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心に響く悲しい歌

あけましておめでとうございます。

今までこのような更新頻度の低い小説を見てくださって、本当に感謝の気持ちしかありません。

もしよろしければ、これからもこの小説を好きでいてくると嬉しいです。

 

  現在の時刻は夜の十時をちょっと過ぎたあたりだ。


  なんやかんやで無事逃げきり正体がバレることなく、風呂に入って一安心。今は就寝するために、各自指定されたテントの場所へと移動している最中だ。


  問題があるとするならば晩酌を邪魔された先生方がかなり不機嫌なことくらいだろう。それとあともう一つある。


  「なんでお前と二人きりなんだろうな。俺もうお前と話すことないんだけど」


  テントの場所は男女別々の場所にあるので、斑も男女に別けられるのは仕方ないことだ。まあ確かに他の男子と一緒のテントに詰められることを考えれば多少はマシなのだが。

 

  「じゃあ聞きたいことが一つ。さっきの勝負、勝算はあったのかい?」


 身から出た錆とはいえ、あまりこの件については触れられたくなかった。正直に言えば元サッカー部主将との勝負は、もしかすると負けていたかもしれない。 あくまでも目的は騒ぎを起こして先生方を呼び寄せることが目的だったのだから。


  それにこいつに負けたかもしれないとか言うと、後々面倒ごとの原因になりかねないしな。


  「勝てない勝負はしないとだけ言っとくよ」


  「つれないなあ。そんなことじゃ、女の子にモテないよ」


  「余計なお世話だ」


  そんな会話がどうでもよくなり、顔を背ける。すると辺り一面に広がるテントが目についた。


  女子と男子のテントの位置は何かの間違いが起こらぬよう、女子が右端に来るように男子は左端で、その中央に先生方のテントが設置されている。

 

  「狭いテントに男二人、なにも起きないはずはなく・・・・」


  「ふざけたこと言ってると、その口を縫い合わすぞ」


  それとも口にボンドでも流し込んでやろうかと、半ば冗談で考えていると瀬良は足を止めてある一つのテントを見つめていた。


  どうやらここが指定されたテントのようで、俺はテントに近づきぶら下がっているファスナーをさっさと開く。


  中に入ると、二人しかいないことが分かっていたのか支給されたテントは結構小さい。男三人がギリギリ寝れるくらいのスペースはあるが、少し狭く感じてしまう。


  「よっと、こういうテントって進むの面倒くさいんだよな」


  のっそのっそと、両手と膝をつきながら前へ進む。芝生の上にテントを立てているので、服から伝わる独特な肌触りはやけに気持ち悪いと感じてしまう。


  そして風呂を上がってから回収した自分の荷物を適当に置いて、仰向けに寝っ転がる。今までの疲労からか、今にも眠りの世界へと誘われそうだ。


  「さあて、とっとと寝るか」


  「もしかしたら池田さんが、ここまで侵入してきたりして」


  本気でシャレにならない。もしこれがフィクション世界なら九割回収されるものだぞ。冷静に考えればありえないのだが、相手は池田だ。やつはいつであろうと想定の斜め上を行く存在だ。


  「念のため、あいつが侵入できないようにバル○ンでも焚いときたいくらいだ」


  「さすがにやり過ぎじゃないかな」


  まあ○ルサンは持ってきてないが、それくらいの対策が必要そうな気がしてきた。


  「変わったね、康一は」

 

  瀬良はふざけた会話を切り上げ、本質に迫るような質問をぶつけてきた。 先程とは打って変わって、瀬良は真面目な様子で問いただしてくる。


  「そうか? ここの所騒がしい出来事が多すぎるから、そういう風に錯覚してるだけだろ」


  「いつの間にか康一は、誰とも構わず女の子と知り合いになるのが得意になっているみたいだし」


  「風評被害すぎて涙が出そうなんだが」


  好きで知り合いになってるわけじゃないと声高々に主張したいが、今のこいつがそう簡単に納得するとも思えなかった。


  「じゃあ今まで関わってきた女の子の中で好きな子を教えてもらおうかな」


  「っ!? ゴッホ、ゴッホ。突然何を言い出すんだよ」


  突拍子もない言葉に意表を突かれた俺はおもいっきりむせて、その後すぐに起き上がった。


  「で、結局のところ誰が一番好きなんだい。人懐っこい池田さん、それとも容姿端麗な藤堂会長かな。はたまた意外にも赤崎さんだったりとか」


 

  瀬良の目を見る限り、根掘り葉掘り俺のタイプを聞こうとしてくるのは確実だ。


  こういう女子が喜びそうな恋愛トークはあまり好きじゃない。俺のリアクションを見て何かを理解した瀬良は、王手飛車取りを決めたような感じで問い詰めてくる。


  「やっぱり白雪さんなのかな」


  瀬良に表情を読まれないようサッと顔を少し横に向けて視線を外す。それは悪手だったと気づくが何もかもが遅すぎた。


  「ふーん、やっぱり白雪さんが好きなんだね。ああいう純粋で清楚そうな子、康一のどストライクそうだからね」


  勝ち誇るかのように、瀬良はいつものにへら笑いを浮かべてくる。こいつがイケメンなのがさらに拍車がかかりウザさ二倍だ。


  「だ、誰がどストライクだ。というかお前の表現所々、おっさんじみてんだよ」


  「そうかい、でもそれで康一の動揺を誘えるなら安いものだけどね。さて、白雪さんの好きな所を打ち明けてもらおうじゃないか」


  こちらの考えをお見通しかのように意図も容易く手玉に取ってくる。


  「あーもう、面倒くさい、ちょっと外の空気吸ってくる」


  この状況が嫌になり、俺は勢いに任せテントの外に出ることにした。三十六計逃げるにしかず、という昔の人のありがたい言葉を存分にすがらせてもらおう。


  いやちょっと、理由が苦しかったか。どこかで持ち物を落としたとか言えば良かったかもしれない。

 

