会長、再び現る
私はたいへん取り返しのつかないことをしてしまいました。
「康一くん、よかったら歓談部に一緒に行かない?」
いつも通りの放課後、白雪さんは少し恥ずかしそうにしながら誘ってくれた。その時の俺は自己保身に走ったせいか、少しばかり青い顔になっていたかもしれない。
「ごめん、ちょっと用事ができて一緒にに行けないんだ」
白雪さんの誘いを断った、信用最底辺のゴミカス野郎は私です。
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時は少し前に先戻る……
「あー疲れた。とりあえず白雪さんは花火大会に誘えたし、ここ最近さわがしい事に巻き添えにされまくったし。ちょっと疲れてきたかも」
若干憂鬱な気分を抱えたまま廊下を進んでいく。ここ最近、人気がない場所を見つけることができたので気分転換もかねてゆっくり休もうと考えた。
その場所とはなんと学校の屋上だ。前にちらっと藤堂会長が屋上で白雪さんと出会ったと言っていた。それを聞いた俺はこう考えた。
もしかして、案外屋上が入れる場所だとあまり知られていないのではと。
その直感は正しく数週間の検証の結果、放課後の時間であれば人が来ないということが判明した。
夏の日差しは強いが、この町の気温は北に近くないにも関わらず気温が低い。現在の体感気温は28℃、日陰を探し暑さ対策に濡れタオルさえ確保さえすれば三十分くらいは休むことは可能だ。
そして俺は目的周辺に到着した俺は軽快に屋上へと続く扉を開いた。ああ、ようやく家以外で一人になれる時間が作れる。
一番に俺の目に飛び込んできたのは、地面に倒れ伏す女子生徒だった。
今この瞬間、俺の安らかな時間は無残にも壊されてしまった。一度壊れてしまった平穏はもう二度と元には戻らないのだから。
現実逃避してる場合じゃない、太陽の日が直撃して半ば蒸し焼き状態になってしまっている。 誰かは分からないが今すぐに助けないとマズイ。
すぐに倒れている人物に近づく、男が近寄っても反応がないので重度の熱中症の可能性がある。うつぶせに倒れていたので、仰向けにひっくり返し持っていた濡れタオルをおでこに乗せる。
「って藤堂会長!!」
「しごと……しごとが降り積もる、オールナイトお仕事てんごく……」
意外と余裕があるのかもしれないが、すぐさま保健室へと連れていき藤堂会長から話を聞いてみることにした。とりあえず連れていくまでに誰かに目撃されてないと願いたい。
「あれ、どうして佐山くんがここに。もしかして私にさや替えするつもりなのかな?」
「大丈夫そうですね、帰ります」
「わーーー! 待って待って。ほんの少しだけでいいから私の話を聞いて」
藤堂会長から一通り話を聞いてみたところ、どうやら生徒会の人手が足りず色々と仕事が残っているみたいだった。
もう少しで7月の下旬のため終業式が始まり夏休みになるのだが、白雪さんが手伝った日から一切、生徒会に入る人物が一人もいなかったみたいだ。
そのせいで。生徒会の仕事が夏休みの半分くらいの日数の使わないと終わらないそうだ。他人事だけど、かわいそうだなって思った。
「というわけで、ほんの少しだけでいいから生徒会の仕事手伝ってほしいの」
と言われたものの、どうしようか。正直な話をすると藤堂会長とそれほど面識があるわけでもないし、やんわりと断った方がいいのかもしれない。
でもなぁ……なんか池田のような面倒くささがあるんだよな、この会長。また白雪さんが巻き込まれでもしたら洒落にならないよな。
結論、このポンコツ会長を放っておけないと判断した。というわけで生徒会の仕事を終業式の日まで手伝うことになった。
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「失礼します」
白雪さんの誘いを断った罪悪感に苛まれながら、生徒会室にノックして入室した。
何故か頼みごとをした張本人である藤堂会長の姿は見えなかった。そこにいたのは座って書類仕事をしていた副会長だけだった。
「えっと、あなたは……」
副会長の人ということは分かっているんだけど、誰だっけ?そんなに悪い人でもなかったので名前を憶えていてもおかしくないのだけれど。
咄嗟に返しの言葉が思いつかない。こういうところでコミュ力が低いとこがあだになっている。
「そういえば名乗っていませんでしたね。私は獅童 麻衣子です。今後ともよろしくお願いいたします」
副会長は察してくれたのか、それとなく名前教えてくれた。淡泊な自己紹介であったが、副会長の名前が知ることができた。こちらも形式的に自己紹介をしておいた方がいいかもしれない。
ぎこちないながら副会長にそれとなく、自己紹介を軽く済ませることにした。
「佐山康一さん、会長のためにわざわざ足を運んでくださり本当にありがとうございます」
「あ、いえ、時間に余裕があるほうの人間なので問題ないですよ」
すみません噓です、大問題です。重くのしかかる自責の念が胃痛を引き起こしビックバンが起こりそうなほど胃が爆発しそうだった。
一言で言うなら、悪い、やっぱつれえわ。
そんな時、物凄い勢いで思い切り扉が開く音が聞こえた。
「ごめんーーーーー!ちょっと先生とワイロのことで揉めちゃったーーーーーー!」
初っ端からトチ狂ってるてんじゃねえかよ。控えめに言って頭おかしいよこの生徒会。そんなことを思いながら獅童さんの方を向いた途端、私は関係ありませんという抗議の視線を感じ取った。
「あれ、来てくれたんだ。てっきり来てくれないんだと思ったよ」
「それはまあ、約束しましたし……」
つい口ごもってしまうのは、藤堂会長の距離が異様なほど近いからだ。というか入室と同時に即座に近寄ってきたし、油断してると今にも男性観が破壊されかねない。
「会長、距離間が近すぎますよ。明日から淫乱会長と呼んでいいなら止めはしませんが」
「あーごめんね。私って男性経験0だから分かんないだよねー」
「……明日からヤリ〇ン会長って呼びますよ」
「もー麻衣子ちゃんてば、むっつりなんだからー」
もう帰っていいかな、この世界のスピードについていけそうにない。そっと出入口まで引き返すことを決意させた瞬間であった。
「わーーーー!! 嘘、嘘、全部茶番だからどうか帰らないでーーーーー!!」
これほどまでに居心地の悪い場所はあっただろうか、あの時断らなかった自分を心底恨んだ。
おまけ
断られても大丈夫
由良先輩 「む、白雪さんだけか、康一はどうした」
白雪さん 「用事があるらしくて、一緒に行けませんでした」
瀬良 (ふーん、おそらく白雪さんと二人きりで花火大会に誘えなくて歓談部に来れないのか。由良先輩が知ったら怒るだろうから、バレないようにフォローしないとね)
白雪さん 「でも花火大会を皆で行こうって誘ってくれたから寂しくありません」
瀬良 (あ、ごめん康一。即バレした)