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ツインテールの先輩は嫌いじゃないです

この先輩の話書くときは、かなり緊張して書いています。(隙あらば自分語り)

 

  人間とは社会的動物である。そんな気難しい言葉を昔の偉人が言ってたいたような気がするが、その格言じみた言葉のせいで俺は頭を悩ませている。


  実際誰かと一緒に過ごしていなかったら寂しくなるし、悲しくもなる。しかし人付き合いに慣れていない俺が人と関わり続けると、豆腐メンタルな精神がすり減ってしまう。


  弱音を吐けるなら、白雪さんとの会話は結構気を使う。何一つ言葉を間違えてはいけないプレッシャーは尋常ではない。


  今まで以上に絶対に失言してはならない。もしそれを守れなければ白雪さんとの関係が崩壊してしまいそうで、何よりも悲しくて怖かった。


  だからこそ今日という1日だけ、俺はワガママになることにした。




 ――――――――――



  (俺は悪くねぇ、俺は悪くねぇ)


  現在は放課後。流氷高校からいつもの自然公園に離脱するため、俺は全身全霊で気配を限界まで薄めて慎重に教室の後ろを歩いている。


  サボり、無断欠席、職務怠慢、ずる休み。ネガティブな思考を頭の片隅に追いやり、心を鬼にして昨日三分足らずで考えた計画を実行に移していた。


 

  その1 野外実習を終え、クラス全体が気だるさを隠せない月曜日。まず始めに朝の池田襲来を避けるため、池田が家にやってくる時間を予測し、自然公園へと避難する。



  その2 そして適当に時間を稼いだ俺は何事もなく普通に登校。瀬良や白雪さんとの会話を最低限に減らし、放課後まで存在感を薄くする。


  その3 ここで朝避けてきた池田のクソイベントを回避するため、早めに教室を出る。ここまで保ってきた薄い薄い存在感を存分に発揮し、そろりそろりと教室の後ろを歩く。



  どれも難しいミッションであったが、その1、その2をなんとかクリアしたんだ。ここでやらなければ、今までの頑張りが潰えてしまう。


  教室の出入り口に手をかけ慎重かつ大胆に開き、何事もなかったかのように閉める。この間、数秒のやり取りの中で心の臓がバクバクしていた。


  後ろは扉であるにも関わらず、振り返り追っ手がいないことを確認してしまう。やりきったのだ。白雪さんには悪いことをしてしまったと罪悪感をひしひしと感じているが、それはそれと割り切る。


  何がともあれ、逃げ切ったのだ。今はこの瞬間を喜ぼう。緊張の糸が切れたのか、俺はどっと肩の力が抜け重く息を吐いた。


  「むっ、康一ではないか。もう歓談部に向かってくれるのか、それは感心だな」


  今この場で、聞いてはいけない言葉と声が同時に聞こえてきた。錆びれた機械みたいに、俺は声をする方へ首を向ける。


  「なんだその態度は、こんなに威厳ある先輩を忘れてしまったのではないだろうな」


  威厳があると断言できない背の低さ。かろうじて凛々しく見える可能性はなきにしもあらずだが、左右の可愛らしいツインテールのせいか威厳とは程遠い存在だと言わざるを得ない。


  「ゆ、由良先輩奇遇ですね。もしかして、二年の教室まで迎えに来てくれたのですか」


  「うむ、まあ先週ぶりとはいえ野外実習明けだし、可愛い後輩のメンタルが些細な理由で傷ついているかもしれないからな」


  余計なことを、と言いたいがとう本人が目の前にいる以上、もし口が滑ることがあれば締め上げられるのは間違いない。


  「ま、一人例外がいるがな。それよりも今日は歓談部に来ないのか」


  「そ、その、家に忘れ物をしてしまって。どうしても家に帰って取りにもどらなけばいけなくて、ちょっと今日は遠慮させていただこうかと」

 

