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伊達と酔狂のゆきねこ仮面

メリークリスマス!! といわけで遅れてすみません、笹コアラです。

たぶん今年最後の更新となりますので、楽しんで見てください。


 

  「私が勝てばそちらは素直に引いてもらおう。こちらも負ければこの場を立ち去る。実にシンプルな話だろう」


  あまりにも突拍子のない言葉に、男達は言葉を失い静まり返る。しかしリーダー格の男はそれを気にしてはいない。

 

  「はっ、なんでそんな変質者に指図されなきゃなんないんだよ」


  リーダー格の男は変質者を見るような目で嘲笑う。


  お面姿にジャージ姿、その不気味さは変質者と間違われてもおかしくはない。そんな人物の挑戦に乗るとは到底思えなかった。


  お面の男を無視して、リーダー格の男は前へと進む。


  「ほう、お前の情熱は簡単に失われてしまうものらしいな」


  容赦なくゆきねこ仮面は男を煽る。それはリーダー格の男を怒らせるのには十分すぎるものだった。今にも殴りかかかろうとするのを必死に拳を握りしめ堪えている。


  「分かった。受けてやるよ、その勝負」


  「お、おい。わざわざあんな変質者の言うことを間に受けなくても・・・・」


  相方である運動部員は引き止めようと片手で肩を掴むが、リーダー格はその手をそっと掴んだ。


  「人にはなあ、決して引けない瞬間ってのがあんだよ。ましてや俺達の信念を侮辱されて引き下がれるほど腐っちゃいねえよ」


  リーダー格の男はゆきねこ仮面を見定めていく。どうやら煽る口だけが達者ではないようで、肉づきから察するにかなり身体能力が優れていそうだと感じ取っているようだ。


  「では勝負といこうか、内容は追いかけっこというのはどうだ。湯屋を覗けるポイントはこの坂の上。代表者のどちらかが坂を昇りきれたら勝利となる。それでいいかな」


  ゆきねこ仮面が指差すのは、湯気が漂っている坂の上のてっぺんだった。


  「いいぜ。そのかわりそちらが負ければそのダサいお面を引っ剥がしてやる。背丈から見てこの学校の生徒だろうからな。その正体、白日の元に晒してやる」


  その返答に迷いは感じられず、先程のことを根にもっていたのかリーダー格は煽り返している。しかし仮面の二人組は何一つ動じることはなかった。


  「では代表者を決めてくれ、こちらは私が出よう」


  ひょっとこ仮面は後ろから見守るかのように後ろに下がっていく。対する覗きグループの中から選ばれたのは先程まで喋っていたりリーダー格の男だった。


  「いいのか、もう少し選出に時間を割いても一向に構わないが」


  「悪いけど、俺は速いぞ。これでもサッカー部の主将を経験してるし、脚力は全国でも通用するレベルなんだぜ」


  「そうだな、脚力だけが自慢の元サッカー部主将に勝てるもんかよ」


  「格好つけてんだからちょっとは黙ってろ!! 」


  リーダー格の相方は強烈なボケをかまし、仲間達は大爆笑。お相手はエンターテイナーを忘れない芸人の鏡であるかのようだ。


  けれど、仲間たちは誰一人としてこのリーダー格が負けることを疑ってはいない。


  ゆきねこ仮面はそんなコントを無視して重い足取りで、けわしい坂の目の前で立ち止まる。そんな態度にリーダー格は面を食らっていたが、すぐにゆきねこ仮面の隣の位置につく。


