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帰国子女ではないはず

 

 


  転校生の登場により教室内のざわめきは、より一段と騒がしくなっていく。それほど少女の綺麗さは、一言では伝えきれないのだから。


  はにかんだ笑顔は素晴らしく、目が放せなくなってしまうような魅力に溢れていた。滅多に見ることが叶わない綺麗な白い髪に加え、容姿端麗さに見とれているものも少なくはない。


  今の少女の服装は、季節感に合わせた半袖の白カッターシャツと紺色のスカートの姿をしており、とてもよく似合っていた。


  「白雪さんは日本とスウェーデンのハーフで、白い髪は地毛だそうです。あと、久しぶりに日本に来たということなのでみんな優しくするようにしてください」


  ぎこちなさそうに説明する先生は、やけに緊張している感じがした。


  「さて、席はどこか空いてたかな・・・・」


  先生は教室全体を見回し、誰も座っていない席を探していた。


  俺は空席のありかをふと思い出し左隣の席をちらりと見る。心拍数が刻一刻と激しくなっているような気がした。


  「おっ、あそこが空いているな。白雪さんあちらの席へどうぞ」


  指を指した先には俺の左隣の席。ゆっくりと近づいてくる白髪の少女。思考が纏まらず、少女の方にしか目線を向けられない。


  そして俺は目線を反らす隙もなく、その少女と目があってしまう。

 

  「あっ、あなたは・・・・」


  少女は俺を一瞥すると、驚いた表情を隠せずにいた。俺を含めた二人は、当然のごとくクラス中の視線を現在進行形で集めている。


  その視線に少女は耐えられず、少女は顔を赤くしてそそくさと用意された席に着席した。


  「なんだ知り合いがいるのか。だったら少し安心だな」


  何気ない顔で地雷源に爆発物を投げ込むのは止めていただきたい。その事を切に願うが先生は知る由もないだろう。


  そうして降り注ぐ様々な思惑を持った視線の雨は死にそうなほど痛い。今すぐにでも悶絶して、声を荒げて叫びたかった。


  俺もそれに耐えられなくなり、右隣の瀬良に助けてくれるよう視線を送る。だが、いつにもましてにやけ面を晒してくる畜生はなんの役にも立ちそうにない。


  もしかしたら白雪さんならと左隣を見る。しかし白雪さんは恥ずかしそうに膝に手を当てて、表情を見せないようにうつ向いている。

 

  (ああ、本当に最悪だ・・・・)


  複雑な気持ちを抱えつつ、話題の中心に巻き込まれた俺は静かに項垂れるのであった。




 ―――――――――――――




  「それにしても君が女の子を誑かしているだなんて、本当に知らなかったな」


  「違うんだ瀬良。誤解がある言い方は今すぐに止めてくれ」


  「じゃあ、弱味につけ込んでいるのかな」


  「信じてください。お願いします」


  朝のホームルームが過ぎ去り午前の授業が終わり昼休みの時間、二人で机を合わせて昼食をとっているが俺は瀬良から質問攻めにあっていた。


  どうも俺が白雪さんと知り合いなのが、よほど信じられないみたいだ


  現在いる場所は教室だ。瀬良が虚実な事ばかり言い続けて誰かが真に受けて噂にしたらたまったものではない。このままだとクラス全員に対して地面に頭をつける土下座外交待ったなしだ。


  「しかし君があの白雪さんと知り合いとはね。にわかに信じられない話だ」


  俺はちらりと白雪さんの様子を見てみた。現在、クラスの女子たちと昼食を食べながらガールズトークを嗜んでいるように見える。


  こちらから耳を済まさなくとも、途切れ途切れに華やかな声が聞こえてくる。


  「ねえねえねえ、白雪さんって今までどこに住んでたの? やっぱり両親と一緒にスウェーデンで暮らしてた感じ?」


  「えっと・・・・両親とは一緒に行けなくて、遠い親戚の人に預けられる形でスウェーデンで暮らしていました」


  「もしかして、白雪さんは帰国子女だったりするの? 」


  「あ・・・・その・・・・たぶん、昔日本に住んでてそれからスウェーデンに移住したから、そうだと思う」


  「えー凄いじゃん。いいなー帰国子女って、なんか響きが最高じゃない」


  「そ、そうかな」


  フレンドリーに話しかける女子達だが、白雪さんの返答はどこかよそよそしく笑顔も引きつっていたように見えたので、あまり人と話すのが苦手なのかもしれない。


  そう思いたいが、昨日彼女に出会っているせいでそう思い込めなかった。


  『雪女・・・・』

 

  彼女が小さく呟くその一言。脳に焼き付いているそれは突然浮かび上がってくる。


  何かが思い出しそうで何も思い出させない。脳に感じる違和感にストレスを感じてしまう。

 

  「そんなに気になるのかい、あの子のことが。なるほどなるほど、君にもようやくそういった感情が芽生えたということだね」


  「冗談は顔だけにしとけ。ところで今日の部活どうする?」


  俺は瀬良の追及を躱すため、適当に話題を変えた。


  「歓談部にはもちろん行くさ。行かないと由良先輩がお怒りになってしまうからね」


  「俺はパスしようかな。なんか今日いろいろあって疲れたし」


  「たまには陸上部にも見学に行ってみたら・・・・」


  「論外」


  行ったところで今朝のように、人でなし、ケチ、クズ、◯貞等々、小学生級の悪口のオンパレードを言われるに違いない。


  「池田さんも可哀想に」


  「うるさい。無駄口叩かずにとっとと飯を食べろ」


  「はいはい」


  転校生が来ても、いつものくだらない会話は変わることなかった。


  そんな俺達の様子を白雪さんが見ていたと知らずに。





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