  つい条件反射で言い訳を口にしてしまった。由良先輩の前で下手な言い訳で誤魔化そうとすると、プロ並みにも匹敵する威力の間接技を決められてしまう。


  俺が知る限りその第一犠牲者は瀬良で、それはもうこの世の地獄を見ていたかのような酷い惨状だったのははっきりと覚えている。


  緊張のあまり体が恐怖で震えてきた。まあでも、一瞬で思い付いた理由にしては及第点だろう。たぶん大丈夫バレはしない。


  しかし由良先輩は怪訝な顔を向けてくる。お願いだからバレないでくれ一生の、一生の、一生のお願いだから。


  しかし無慈悲にも悪い企みを立てたような顔に変わった。


  もう救いはない。死刑執行を言い渡され断頭台に立つ気分の俺は、地獄の間接技を受け入れるしかなかった。


  「よし、そういうことなら私も連れていけ」


  「えっ!?」


  あまりの超展開に頭がショートしそうだが、俺はかろうじて助かったのだと心の底から安堵した。

 





  ――――――――――――――――――






  下校中の生徒が何人かいる中、帰路に着くわけでもない俺と由良先輩と二人で俺の家に向かっている。俺と由良先輩は歩き始めてから会話はしていない。しかし、人気が無くなり俺の家まであと半分といったところで、先輩は口を開いた。



  「しかし、今までは死んだ魚のような目をしていたお前が、生きた半魚人の目をするようになるとはな」


  「開口一番に何を言ってるんですか、由良先輩」


  不服な俺をからかって楽しそうにしている由良先輩をに文句をつけるが、全く悪びれる様子を感じさせない。むしろ由良先輩の方が俺に文句を言いたげだ。


  「ふん、どうせお前のことだ。ここ最近はずっと白雪さんのことでも考えていたんだろ、このムッツリめ」


  「なんなんですか、突然。って違いますよ!! 」


  あらぬ誤解を受けぬよう、全力で否定した。


  白雪さんをイヤラシい目で見たこともないし、思ったことは一度もない。・・・・ちょっと負けそうになったけども。


  「全くそんなに白雪さんを女々しく、女々しく思うのならとっとと、くっついたらどうだ」


  「そ、そ、そ、そんなこと今は関係ないじゃないですか」


  見透かされたような由良先輩の的を得た発言に、顔から火が出てしまいそうだ。けどいつの間にか、ちょっとだけ由良先輩の表情が優しくなっていた。


  「正直に話してくれればいい。お前がこうやって真面目に歓談部に来て楽しそうに過ごしているのは、今だかつてなかったのだからな」


  急に真面目な表情に戻った由良先輩を見て、心が跳ねたような感覚に陥った。思った以上に由良先輩は俺のことを真剣に考えてくれていたこと嬉しかったのだ。


  あまり話したくはなかったけど、少しぼかして話して見ようと素直に思えてしまった。呼吸を吸って、吐いて、咄嗟の出来事に弱い心を落ち着かせる。


  「・・・・ある人から、好きだって言われました。けど彼女が俺を好きだと言ってくれたのは嬉しかったんですけど、どう答えていいか、分からずズルズルと引きずってしまったんです」 


  「ふむ、それで」


  「だから、彼女がどう言った意味で好きだと言ってくれたのかを知りたいんです」


  由良先輩はあー、うー、と独り言を言いつつも、本気で悩んでくれている。歩きながら数分たった時、何かを閃いたような顔をしていた。



  「遠回しな言い方になってしまうが、まず人の好きというのは二種ある」


  俺が軽く頷くと、由良先輩は話を続けた。


  「一つは人を男として好きだと言っている場合だ。もしそうだった場合女の子としては何かしらのリアクションがあるはずだ。照れたり、恥ずかしがったり、顔を背けたりとかな」


  俺はあの時のことをよく思い出してみる。先週の野外実習の夜に散歩をしていた俺は偶然白雪さんに出会って話をした。


  気まずくなって早々に帰ろうとして、熱があるんじゃないかと心配されて、勘違いだと分かったあとに自分の暗い過去を話して、白雪さんのことを少し知れて、もう遅いから帰ろうかと言ったときに。


  ――――――そこで好きだと伝えられた。


  あの時、白雪さんはどんな反応を・・・・





 


  あれ、おかしいな。少しも照れたり恥ずかしがったりしていなかった気がする。というかむしろ俺が恥ずかしがってたわ。


  ヤバい思い上がりじゃなかったとか、めちゃくちゃ痛いこと言ってたな。死にたい、恥ずかし死とか本当にありそうなほど死にたい。



  「・・・・どうやらその反応を見る限り、違うようだな」



  「はい、その通りです・・・・ 続きをお願いします」


  ショックで心ここにあらず、といったように何もかもぼんやりして、なんかどうでも投げやりにでもなりたい気分だ。

 


