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思いがけない告白

二ヶ月間、更新できず申し訳ありません。今日中に活動報告にいつもの理由(言い訳)を書こうと思うので、もしよろしければ覗いてください。

 


  話をしてくれませんかと言われただけなのに、その一言だけでいとも容易く心が揺さぶられる。

 

  こんなときどんな風に返せばいいのかなんて、適切な答え思い浮かばない。さっきまで瀬良とあんなに言いたい放題言ってたのに、なんで今はこう上手く言葉に出来ないんだろうな。


  それが出来ないならば、手を振りほどいて立ち去ってしまえばいい。下手に期待させるよりずっといいはずだ。


  でもそんなこととっくに分かっているのに、足を止めなくない自分と止まってしまいたい自分が混ざりあって、足が止まってしまっている。


  勝手に期待して、勝手に傷ついて、女々しくて、そんな独りよがりな自分が嫌いになってしまう。


  「どうしてもですか」


  否定してほしかった。この居心地の悪さを払拭させるには、もうそれしかない。


  「うん、少しだけでいいから付き合ってほしいの。誰かと一緒のテントで過ごすのって初めてだから、なかなか寝付けなくて」


  振り返らなくても感覚で分かってしまう。きっと、いつものように無垢な笑顔をしてくれているのだと。けれど俺にとってそれが何よりも辛い。


  「ごめん、本当に体の調子が悪くて。・・・・本当にごめん」


  言いたくない嘘を告げ、俺は白雪さんの手を振りほどこうとした。しかしその前に、手の感触がなくなっていたことに気づく。


  突然、白雪さんが俺の正面に来たかと思った瞬間、俺は額を触られた。触れたところがひんやりとして少し冷たいが、白雪さんの顔との距離が近すぎるため、ちょっと顔が赤くなって体が火照ってしまっている。


  「良かった、おでこが熱くなくて」


  「えっ、えっ? 」


  白雪さんの綺麗な笑みが俺の思考をかき乱す。思考がフリーズしているせいか、体が動かず呆然としてしまう。


  「もしかしたら、熱があるんじゃないかなって思って。私は平気なんだけど、こういうときって夜冷えして風邪ひいちゃうかもしれないから」



  あまりの衝撃的な展開に、挙動不審になり口調が定まらなくなってしまう。こういう状況に対し耐性がついていたのか、なんとか冷静さを取り戻すとができた。


  「も、もうおでこに触らなくても大丈夫だから。そのおかげで少し楽になったのでちょっとくらいなら話し相手になれますよ」


  俺は半歩下がって白雪さんのひんやりとした手から離れる。白雪さんは何も言わずただ見守っていた。


  「そうならいいんですけど。康一くん、あまり無理しないで下さいね」


  そう頬笑む白雪さんに俺は頷き、何か適当な話題がないか今にもオーバーヒートしそうな頭を働かせる。


  「そ、そういえば池田が迷惑かけてないか? 白雪さんと同じテントだったし、あいつ、こういうとき滅茶苦茶うるさいからさ」


  あまりにも無理がある話題転換だが、白雪さんは特に気にしていない様子だった。


  「ううん、そんなことなかったよ。今の康一くんのことをたくさん話してくれたから」


  「ど、どんなことを聞いたんですか」


  俺の第六感が嫌な予感がビンビンと感じてしまう。まさかとは思うが、池田のやつ変なこと口走ってないだろうな。


  「えっと、康一くんの家に行って毎朝起こしてるんだけど、起こすたびに嬉しそうにしてるって言ってたよ」


  あいつ野外実習が終わったら絶対後でシメる。具体的にはあいつの頬を両手で嫌と言うほど伸ばしてやる。


  「いつも俺の部屋まで来るなとは言ってはいるんだけど」


  「確か幼なじみって言ってたけど、幼なじみって皆そんな関係なの? 」


  「いやこれは池田が特別変わってるだけだし、普通はもっと距離感があるんじゃないかな」


  おかげさまで俺は幼なじみに幻想を抱けなくなってしまったけど。もっとボロカスに言ってやりたい気持ちを抑えながらも俺は池田のことを考えていた。


  「良かった、笑ってくれて」


  「別に笑ったつもりじゃなかったんだけど」


  気を使わせたことに罪悪感を覚えるが、白雪さんは何か別のことを言いたいんじゃないかと思うほど、何か別のことを心配しているように見えた。


  「ううん笑ってくれたことは嬉しいけど、あの・・・・厚かましいかもしれないけど本当は風邪なんかじゃなくて何か悩み事でもあったんじゃないかなって」


  「べ、別にそんなじゃ・・・・ないって・・・・」


  図星を突かれた俺は戸惑ってしまった。さっきまで考えていた暗い気持ちを打ち明けてしまえば気持ちが楽になるだろう。でもそんなこと白雪さんにだけは言いたくはない。


  けど白雪さんは純粋な気持ちで心配してくれている。それを無下にしたくないって気持ちを俺は否定することなんて出来ない。


  「康一くん、もしかしたらだけど何か悩み事でもあるの。私で良ければ話を聞くよ。あんまり頼りにならないかもしれないけど」


  今まで白雪さんの鼻のあたりを見ることで誤魔化してきたが、 ふと目が合ってしまう。白雪さんの無邪気な笑みは日の暖まりの中にいるかのようだった。


  その時心の中にあったわだかまりが、スッと消えてしまった。



  「・・・・実は俺、昔の記憶を思い出せないんだ」


  そして俺は隠し通すことができず、本音をこぼしてしまう。自分で言うのもなんだが、聞くだけで雰囲気が暗くなりそうな話だ。それでも出来る限り明るく振る舞って笑ってみせた。


