第一話 予兆
その日は、いつも通り電車に揺られてるだけだった。朝が苦手な僕は、半分無意識の状態で面白いアプリを探していた。
(暇つぶし程度のもが見つかればいい)
そんな思いで探していると、一つのアプリが目に留まる。
「Greed warfare<<強欲対戦>>......?」
吸い込まれるようにダウンロードボタンを押し、アプリを起動する。画面には一言。
「箱庭を破り、血の契約を」
と、表示されている。それから何も起きない。
(なんだこれ?固まってる......。まだサービス開始してないのか。)
ちょっとがっかりしてスマホを閉じ、車内や外の風景を眺める。ぼんやりとしか映像を映さない目に、一つだけはっきりと映るものがある。それは、僕がいつも何となくめで追いかけてしまっている女の子だ。
その子は、万人受けするような見た目じゃないかもしれない。よく「恋は、人を盲目にする。」というが、実際その通りなのかも。といっても、これは恋なんて大それたものではなく、一種のあこがれに近いような感情だ。他人とは混じりえない存在感を彼女は放っている。
まあ、どうせ卒業したら見ることもなくなるし、今ぐらいはいいだろう。と、思いながら僕はもうしばらく風景と浮き出ている彼女を眺めていた。
学校で何度か開いてみたけど、画面には同じ言葉が映っているだけだった。自動ドアが開く。ぼくが下りるのと同時に、隣の車両から朝の彼女が下りてくる。
(めずらしい。いつもはこの時間に会うことはないのに。)
五分ほど自分の家に向かって歩く。彼女も帰りが一緒なのか、僕の前を一定のリズムで歩いている。これじゃあ、まるで僕がストーカーみたいじゃないか。そんな誰も気に留めないようなことを考えていたせいか、僕は足元にある小石に気が付かなかった。
体は、不意に起こったことに反応できず自分ではコントロールできない。ただ、生物としての生存本能が手を前につこうとして、命令を出す。そして僕は、固い地面に......。
(ん?なんだこの感触。柔らかい。)
きっと、この映像が動画サイトに公開されていたら「は?」というコメントであふれかえっていただろう。偶然猫を追って振り返った彼女の胸を、僕は触っているのだから。
「こ、これは......。違うんだ何かの誤解だ!」
幸い、人気はない。しかし、この子が叫べば、さすがに人に見られてしまうだろう。
(頼む。叫ばないでくれ!)
無理だとわかっていても、願わずにはいられなかった。だが、その思いは虚しく散り、彼女は声を上げ――。
「あれ?」
彼女は虚ろな目をしながら、声も発さずにどこかへ去っていった。
(何が起きたんだ?)
僕は状況を理解できなかったが、大問題にならなかったならそれで良かった。彼女のことが気になるが、また別の厄介な問題が起こる前に、早々に立ち去ることにしよう。
そういえばあの時スマホが光ったような......。