  「もう一つは友達としてだな。女子の言う好きには様々な意味があって誤解しやすい。女子同士でもいるだろ、互いに好き好き言い合っている輩が」


  「はい、その通りです・・・・」


  「その彼女とやらがお前に好きと言ったのは、おそらく友達としてだろう。二人に何か特別なことがなければの話だが」


  「はい、その通りです・・・・」

 

  由良先輩の説明があまりにも的確すぎて、壊れたラジオにでもなった気分だ。そうかこれが本来の地獄か、こんな勘違い思い上がり野郎は明日から自然公園に引きこもって方が世のためだな。


  その時、俺の哀れな背中を由良先輩は軽く叩いた。


  「ま、そう焦るな、この先いくらでもチャンスはある。例えば今年の夏祭りとかいいシチュエーションだと思うぞ」


  そう言って、由良先輩はカバンから薄い用紙を差し出してきた。それは新聞とかに挟まってそうなチラシだった。内容は由良先輩が言っていった夏祭りのことについて書いてあった。


  「私が思うに女の子はロマンチストだ。例えば、打ち上げ花火が上がっている最中に告白してみるとコロッとOKしてもらえるものだからな」


  「由良先輩・・・・」


  そうだ、冷静に考えてみればまだ振られたわけでもない。


  まだ希望は潰えていないと分かっただけで十分だ。いままで腑に落ちずにモヤモヤとした憂鬱が綺麗さっぱり消え去った。


  「どうだ、私のアドバイスは。歓談部の部長を名乗っているだけのことはあるだろう」


  全てを綺麗に解決した由良先輩は、自信満々に胸を張っている。ちょっと大人げないところがあるかもしれないが、こういうところは大人びている。今回ばかりは本気で格好いいと思えてしまった。


  「といわけで、この話の報酬ということでアイスをおごってもらおうか」


  「えっ? 」


  「私がタダでアドバイスをくれると思っていたんじゃなかろうな。情報には対価が付き物、当たり前のことではないか」


  今まで上がるに上がっていた先輩の株が一気に急落していった。でも、だからこそ俺はこの人のことを信頼していたのかもしれない。


  この件に触れられる前に、とっとと俺の家に戻って言い訳のためのアリバイ工作しようと考えようとした。だが何故か一つだけ引っ掛かかることがあった。


  なぜ由良先輩は夏祭りのチラシをカバンに入れていたのかということに。俺は思ったことを咄嗟に言わずにはいられなかった。


  「もしかしたらですけど、由良先輩にも夏祭りに誘いたいような好きな人がいるんじゃないんですか」


  同時に頭に襲う鈍い痛み。それは由良先輩からの洗礼代わりの勢いだけのチョップ。当てずっぽうなことを言ったことかなり後悔した。


  「調子に乗るな。学校でこのチラシを配ってたやつが、なよなよしてて鬱陶しかったから、手に取っただけの話だ。もし次に私を変にからかってみろ、この程度じゃ済まさないからな」


  「由良先輩、すみませんでした」


  しかし由良先輩は許すつもりは毛頭ないのか、かなりあくどい顔をしている。


  「ふふ、私がそう簡単に許すと思わないことだ。罰としてアイス三つ買ってくることを要求させてもらおう。しかも定価三百円のアイスをな」


  「あーもう、勘弁してくだいよ由良センパイー」


  不適な笑みで翻弄してくる小さな先輩に、俺は言われるがまま、すぐにアイスを買いに行ったのだった。



 


おまけ

噂は広がるよどこまでも


藤堂会長 「・・・・」


麻衣子「全く、これだから新聞部に直接出向くのは嫌だったんですよ」


赤崎 「だーかーらー野外実習の夜にいたんですよ、ゆきねこちゃんの仮面被った不審者が」


麻衣子 「嘘は大概にしてくだい。そんなの子供じみた嘘を信じられるわけないでしょう。会長も黙ってないで何か言ってください」



藤堂会長「それを略せば、ゆきねこ仮面・・・・かっ、カッコいい!! 」


麻衣子 (ええ・・・・)



こうしてゆきねこ仮面の存在は生徒会公認の存在となった。

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