  そこから昔の出来事を色々と語った。病院で何年も通ってリハビリしたこと。リハビリが上手くいかず親戚周りから皮肉を言われたこと。それで心が折れて人と関わるのが嫌になり人間不信になりかけたこと。そんなことがあっても瀬良や池田が親身になって接してくれていたこと。


  それら全てをたどたどしげに白雪さんへ打ち明けた。白雪さんはそんな思い話を嫌な顔を一つせず聞いてくれた。


  「それでさ、さっきの白雪さんの歌に聞き覚えがあったから、もしかしたら昔の自分を知ってくれているんじゃないかなって」


 これで少しでも子供の時の記憶を思い出せれば良かったのだが、特に記憶が戻ったという感覚はない。けど話してみたら意外と心が軽くなって、恥ずかしい気持ちがいっぱいだけど今までより清々しい気持ちになっていた。

 

  「そっか、とても辛かったんだね」


  俺は何かが溢れそうになり必死に堪えた。強がりだったとしても強くあろうと振る舞わなければ、きっと目頭の熱さに負けてしまう。そうなったら俺は自分自身が情けなくなって、白雪さんにさえ失望されそうだったから。


  「そんなことないって。俺には友達もいて自分だけの居場所があったから、きっと俺は偶然運が良かった側で幸せな方なんだって」


  自虐的に言ってるわけではなく、本心から俺はそう感じていた。


  「ううん、私分かるの。康一くんが今までどんな時でも私に気を使って話をしてくれてたのちゃんと覚えてるよ。だから康一くんは誰よりも優しくて強い人なんだから」


  普段ならお世辞とか社交辞令だとかで受け流せるのに、その言葉に耐えきれず俺は空を仰いだ。さっき見た夜空とは違って輝く星が一段とまぶしく映る。


「それに、私も康一くんと同じだから」


  ばつが悪そうな白雪さんは表情を曇らせる。驚きを隠せない俺は空を仰ぐのはやめて、ばれないように目を擦った。


「あのね、本当は私も昔の・・・・子供の時の頃のことはあまり覚えてないの。お母様にあまり他の人に言ってはいけないと言われていたんです。 ごめんなさい、嘘を吐いてしまって」


  そう言って白雪さんは申し訳なさそうに頭を下げた。けどそんなことよりも俺は気持ちが軽くなり徐々に心も軽くなっていく。


  「なんか奇遇ですね。白雪さんも子供の頃の記憶がないなんて」


  「私を責めないの? とっさに嘘を吐いてしまったのに」


  「気にしてないですよ。俺も嘘を吐いてしまうことはありますから」


  そんなことを言ってしまえば、人を騙すような真似ばかりする瀬良は打首獄門の刑に処されてもなんらおかしくはないだろう。


  「それに嬉しかったんですよ。今まで昔の記憶が無いことを言えずに過ごしてきたから、余計に。」


  そんな中、頬が緩んでいた自分自身に気がついた。こういう気持ちも悪くはないかなって素直に思えてしまう。


  けどあれから結構時間が経って、もうそろそろ就寝の時間が来てしまうことに気がついてしまった。


  「あっ、もうすぐテントに戻らないといけませんね。じゃあ白雪さんまた明日」


  咄嗟に出た素っ気ない返事はありふれていて、つまらなかった。それでも白雪さんは笑みを忘れずにいてくれた。


  そして白雪さんの別れの言葉は一生忘れられないものとなった。


  「うん、ありがとう康一くん。大好きだよ」


  その言葉は甘い毒のように侵食し、澄んだ声が何度も何度も俺の頭の中で反響していた。


 







抜き打ち荷物チェック


瀬良「ふふふっ、不用心だね康一は。あっさり見のがしたのは別の目的があるという可能性を考慮していなかったようだね」


「康一とて、年頃の青年だからそういういかがわしい本や道具が隠してあるに違いないからね」


「カバンの底に何やら妙な膨らみがある。ということは、これは間違いなく誰にも言えないような秘密のアレに違いない。さて何が出てくるやら」




“定価398円のイヌ用クッキー”



「ごめん、康一。僕は君が抱える闇に気づいてあげられなかったみたいだ」



彼は盛大な勘違いをしてしまったようです

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