  互いに視線を合わせない。真剣勝負におふざけは無用と言わんばかりに二人は沈黙し続けている。


「では僕が開始の合図をしようか」


  ひょっとこ仮面が開始の合図を宣言することに異論はなく、回りにいる皆が二人を見守る。


  「スタート!! 」


  二人はすぐさま走り出した。この勝負、負けられぬ理由が互いにはあるのだから。



 ――――――――――






  俺は勝負することが嫌いだった。



  どんなに足掻こうとも負けるときは必ず負ける。誰もが選ばれてスポットライトに照らされた輝かしい舞台に立てるわけでもない。


  ましてや、自分の記憶すら曖昧な俺に出来ることなんてありはしない。



  『負けるのが怖いだけじゃないの』



  『お前は現実から逃げているだけだ』



  『甘えんな、みんな同じで苦労してるんだ』



  ふざけんなよ。こっちだって悩み抱えてんだよ。俺のことなんにも知らないくせにお前の理屈を押し付けんな。



  出る杭が打たれる世の中で、そんな誰かに目をつけられることをするかよ。



  だから知らない誰かと関わるのをやめた。


  馬鹿馬鹿しい噂話を気にするのをやめた。


  他の誰かに期待することすらやめてしまった。


  自分の世界には誰一人とて入らせまいと、孤独を好んだ。



  そう、あの日までは―――――――――



 ――――――白雪さんと出会ったあの日から、そんなこと気にしなくなっていた。





  ―――――――――――




  リーダー格とゆきねこ仮面は肩を並べて走っている。どちらも負けず劣らずのデットヒートだ。



  「「負けてたまるかああぁああぁあ!! 」」


  雄叫びを上げて走る二人。どちらも負けず劣らず肩を並べて全力で走っている


  男達は呼吸を忘れるくらいに見入っていた。下馬評だと思われたゆきねこ仮面が想像以上に喰らいついてたからだ。


  互いに一位を譲らない。けれどゴールは目前、何が起こってもおかしくはない。


  そしてその想像は現実となる。


  リーダー格が徐々にゆきねこ仮面を追い抜き、一歩先を走る。元サッカー部主将の実力は伊達ではなかったのだ。


  けれどその事象は、想像の一部でしかない。


  がくんと突如としてリーダー格の男の足が鈍ったのだ。そうこの男は全治二週間の怪我によるブランクという名の(かせ)をはめられていたのだ。


  ゆきねこ仮面はその隙を絶対に逃さない。隙を見せたリーダー格の男を追い抜こうとラストスパートをかけた。


  みるみる二人の差は縮まりゆきねこ仮面がリーダー格を追い抜く。けれど勝敗は完全には決していない。


  「俺の夢は――――――――――終わらねえ!!! 」


  それは全てを賭けた魂の咆哮。無きに等しいスタミナを振り絞りリーダー格は最後まで足掻き続ける。


  そして、二人のどちらかがてっぺんへとたどり着き勝敗は決した。


  「私の勝ちだ―――――――――― 」


  勝利の余韻に浸っているのはゆきねこ仮面だった。


  「うおぉおぉおお!!」


  巻き上がる歓声。勝者に与えられし栄光はゆきねこ仮面に与えられたのだ。


  息を切らし疲れを隠しきれないゆきねこ仮面が、リーダー格の男に近づこうとする。


  だが、そこで無粋にも邪魔が入ってしまう。


  「おい、お前たち!! そこで何をしている!! 」


  遠くから誰かが走ってきている、それは騒ぎを聞きつけてやって来た先生達だった。


  「や、やっべ!? バレちまった」


  先生方が晩酌を楽しんでいるとはいえ、あれほどの大声で騒いでいたのだから、酔いが回っていたとしても気づくのには十分すぎる理由だった。


  予想外の事態にリーダー格達は焦っている。計画はすでに破綻しているが、先生方に捕まればただではすまないだろう。

 

  それとは裏腹に、ゆきねこ仮面とひょとこ仮面は冷静さを欠いてはいなかった。


  「ここは引き受ける。お前達は二人組の不審者を追いかけてきたと言えばいい。もう私達の役目は終わったのだからな」


  パニックなった男達に対しゆきねこ仮面は的確に指示を出し、急いでこの場から立ち去ろうとしていた。


  「―――まっ、まってくれ、あんた達、一体・・・・」


  さらなる予想外の出来事に動揺するも、リーダー格の男はゆきねこ仮面を引き止めた。


  ゆきねこ仮面は足を止めるが、それはきっと気まぐれだろう。


  「しがない、ゆきねこ仮面だよ」


  そして名を告げると共にひょっとこ仮面と共に遠くに走り去っていった。やがて静けさを取り戻したと思えば黄昏の風が男の頬を撫でる。


  「おい、そこの二人組、止まれ!!」


  ヘイトは謎の仮面の二人組に集まり、先生方はリーダー格と男達を無視して、通りすぎる。

 

  「ゆきねこ仮面、俺達を庇ってくれたというのか」


  リーダー格の男は、ゆきねこ仮面が逃げた方向をずっと見つめている。


  「ありがとう、ゆきねこ仮面。あんたみたいな紳士、嫌いじゃないぜ」


  その独り言はきっと届かない。けれど、リーダー格は満たされた表情をしていたのだった。








 



  「しがない、ゆきねこ仮面だよ。 ふふっ・・・」


  「うるせぇ!! 」


  お面の二人組も逃げながら、満足気にしているのでした。


意外な特技


瀬良 「凄いね、康一。まさかあんなに演技力があるだなんて思ってもみなかったよ」


康一「子供の時、何がどこまで覚えられるから試してて、時代劇の演技とかを意識して見てたら、自然と見についたんだよ」


瀬良「ふーん、なるほど。じゃあ白雪さんに、今までのは全て演技だったと伝えておくよ」


康一 「おい、待てや」


ふざけながらも、なんとか逃げきれたみたいです。

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