ姿を期待していいぞ」


 「本当ですか!?」


 「ああ、こいつが本気を出したら100mを三秒で走れるぞ」


 出来るわけねぇだろ。オリンピック選手ですら十秒切るのがやっとなんだぞ。もし走れたとしたら、そいつはもう人間じゃなくてチーターという動物さんなんだよ。でも白雪さんの期待を裏切るわけにはいかないよな……。


 「その真偽は一旦置いておくとして、そういえば白雪さんは運動は得意なんですか?」


 露骨に話題逸らしたからか由良先輩がニヤニヤしてやがるな。でも俺は大人だからこういう安い挑発を無視して白雪さんのことを一つでも多く聞こうとすることができる。


 こういう小まめな情報収集が新たなフラグのヒントになることを、幾度となくパソコンの画面上で経験しているからな。パソコンの画面上でしかないがな!!


 「……どうだろう、あんまり得意な方じゃないかな。でも体育祭は出てみたいなって思う」

 

 白雪さんの誠実な返答に浄化されそうになった。あわよくば白雪さんを盾にしてサボる口実にしようと思った俺は人間のクズといっても過言ではないだろう。


 正直な話、目立つことは極力したくないから体育祭は出たくないんだよな。俺はイジメにはもう慣れてしまったけど、自分が原因で白雪さんにイジメの矛先が向く可能だってある。……だから真面目に体育祭に出る以上、走りそうな競技は避けとかないとな。

    

 「体育祭、楽しみだね」


 ああ、本当にバカだな俺は。こんな最悪の想定ばかりして、体育祭を楽しむことを前向きに検討したはずなのに。


 「白雪さんが楽しんでくれるように、頑張るよ」


 俺は偶然にも白雪さんと目が合った。でも俺はすぐ顔を逸らしてしまった。


 期待に応えることが嬉しかったのか、柄にもなく少し笑ってしまったかもしれない。あまり笑う姿は見られたくないけど白雪さんの前ではいいかなって思う。


 笑うのが下手でニチャついてるかもしれなくても、きっと白雪さんは許してくれそうだったから。それがなんだか恥ずかしいと思ってしまったからだ。


 「……爆発しろ」


 「何か言いました、由良先輩?」


 「うるさい!!難聴系主人公気取りが!!!くたばれ!!!」


 「ぁぁぁああぁ!!俺は悪くねぇええええええ!!」


 こうして騒がしい二学期が始まった。もう”当たり前”の楽な日常は帰っては来ないだろう。でもそれで良かったと心から思えたのは、きっと白雪さんと出会えたからだと思う。


 だからこそ悔いの無いように一瞬一瞬を楽しもう。これが最後になってもいいように。




 

おまけ回 

 あまりにも邪道

 

 由良先輩 「ふわぁぁ、眠気覚ましにさっき買ったカフェラテを飲むか」


 康一 (由良先輩、カフェラテとはいえコーヒー飲めるんだな。なんかコーヒーを飲めるってだけでも年上っていう感じするよな)

 

 由良先輩 「ここで持参した角砂糖を四つまみと……」


 康一 (こいつ……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