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言えなかった言葉

 


  恥ずかしい目に合いつつも、白雪さんの買い物は問題なく終わった。だが次は非常に難しい問題だった。女の子と甘いものを食べることなんて、生涯に一度もないと断言できるほどだ。


  悩みに悩んで、たどり着いた場所は二階のフードコートエリアだった。 夏に食べる甘いものといえばやはりアイスだろう。


  ここセーフティーワンでは、安心安全の食品にこだわったアイスが食べられる有名なチェーン店だ。


  一応、選択肢としてダイマーには喫茶店とかもちらほらあるが、正直アイスの食べ比べなどしたことはないので、安定択として有名チェーン店を選んでみた。  


  白雪さんの様子を見てみると、興味津々でアイスの入ったショーケース見入っている。 どうやら少なくとも間違いではなかった内心、ホッとした。


  白雪さんが目線の先には、抹茶アイスがある場所だった。結構、渋めな味が好みなのかもしれないと心の奥底に刻み込んでおく。


  「白雪さん、抹茶アイスにするんですか」


  「うん、あまり食べたことない味だから頼んでみようかな」


  というわけで、白雪さんは抹茶アイスのシングル、俺はチョコチップアイスのシングルを注文することにした。


  アイスの取り分けはスムーズに行われ、一分も経たないうちに二人分のアイスが用意されていた。


  もちろん会計は自分で支払った。いいの?、と白雪さんは聞いてくるが大丈夫、と優しく告げた。


  フードコートにそこまで人はいなかったので、出来る限り見立たない端っこの席を見つけだして座る。座った瞬間に気疲れからか、風船のガスが抜けるみたいに力が抜けていく。


   せっかく買ったアイスが溶けてしまうかもしれないので、一口だけ口にする。舌がひんやりとして、アイスの甘さとチョコの甘さが合わさって、かなり美味しい。


  白雪さんの様子を見ると、まだアイスに口を付けていなかった。もしかすると気分が悪くなったのかなと思ったが、なにか違うような気がした。


  「あのね、私も康一くんにお礼を言わなくちゃいけないの」


  白雪さんの事情は分からないが、真剣そのものだった。


  「さっきのは偶然見つけんだけだし、そこまで気にしなくても・・・・」


  横に首を振った白雪さんは、その言葉を否定した。


  「ううん、違うの。私が言いたいのは昨日のこと」


  「昨日? 」


  「昨日の放課後、私を教室から連れ出して助けてくれたよね」


  あれは偶然、と口から出てしまいそうになるが、グッと堪えた。


  それを見て安心したのか、白雪さんは話を再開する。


  「私、いつも一人だったから知らない誰かと話したことなくて、誰かと親しくなる方法なんて分からなかったから、自分から話しかけるのが本当に怖かった。だからそんな私だから、悪口を言われても仕方ないって思ってた」


  俺は相づちを打つことなく、ただ黙って聞いていた。


  「でもあの時、私の手を引いて助けてくれた。あの時の康一くんの手は震えてて、自分のことで精一杯だったかもしれないのに、構わず私の心配をしてくれた。誰かと通じあえる居場所まで与えたくれた」


  なぜ白雪さんがこのタイミングで、思いを打ち明けたのかは分からない。だけど一つだけ分かることがある。


  もしかしたら、白雪さんは俺と同じだったのかもしれない。


  怖くて、どうしようもない気持ちに囚われて、あるがままを受け入れて仕方ないと割り切って。


  “助けてくれる誰かを待ち望んでいたんだ”


「だから私、康一くんのように勇気を持って頑張ろうと思います」


  そんな白雪さんを見ていると、なんだか自分が情けなくて乾いた笑いが溢れそうになる。


  「何度も助けてくれてありがとう。やっぱりあなたは私の王子様です」


  「えっ!?」


  あまりの衝撃に思考がぐるぐるとループして、脳がオーバーヒートした。夢でも見ているんじゃないかと疑って、頬を思い切りつねってみるが意識はハッキリとしていて夢ではないと自覚させられる。