「それじゃあ仕方ないね。就寝時間まであと少しだから早く帰って来るように」


  意外にも瀬良はと俺の逃走をあっさりと見逃してくれた。まあいい、あまり腑に落ちないがとっとと出よう。テントの入り口のファスナーを降ろす。


  テントから出ていく俺を瀬良は何も言わずに、不気味なほどずっと黙っていた。


  「変わったね、本当に」


  その掠れた言葉が聞こえてしまったが、今の俺にはなんの関係がない。俺は回りにバレないようソッとテントから出ていった。




  ―――――――――――




  テントから出た俺は、人気が少ないルートを選びゆっくりと歩いていく。目的地などなく、ただ気の向くままに歩くだけ。


  ふと空を見上げるとたくさんの星が輝き綺麗だった。自然公園から見える星とは、また違った感じだ。


  たまにはこういうふうに夜中に出歩くのも悪くはないな。


  当てもなく歩いていると、誰かの歌声が聞こえてくる。奏でられる女性の透き通ったようや綺麗な歌。その歌はどこかで聞き覚えがあるような懐かしさを感じた。




  “あの日降った、白い淡雪”


 

  “決して、心の温もり、忘れないよ”




  近づくにつれ、ハッキリと歌詞が分かってくる。歌に引き寄せられるように、進んでいく。出来る限りゆっくりと、この綺麗な歌声ををいつまでも聞いていたいと思ったから。




  “私の願いは、一つだけ”



  “あの人の側にいたい”


 

  “それが心残り”




  たどり着くと、そこは崖となっている場所だった。それと同時にバラードのような悲しい歌は終わってしまった。けれど俺は、その曲をずっと昔に聞いたような気がしてならなかった。


  奇妙な偶然だが歌い手は俺の目と鼻の先にいる。女性の姿は木々が邪魔してハッキリと分からないが、俺は歌っていた人物の正体が気になり、木に隠れてそっと覗く。


  「えっ!? 白雪さん!? 」


  「だ、だれ!?」


  完全にやらかした。あまりにも驚いてしまってしまって、つい声が出てしまった。


  こうなったら男は度胸。若干ビビりながらも白雪さんに近づいていく。ある程度距離が近づいても白雪さんが逃げていかないのか唯一の救いだ。


  「こ、康一くん。もしかして聞かれちゃってたの」 


  素直に頷くと、白雪さんはよほど聞かれたくなかったのか顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。


  「いや、凄く綺麗な歌声だった」


  気恥ずかしさで黙ってしまわないように、なんとか言葉をひねり出す。


  「そっか、ありがとう。私、人に歌を聞いてもらったことなんてなかったから」


  星の光でしか照らされてない夜にも関わらず寂しそうな表情をしていて、たぶん本当のことだろうと俺は思ってしまう。


  「その歌、悲しい歌なんだね」


  感じたことを包み隠さず、ポツリと呟いた。


  「実はこの歌、お母様から教わったんです」


  「お母様? 」


  当時のことを思い出したのだろうか、白雪さんは心から嬉しそうに笑っている。


  「はい、小さな頃に教えてもらったんです。実は私も悲しい歌とは思ったのですけど、なんとなくこの歌に牽かれてしまうんです」


  もしかしたら、そんなワラにもすがる思いで白雪さんにおそるおそる聞いてみる。


  「実はさ、その歌を昔に聞いたことがあったような気がしたんだけど、何か知ってたりしない? 」


  「・・・・ううん。私が外で歌ったのはこれが初めてだから」


  白雪さんは、俺の思い上がりをしっかりと否定してくれた。


  よく考えれば当然のことだった。白雪さんと出会ってから、たった数週間の関係でしかないのだから。


  「なんかごめん、変なこと聞いてしまって。俺、先に戻りますけど白雪さんもテントに早く戻った方がいいですよ」


  気持ちを押し殺すことで精一杯な俺は、後ろを振り返り足早に立ち去ろうした。その手を誰かに引かれるまでは。

 

  「康一くん、少しだけ話をしてくれませんか」

 

  あの時よりも強く、白雪さんが俺の手を繋いでくれていた。

 


 







人の噂は75日?


赤崎 (あの二人がいるテントの中があまりにも気まずいから出てきたはいいものの、特にすることがないな。しいてあげるなら次の新聞部のネタ探しか)


赤崎 「はあ、どこかで美味しいネタでも落ちていないかな」


どこぞの元サッカー部主将 「それにしても格好良かったよな。しがないゆきねこ仮面だよ。って、あんなセリフ俺もいつか言ってみたいぜ」


赤崎 (ゆきねこ仮面だと。そんな子供騙しじゃあるまいし・・・・ んっ、待てよ。さっきの元サッカー部主将の言葉と、さっき小言のように先生方が言っていた不審者・・・・ふむふむ)


元サッカー部主将が食いつく→運動部の大半がそれに同調する→真実味が増す→生徒の大半もそれにつられ人気が出る→新聞部の人気が上昇する→結果的に生徒会から部費をむしり取れる


赤崎 「帰ったら書いてみるか。 突如として現るゆきねこ仮面、この学校の生徒の可能性あり。うん、アリだね」


数日後、ゆきねこ仮面という言葉が爆発的に広まるのはまた別の話





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