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瓶底眼鏡の女の子はお嫌いですか?

 

  赤碕小松と名乗るその人物は、まるでこちらを値踏みするようにまじまじと観察していた。


  あいにく、こちらの第一印象は最悪だ。少しも悪びれもせずに、人の価値を試すようなことをしているのだから、たちが悪すぎる。


  「あんたが、この記事を書いた元凶か? 」


  「そうだよ。でもそれが分かったところで君はどうするのかな」


  瓶底眼鏡のレンズが厚く、マツコの目が隠されてしまっていて表情が読み取りづらい。そんな相手に中途半端に回りくどい話をするよりも、単刀直入言うべきだろう。

 

  「なら、この嘘っぱちの記事を書いた新聞を回収してくれないか?俺と白雪さんとは付き合えるだけの関係じゃない」


  「それは出来ない相談だね、佐山君。これは事実を元に作られた新聞であって、決して嘘は吐いていないよ」


  「どういう意味だ」


  こやつの屁理屈に眉をひそめるが、怒りに身を委ねてマツコの口車に乗せられないよう細心の注意を払う。


  「君と白雪さんが突然、手を繋いで教室を出ていった。それは二人が付き合っているという何よりの証拠だと思わない? 」


  つい感情的になってしまったとはいえ、うかつだったな。何かしらの行動が、SNSで簡単に晒されるご時世だということが頭から抜け落ちていた。


  だが絶対に諦めるわけにはいかない。自分の落ち度で白雪さんに失望されてしまうのだけは絶対に避けたかった。


  「じゃあ俺はともかくとして、白雪さんに言質を取ったのか?」


  「いいや、白雪さんに関しては、まだ接触はしていないからね」


  「ならそれは言いがかりだな。ただ手を繋いで教室を出たという理由だけで逢い引きと決めつけるには証拠が足りなさすぎる」


  「僕はあくまでも客観的な予測をを記事に書いただけであって、二人が付き合っているとまでは書いていないよ」


  「なら、誤解を招くような書き方をした時点で、俺にはこの新聞を撤回させる権利があるはずだが。それに新聞は真実を正しく伝える物であって、偽りを伝える物じゃない」

 


  怯むことなく、即座に言い返す。ここで黙ってしまえば、無言の肯定ということでそれを事実だと認めてしまうことになる。


  だがマツコはそこで、口を閉じて沈黙を選ぶ。事実を認めて観念したのか、目を閉じてため息をつく。


  諦めたのかと思いきや、やつはとんでもないことを口にした。


  「佐山くん、それは違うよ。ジャーナリストとして重要なのは偽りのない真実などではなく、大衆が心動かされるスキャンダルなんだよ」


  「こいつ最低だ!! 今すぐ全国のジャーナリストに謝ってこい!! 」


  正真正銘人間のクズと発覚したが、口論で勝ってしまえばこっちのものだ。正当性さえ得られればあとは回りの新聞部を説得すればいい。


  辺りを見渡して新聞部の部長らしき三年生の男子生徒を見つけた。部長にも関わらず、この騒動にもだんまりしており少々気弱そうな感じだが、むしろ好都合だろう。


  「なあ、部長さん。今日の新聞は回収してくれないか。俺はともかく、転校生の白雪さんに迷惑をかける記事を出すのは止めてほしい」


  俺は部長に対し頭を下げた。打算的な考えになってしまうが、こういう真面目な態度の方が要求を受け入れてくれる可能性が高くなる。


  しかし、部長はあまりよい顔をしておらず、挙動不審な態度だった。


  「ご、ごめん、僕にはもう権限が一切にないんだ。もうすぐ部を卒業するから、実質赤碕さんが部長のようなものなんだよ」


  「だからと言って、今みたいな横暴を許せば、いずれは新聞部が汚名を被ることになりますよ」


  苦し紛れに説得するが、部長の反応は薄い。

 

  「・・・・だって赤碕さんが居なかったら、部活として成り立たなくなるし」


  気弱そうな部長は、マツコを前にして完全に萎縮していた。そんな様子を見て、やつは一人で嘲笑っている。


  「そういうことで、この新聞は回収しないということでいいよね、元部長さん」


  その一言が決定的となり、部長は俺から顔を反らす。もう、部長はマツコの操り人形と何ら変わりはないだろう。


  まずいな、このまま回りが非協力的だと新聞を撤回させるのは、かなり難しくなってしまった。なんでこんなジャーナリストのクズに全ての実権を渡したのか、四六時中問い詰めたくなる。