  「あっ、待って、今のはその、なんていうのか、嘘じゃない・・・んだけど・・・・・」


  白雪さんも口が滑ったのか 相当あたふたしていた。


  かなり気まずくなり、ふと隣の席を見やると二人の一風変わったカップルがこちらを覗いていた。


  普段なら別に気にはしないが、あの二人がただのカップルとは到底思えなかった。


  一人は長い髪を下ろした、ついさっきどこかで見かけたような背の小さな女の子。ツインテールがなければバレまいと思っているのか、やけに堂々とこちらを見ていた。


  もう一人は顔の造形だけは良いだけの男で、黒いサングラスをかけて、もはや隠す気もないのか、無言でこちらをガン見している。


  「あー! 何してるんだよ瀬良、由良先輩!」


  白雪さんも驚いていたが、由良先輩であろう人物はかなり動揺していた。


  「なっ、なぜバレた。髪を下ろした姿をお前に見せたことはないというのに」


  「態度と身長がすべてを物語っているんですよ!」


  由良先輩が髪を下ろしたところで、その中学生の面影は消すのは不可能だ。瀬良はとうに諦めているのか冷静にサングラスを外し、すでにこの結果を受け入れているようだった。


  「やっぱりバレたじゃないですか。やっぱり由良先輩にもサングラスをした方が良かったのかな」


  「グラサンしているカップルがいてたまるか!! 余計怪しむわ!! 」


  結構重要な話をしていて気がするのに、暇人二名に思いっきり邪魔されてしまった。感情に任せて怒りたくなるが、面倒なことになりかねないので必死に感情を抑え込んだ。

 

  「というかなんで由良先輩がここにいるんですか? 今日は塾があって忙しいのでは」


  「確かにそうは言ったが、塾は6時からでな。忙しいのは6時以降なんだ」


  「じゃあなんで一度断ったんですか」


  「それはもちろん、お前たち二人のロマンスを見届けにだな」


  「由良先輩、さすがに怒りますよ」


  「冗談だ、そう本気で受けとるな。本音を言えば、もし白雪さんの買い物が長引いてしまうことを考えると、私は行くことが出来なかったのだ。買い物に付き合う相手が先に帰るなど失礼にもほどがあるだろう」


  筋の通った正論だけに、反論の余地がない。しかし、感情的にこのまま納得できるわけではなく、由良先輩に無言で視線を送り続けていると先輩は露骨に溜め息をついた。


  「はぁ、仕方ない。お前たちの熱々さに免じて、ここで好きな食べ物をを奢ろうではないか」


  「ちょっと待って、もしかして全部聞いてたのか。聞いてないよな」


  背中に冷や汗がダラダラと流れているような焦りが覆い被さる。それは生きた心地を忘れさせるくらいに。


 それを見越していたのか、瀬良はここぞとばかりに笑っていた。


  「いや~お盛んですね、康一くん」


  「おい、瀬良ぁ!! 」


  その発言が火花となり、俺は怒りを爆発させた。瀬良はのらりくらりと追及を逃れようと、あの手この手の屁理屈で誤魔化そうとしている。


  それを見た由良先輩は面白がっていて、白雪さんは話を聞かれていたショックにより壊れたロボットように呆然としていた。


  過ぎ去りし時はもう元には戻らない。そんな尊いことを知った一日だった。

 



 

おまけ

由良先輩のおごり


康一 (やっぱりこういうとこでは、醤油ラーメンだよな)


康一 「ところで由良先輩、何を頼んだんですか」

 

由良先輩「私は天然しらす丼を頼んだが」


(わりと渋いのを頼んでるな・・・・)


白雪さん 「私も天然しらす丼にしました」


瀬良 「あれ、康一は違うを頼んだのかい。ここの天然しらす丼は美味しいのにね。もったいない」


康一 (なん・・・・だと・・・・)


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