なんやかんやで
俺は歓談部の部室の机でぐったりと突っ伏していた。疲れて倒れてバタンキューだ。
「おい、康一起きろ」
「先輩、今日は勘弁してください。マジでしんどいです」
あの後、光山先輩と協力して新聞を全て剥がし終えたが、それに対する謝罪文を書いたりと、あまりの忙しさに殺されそうだ。
別に新聞部がどうなろうと俺には関係ないけど、協力してくれた光山先輩のために、どうしても頑張りたかったので体力を限界まで使ってしまった。
その結果、あの瓶底眼鏡女を助けることになってしまったが、池田にあれほど懲らしめられたのだから、しばらくは何もしてこないだろう。
そんなこともあって今日は部活をサボって、一人で自然公園でゆったりと過ごすはずだったんだが。
「ごめんなさい、康一君。気分が優れない時に一緒に行こうって誘ってしまって」
「いや、いいんだ白雪さん。ちょうど俺も部室で休もうと考えてたからさ」
そそくさと帰ろうとしたんだけど、引き止めてくる白雪さんの上目遣いのお願いには敵わなかった。
『康一君。私と一緒に部室に行ってくれないかな』
とか言われたら、断れないじゃん。疲れたとか白雪さんに弱音を吐きたくなかったし。
「おい、康一。この部室で寝るのは禁止だと言わなかったか」
「寝てないですよ。少しぐったりとしてるだけですから」
そのまま突っ伏していると、由良先輩が近づいてきて俺の頭に軽くチョップをしてきた。
「ここにいる時はシャッキリしろ。もし本当に体調が悪ければ帰った方がいいぞ」
「まあまあ、由良先輩。康一だって好きで疲れてるわけじゃないし、そう邪険にしなくてもいいじゃないですか」
「別に邪険にしてる訳じゃない。だがあまりだらけている者がいれば、回りがだらける空気になってしまうのが嫌なだけだ」
疲れを感じながらも由良先輩の言葉に従い、俺は突っ伏すのを止めて立ち上がった。
由良先輩は大人げないところは多々あるが、決して間違ったことを言う人ではないと信じているからだ。
「よし、それでこそ我が部員だ。じゃあ三人とも何か話すことはないか? 」
「じゃあ僕が話そうかな」
真っ先に口を開いたのは瀬良だ。最近、歓談部で話すことは変な雑談が多かったので、何を話すのか予想がつかなかった。
「もうすぐ二年生は野外実習なんだけど、どんなことをするか由良先輩、知っていますか? 」
「あの面倒くさい行事か。実質、キャンプ実習みたいなものだな。私は嫌いだったが」
ああ、その話か。今日のスキャンダル記事のせいで、すっかり忘れていた。
「あの、キャンプって何をするんですか?」
「そうだな、決められた班ごとにカレーを作ったり、テントで一緒に寝たりするんじゃないのか」
実はこういうキャンプとか、今まで経験したことがない。
中学の時に野外実習はあったけど、俺が住んでいる沫雪市では近場に海があるせいで、野外実習の時に砂浜で走らされることはあっても山でのキャンプは何をするのかは、さっぱりだ。
そういえば、料理も自分達で作るんだっけか。あまり料理とかしたことないし、少し不安になってくる。
「だいたい康一が言っていることであっているが、実際にすることといえば、体のよいゴミ拾いだな。どうやら生徒達にゴミ拾いをさせることによってキャンプ費用の削減をさせているらしい」
由良先輩はあまりいい思い出はないのか、少々言い方に私怨が混じっている口ぶりだった。
「それでも班は自分達で選べるんだし、そう悲観的になることもないんじゃないかな。少なくとも一泊二日だというこだし、それなりに楽しめると思うよ。最近、波乱が多いから何かしらの間違いがあるかもしれないね」
「はいはい、そーですね」
瀬良が、やけに俺へと視線を向けて意味深なことを言っているが、現実でそんなことがそうそう起こるわけがないだろう。・・・・たぶん。
「ということで、白雪さん。僕達と同じ班に来てもらってもいいですか? 今のところ僕と康一だけだけど、どうする? 」
瀬良のやつ、強気に誘いやがって。まあその、白雪さんと同じ班になれるなら嬉しいけどさ。
「いいんですか?転校してきたばかりの私が入れてもらっても」
「もちろん、歓迎するさ。ねえ、康一」
「あっと、その。俺も白雪さんが同じ班に居てくれると嬉しいかな」
咄嗟に言葉が浮かばず、どぎまぎと返答してしまったが、白雪さんは安心した表情で笑みを浮かべていた。
「はぁ、全くまどろっこしいやつだな。三人が決まったとして、残り二人はどうするんだ? 」
「後は陸上部の池田さんを誘うとして、残り一人はどうしようかな。出来れば信用できる人がよいのだけど」
あいつはもう厄災と受け入れるとしてあと一人か、光山先輩が同学年なら安泰だったんだけどな。まあいいか、班決めは当日に決めても問題ないと先生も言ってたし。
「最悪、当日にでも決めたらいいんじゃないか。ここで考えても考え付くのは限りがあるし」
「それもそうだね。話は変わりますけど由良先輩、野外実習で何か持っていた方がいい物とかありますか?」
「しいてあげるならウェットティッシュとか耳栓だな。ウェットティッシュは口とか手を拭いたりと使う用途は多い。耳栓はテントの中は以外と狭いから、小さな音でも寝付けないことが多いからオススメだ」
それを聞いた白雪さんは、人目でわかるほど不安そうな顔をしていた。
「あの、由良先輩。この近くで耳栓とか、ウェットティッシュを売っている場所はありませんか? 実は私、まだ野外実習の準備が終わってなくて・・・・」
「そうだな、ここの近くでダイマーという百貨店があるから、そこに行くといい。ん? そういえば白雪さんは転校生だったか、ならそうだな。康一、お前が白雪さんをそこまで案内して買い物に付き合ってやれ」
「いや、ちょっと待ってください、由良先輩。さすがにそこは女性同士で買いに行くべきではないですか? 」
確か記憶してるかぎり書いてあった野外実習のしおりには、女性用品と書いてあるため、さすがに白雪さんと一緒に買い物というわけにはいかないだろう。
「私は今日、塾があってだな、生憎、忙しくて連れていけないのだ。それともなんだ、白雪さんと一緒に買い物に行けないヘタレなのか」
仕方なさそうにしているようには見えないほど、由良先輩は意地悪そうな笑みを見せつけてくる。
すると白雪さんは期待した様子で、俺を見つめてきた。
「あの、康一くん。もし良ければ一緒に買い物してくれませんか」
その目に秘められた淡い期待を俺は裏切ることが出来ず、素直に頷いてしまう。
「決まりだな。善は急げだ、今日は歓談部は解散!さあ、とっとと行ってこい二人とも」
そう背中を押されるようにして、俺と白雪さんは部室を追い出される。なんかこういう時にからかってくる瀬良が、黙っていることが気がかりだが、今はそれどころではないだろう。
不確かな疑問が残りつつも、俺は白雪さんの買い物へと向かうことにした。