  一度引いて先生に頼むべきか。いやダメだ、それだと時間がかかりすぎる。今この場であの新聞を回収させないといけない。


  まだ学校に人がそこまで集まっていないとはいえ、このままだと登校時の多い時間になってしまう。そうなってしまえば大勢の生徒に見られてしまい、取り返しがつかなくなる。


  もうダメなのか。もし通ってしまえば、俺はともかく白雪さんが悪目立ちすることになる。そうなれば、これからずっと学校内で白雪さんは作られた笑顔でしか笑ってくれないかもしれない。


  どうすることも出来ない自分の無力さに、苛立ちを隠せない。それを察したマツコは自らの勝利を確信していた。


  だがその時、遠くの方から音が聞こえた。


  それは廊下を凄まじい勢いで昇ってくる音だ。カツカツカツと0.1秒刻みでそれはこの教室内に聞こえてくる。


  やがてそれは想像を遥かに凌駕するスピードでこの新聞部へと姿を現した。


  「ちょっと康一!! この記事どういうことよ!! 白雪さんとは特別な関係じゃないって言ってじゃない!!」


  それは池田だった。かの邪智暴君の目論見を潰そうとしたメロスのように駆けつけてきた。

 

  「し、翔子!?なんで、あなたがここに」


  予想外の人物の到来に、やつの今までの平静さを失っていた。


  だが池田は俺に対してキレている。しかし、もう俺が取るべき手段は一つだけだ。

 

  「池田ぁ!! 全ての元凶はこいつだ!!こいつが根も葉もない新聞を張り出したんだ」


  「えぇ!?」


  俺はマツコに全責任を擦り付けるため、一心不乱に指を指した。その思いがなんとか通じたのか、池田はその元凶へと一直線に進んでいく。


  「翔子、違うの。これは全部誤解なの」


  怒りのオーラを身に纏う池田に恐れを感じ、その場から後ずさりをしていく。


  「へぇ、でもあなた似たようなことを昔も言ったけど、陸上部をあっさり辞めて新聞部に入ったじゃないのよ」


  池田の口ぶりからして、二人に何かしらの因縁がありそうだが、まあ俺には関係のないことだ。


  「私の康一に手を出そうとしたこと、一生後悔させてやるわ」


  別にお前の物になった記憶はないんだけどな。そんなクソみたいな戯れ言はともかく、俺は呆気に取られている新聞部達に問いかけるように話しかける。


  「部長さん、新聞剥がしてきても問題ないよな」


  「ちょっと、無視しないでよ。僕の許可なしにそんなこと・・・・」


  「マツコさん」


  「あ、や、やめて。わた・・・僕の眼鏡を取らないで・・・・」

 

  池田がマツコを押し倒し、馬乗りになって全力で嫌がらせとして眼鏡を奪い取ろうと必死になっている。

 

  「ごめんね、康一君。君や白雪さんに迷惑をかけることをしてしまって」


  二人の一方的なキャットファイトを他所に、部長さんがわざわざ謝りに来てくれた。こんな状況になっても、真摯に対応してくれて素直に嬉しかった。


  「いえ、別に大丈夫ですよ。こっちも、さっき突然大声で教室内に入ってきてすみませんでした」


  「そんな、気にしてないよ。でも康一くん、新聞を剥がすなら僕も協力するよ。五ヶ所もあるから手分けして剥がしていこう」


  「助かります。えっとその、名前を聞いてもいいですか?」


  「僕は光山(ひかりやま) (たける)。 さあ行こう康一くんもう時間が迫ってるよ」


  「ありがとうございます、先輩」


  なぜだろう、光山先輩の優しさに涙が出そうになってくる。こんなに真面目で思いやりが先輩が存在するなんて思わなかった。


  「助けてぇぇえぇ、誰か助けてぇぇえぇ。」


  誰かの悲鳴が聞こえるが、そんなことに構う暇もなく俺は光山先輩と協力して新聞を撤回するために、急いで掲示板がある場所へと走り出した。

 

  因果応報、その言葉の意味を胸に刻みながら。

 



 

 





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