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転校生は突然に

 


  不思議な出会いがあった翌日、つまり月曜日になったため学生の本業である勉強のため、俺は重い足取りで学校に向かっていた。


  まばゆく光る朝日は実に綺麗だが、俺にとっては苦痛でしかない。


  「ふぁ~あ、眠い。池田のやつ自主練のランニングなんて一人でやればいいだろ。毎朝5時に起こされている俺は寝不足すぎて、どうにかなっちまいそうだよ」


  その上、昨日金を持っていかなかったせいで、グチグチと嫌みを聞かされ続けてうんざりしている。熱中症で倒れたとは伝えづらいし、本当にツイてない。


  デカイあくびを口で隠すようにしてから、溜まりきった愚痴をこぼして、ひたすらに歩いていく。


  その池田はといえば、陸上部の朝練があるため俺を置き去りにして、いち早く学校に向かっていったので俺は現在一人で登校している。


  いつも通る通学路には人気がまるでない。まあ少しばかり早めに家を出ることで人混みを避けているのだが。


 一人で寂しく歩いていると、ふと思いふけってしまう。


  「あの子、なんだったんだろうな」


  脳裏に浮かぶのは俺を助けてくれた白い髪の綺麗な少女。そして最後に呟いた一つの言葉。


  「雪女・・・・か」


  なぜそう名乗ったのは分からない。名前を誤魔化すために嘘を吐いたのかもしれない。けれど俺にはその言葉がどうも嘘には聞こえなかった。


  それにあの子ことを昔に知っていたような・・・・


  いつしか、その少女のことで頭がいっぱいになっていると、肩が手で叩かれる感触が伝わってきていた。


  「どうしたんだい、康一。君が考え事なんて珍しいじゃないか」


  声を掛けられたことに驚き直ぐ様振り返る。そこには俺よりも少しばかり背が高い人物がこちらを見ている。


  「なんだ、瀬良か。突然肩を叩くなよ」


  「声なら何度も掛けたけれど、返事がなければこうするしかないだろう」



  甘い顔立ちをした非の打ちどころのないイケメンは、打つ手がなかったというような感じで意味ありげな顔をしていた。


  こいつの名前は小早川瀬良(こばやかわ せら)。一応、俺の友達でスポーツも勉強もそつなくこなす才色兼備のスーパーマンだ。


  「俺にだって考えなければいけないことだってあるのさ」


  「へえ~、それは雪女と関係があるのかな」


  図星をつかれ、ドキリとして体を動かしたが最後。瀬良は、にヘラ顔をこれ見よがしに向けてきた。 


  「・・・・盗み聞きとは随分と趣味が悪い」


  「はははっ。他意はなかったけど偶然聞こえてしまったんだ。気にさわったなら許してほしい」


  いつもなら近づかれた時点で気がついているのだが、日々の早朝ランニングで疲れているのかもしれない。俺はそう自分を納得させる形で独り言を聞かれたことを受け入れた。


  「秘密にしといてくれよ。池田の耳に入ると面倒だからな」


  「分かっているさ。池田さんは康一が他の女の子について話すと少々ヒステリックになってしまうからね」


  瀬良はオブラートで包んだ表現にしているが、あの状態をヒステリックという安易な言葉で片付けてしまうのは疑問に思う。


  「そんなことよりも康一、知っているかい? 今日から転校生が来るみたいだよ」


  「転校生? そんなこと初めて聞いたんだが」


  「先生達が話してたから間違いないよ。しかもその転校生は女の子みたいだ。」


  「へえ~そうなの。良かったじゃん」


  随分と嬉しそうに話す瀬良とは対照的に、俺のテンションはだだ下がりだ。


  「嬉しくないのかい。一般的な男子高校生はこれに食いつくんだけどな」


  「興味ないね。可愛い女の子ほど何かしらの欠点があって残念なやつが多いからな」


  「まるでそれを見てきたかのような発言だね」


  「お前知っててわざと言ってるだろ」


  今までの恋愛経験は無きに等しいが、この法則は大抵外れないことが多い。名前を出すのもわずらわしい、どこかの誰かさんがそれを証明してしまっているからな。


  「ともかく俺が望むのは平和な生活であって、面倒事はあまり好きじゃないの」


  「まあ確かに転校生は話題を引くし、君はあまり関わろうとはしないだろね」


  「・・・・そうだな」


  転校生に話しかけるだけでも悪目立ちする可能があるから、出来れば避けるに越したことはない。


  学校で生活する以上、良くも悪くも事なかれ主義の方がベストな選択なのだから。


  「じゃあ早く学校に行こうか。男好きの康一は僕と二人で登校するのが幸せそうだからね」


  「ナチュラルに嘘吐くの止めろよ! 」


  俺は瀬良に怒声を上げながらも素直に学校に向かっていった。




 ――――――――――――



  俺が通っているここ流氷高校は実に平凡な高校だ。


  進学校のような詰め込みの授業三昧というわけでもなく、たまに定員割れが起こる高校みたいに自由な校風というわけでもない。


  ある者は有名な大学へ、ある者は高校卒業後すぐに働きお金を得る。偏差値もそれほど高いわけではないので、そういった意味では自由なのだろう。


  俺と瀬良と池田の学年は同じ二年生、学年が一つ上がれば受験真っ只中のため、教室の中ではそこそこの緊張感が保たれている。


  そのはずだが、“転校生”というキーワードは話題性が尽きないのだろう。先生が転校生について話したそうにしているのに、クラスのほぼ全員が話すのを止める気配は感じられそうになかった。


  様々な話し声が何十にも重なって、俺にとっては不協和音にしか聞こえない。しかも教室の騒がしさは、体感でいつもの声量の5割増しでうるさかった。


  (かったるいなー 誰が転校してきても学校生活自体はそんな変わんないって)


  かつかつと右隣から、俺の机を指で叩いているものがいる。


  俺は右隣を確認すると、瀬良がメモ用紙を渡してきた。




  “転校生どんな子なのか楽しみだね”




  俺は微妙な顔をして、瀬良に手紙の返事をメモに書いて渡した。



  “お前好みの子だといいな”




  「えー静かに、静かに。」




  自主的に黙ることを待っていたであろう先生は痺れを切らして声を上げた。


  さすがに空気を読んだのか、喋っていた人達は口を閉ざし、先生の話を聞くために教室はとても静かになっている。


  「今日は皆さんが言っている通り転校生がやって来ます」


  その声に反応して、再びガヤガヤと話し声が飛び交い始める。


  目の前の光景に眉をひそめている先生を見ていると、いくつかの同情を覚えそうになった。


  「少し変わった髪色をしていますが、あまり気にしないように」


  その発言が火に油を注いだのか、教室内のボルテージが最高潮まで高まっていく。


  (ん・・・・変わった髪の色? )


  何故かその言葉がやけに引っ掛かる自分がいることに気がついた。


  「では入ってきてください」


  そう先生が言うと教室の開きドアが開かれる音が教室に響く。


  驚きの声が教室に響いている中で、俺は言葉を失った。


  美しく可憐さも兼ね備えた人物は、その沫雪のような白髪を揺らし教壇まで歩き、告げる。


白雪 綾女(しらゆき あやめ)です。よろしくお願いします」


  俺はただ、彼女に見とれてしまっていた。




 

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